第22話アイスクリームを作りました

 小屋の中は意外と広く、清潔感のある厨房のような作りになっていた。

 外から見た時より明らかに広い。

 恐らく魔法によるものだろう。


「私はこう見えてお菓子作りが好きでねぇ。この氷饅頭も私がこさえた最高傑作なんじゃよ。ここはお菓子工房になっているから、道具は好きに使えばいいさ。さて、それじゃあ私の氷饅頭を超える菓子を作れるもんなら作ってもらおうかのう? ひっひっ」


 ローザは俺をライバル視しているのか、ぎらぎらと目を光らせている。

 どうやらお菓子作りには相当の自信があるようだ。

 クロのやつ、面倒くさい事を言いやがったな。

 これじゃあヘタなものは出せないじゃないか。

 鞄の中にはクッキーしかないが、こんな手抜きなもんだしたら鼻で笑われるのがオチである。


 ……いや、でもクッキーは使えるかもしれないぞ。

 あれに入れればいいアクセントになる。

 ついでにフルーツもあるし……うん、いけるかもしれない。

 ふふふ、驚かせてやるぜ。


「……だが足りないものがあるな」


 あれを作るには氷が足りない。

 他の材料はあるみたいだが、氷だけは魔道具でも生成出来ないのだ。


「なぁローザ、氷は出せるかい?」

「おいおいユキタカ、雪の魔女相手に何を言ってるんじゃ。そのくらい出来ないはずがあるまいよ。私の使い魔でも余裕で可能じゃよ。……のう雪だるまよ」


 ローザの言葉でキッチンにあった雪だるまがカタンと揺れる。

 カタカタと頭を動かしながら、首を回してこちらを向くとノリを貼り付けたような顔だった。

 その顔が、勝手に動いてにっこり笑った。


「よろしくなのだ」

「にゃーーーっ!? 雪だるまが喋ったにゃーーーっ!?」


 驚いたクロが跳び上がる。

 喋る猫がいるのに今更な気もするぞ。


「この子は私の使い魔さ。ほら雪だるま、氷を出しておやり」

「お安い御用なのだ。ふぅっ!」


 雪だるまが置いてあった器に息を吹きかけると、空中に氷の結晶が生まれ落下する。

 おおっ、何もない所から氷が出来たぞ。

 カランカラカラと器は氷でいっぱいになった。


「ありがとう」

「気にしなくていいのだ」


 雪だるまはそう言うと、静かになった。

 これ、どうやって動いてるんだろう。

 そこはちょっと気になるな。

 ともあれ、氷があればあれが作れる。

 まずは容器の中に卵黄と砂糖、練乳にバニラエッセンスを入れ、混ぜていく。

 クリーム状になったその中に砕いたクッキーとジャムを投入。


 ここで氷の出番である。

 氷に塩をふりかけ、ゴリゴリとかき混ぜた。

 こうすると氷の温度が一気に下がるのだ。

 白い冷気を上げ始めた氷の器に、クリームを入れている容器を入れ、混ぜていく。


 最初は柔らかかったクリームが徐々に硬く、重たくなってきた。

 よし、完成だ。

 それをスプーンですくい、皿に盛って差し出す。


「ほう、なんじゃこりゃあ」

「アイスクリームだよ」


 言わずと知れたアイスクリームである。

 白いバニラ生地のクリームの中に、クッキーチップとフルーツが入っていて見た目も良い。

 ローザもアイスクリームを見たことはないようである。


「あいす……? ふむ、まぁ食べてみるかい」


 スプーンですくって一口、食べたローザは目を見開いた。


「こりゃあ……! 美味いじゃないか! こんなもの食べた事がないよ!」


 やや大げさとも言える仕草で、ローザは声を上げる。

 そしてパクパクと食べ始めた。


「うん、うん、うん、これは私の好みじゃ! 冷たくて甘くて美味しいのう! 中に入っておるカリカリしたものや、フルーツの食感も良い!」


 一心不乱に食べるローザを見て、ため息を吐く。

 よかった、どうやら気に入ってくれたようである。


「ユキタカ、ボクも欲しいにゃ!」

「あぁ、もちろん用意しているぞ」


 クロの分も渡してやる。

 クッキー多めが好きなのだ。

 早速かぶりつくと、ガリガリ言わせながら食べ始める。

 よし、俺も頂くとするか……と、考えた時である。

 ふと背後から視線を感じた。

 じっと俺を見ているのは、雪だるまだった。


「……何か用か?」

「よかったら自分にも食べさせて欲しいのだ」


 雪だるまはノリを貼り付けたような顔でそう言った。

 いや、食べさせろと言われても……口はどこにあるんだ? そもそも消化できるのか?

 様々な疑問が浮かび、困惑する俺を見たローザは笑う。


「ひっひっ、大丈夫だよ。その子は使い魔だからね。普通の食事も出来るようになっている。ちなみに雪だるまは私よりグルメだよ?」

「そ、そうなのか」


 何となくプレッシャーを与えられた気がした。

 ともあれ俺は雪だるまにアイスクリームを差し出す。

 雪だるまは両手(身体に突き刺さった木の枝)で器用にアイスクリームを持ち、スプーンですくい取って口に運んだ。

 ノリのような口が分かれて開き、アイスクリームはその中に吸い込まれて消えた。

 うーん、マジック。

 途端、雪だるまの顔が緩んでいく。

 まん丸でボタンのようだった目が、いわゆる漫画的笑顔のように、にっこり弧の字に曲がった。

 どうなったんだこの雪だるまの身体は。


「これは素晴らしいのだ! 氷菓子とは思えないクリーミーな食感、その中にスパイスとしてサクサクとした小麦菓子とフルーツがよくマッチしているのだ! こんな美味いものは初めて食べたのだ!」


 おおっ、語録もすごいぞ雪だるま。

 クロなんて美味しいにゃーしか言わないからな。

 雪だるまは器用にアイスクリームを食べていく。


「ふぅ、結構なお手前だったのだ」

「そりゃどうも」


 丁寧に手を合わせる雪だるま。

 礼儀も正しいのか。なんて高性能なんだ。


「雪だるまにここまで言わせるとはねぇ。ユキタカ、あんたの菓子の方が上だと認めるしかないようじゃ。うん、私の負けじゃよ」

「お、おう……」


 いつの間に勝負になっていたのだろうか。

 そしていつの間に勝ったのだろうか。

 まぁみんな満足したようだし、よかったということにしておくか。

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