第18話氷の城に行きました

 翌日、目が覚めると雪はすっかり止んでいた。

 外に出ると家を収納し、鞄に戻す。


「とりあえずヘルメスの所へ戻らないとな……えーと、どっちだったか……」


 こんなところにまで来るとは思わなかったから、どこから来たのかよくわからん。


「ユキタカ、ヘルメスの所まで戻りたいのかにゃ?」

「あぁ、わかるかクロ?」

「魔力の痕跡を辿ればいいだけにゃ。……くんくん、こっちだにゃ」


 クロはボードに乗ると、さっさと滑り始める。

 かなり離れているはずなのに、よくわかるな。

 なんやかんやで結構有能である。

 俺もボードを履いてそれに続いた。

 辺りはなだらかな雪原なので、特に苦も無く移動できる。


 しばらくボードで滑っていると、見覚えのある風景が見えてきた。

 大木には半分雪に埋もれたヘルメスが繋がれていた。


「うわ、しまったなこりゃ……」


 やはり屋外に乗り物を放置しちゃいけないな。

 やむを得なかったとはいえ、反省だ。

 俺は雪を除け、ヘルメスを引っ張り上げた。

 うん、エンジン部分に雪は入ってないな。

 念のため精霊刀であっためて、水分を蒸発させておこう。

 電気機器はたとえ内部に水が入っても、慌てて電源を入れてはいけない。

 完全に乾燥させれば元通り使えるようになるのだ。

 とりあえず処理をして、ヘルメス完全復活である。

 さて、街に戻るとするか。

 俺はクロを乗せ、街へ向かった。


 ――街へ着いた俺は街に魔女について調べることにした。

 雪原に城を構える魔女、一体どんな人物なのであろうか……と。

 何せ相手は魔女である。簡単にわかるとは思わない。

 丸一日かかるかもしれないな……そんな事を考えながら、まずは酒場に行きマスターに尋ねる。


「魔女? あぁローザさんのことかい? それなら表通りの馬車に乗れば城まで連れてってもらえるよ」


 だが予想に反し、あっさりと教えてもらえた。

 拍子抜けである。


「ローザさんの城は有名だからね。観光地になってんだよ。あんた、観光客だろ? あの城には毎日観光客がツアー組んで押し寄せてるよ」

「そ、そうなのか」


 どうやら魔女はこの街では有名なようである。

 マーリンは引きこもりだったから魔女ってそんなものかと思っていたが、観光客を招き入れるような開けっぴろげな魔女もいるんだな。

 まぁそういう事なら会うのに苦労はなさそうだ。

 ちょっと挨拶をしに行ってみるか。


 大通りに出て辺りを探すと、氷の城行きの馬車乗り場はすぐに見つかった。


「すみません、ここに乗れば魔女に会えますか」

「あぁ、魔女ローザの住まう氷の城まで一直線だ。代金は銀貨一枚だよ」

「お願いします」


 俺は代金を払い、馬車に乗せてもらう事にした。

 ちなみにヘルメスはすでに鞄に収納済みだ。

 他に客も十人ほどいる。

 意外と人気なようだ。

 まぁ氷の城なんて、観光客としては是非とも行ってみたい場所だもんな。

 マーリンの件がなくても行ってたと思う。


「氷の城、楽しみだねー」

「魔女ローザはとても美人らしいぜ」

「土産の氷饅頭も美味いらしいぞ」


 他の乗客も楽しみにしているようだ。

 ていうか土産もあるのかよ。

 本当に観光地なんだな。

 馬車に揺られること一時間、ようやく窓の外に氷の城が見えてきた。


「おー、近くで見ると綺麗だな」


 丁度晴天だった事もあり、氷の城は太陽の光に照らされて輝いている。

 溶けないのは魔法なのだろうか。

 他の客らも簡単な声を上げていた。

 長い坂道を登ると、ようやく氷の城に辿り着く。

 我先にと客らが降りるのを確認し、最後にゆっくり降りた。

 慌てて降りて、転んだりしたら危ないもんな。

 俺は一番最後に降りた。


 他の乗客たちが氷の城を見上げワーワー騒いでいると、隣にある小さな小屋から一人の爺さんが出てきた。

 作業着に長靴のしわくちゃの爺さんで、どうやら管理人のようである。

 足元はフラフラで今のも倒れそうだ。

 おいおい、大丈夫かよ。


「皆様、ようこそお越しくださいましたじゃ。さぁさ、どうぞ見ていって下さいじゃ」


 爺さんはそういうと、ニコニコしながら氷の城へと歩いていく。

 小屋には氷の城入場料、銀貨一枚と書かれてあった。

 当然、この場の者たちは誰一人として金を払っていない。

 にも関わらず、氷の城を案内しようとする爺さんを見て、客たちは互いに顔を見合わせる。


「……金、払わなくていいのかな?」

「あの爺さんボケてるんじゃあないか?」

「儲け儲け、タダでついてっちゃおうぜ」


 そんな事を言いながら、みんなは爺さんの後はついていく。


「ユキタカ、どうするにゃ?」

「うーん、勝手に入るのは気が引けるし……払っておこう」


 他の客のことまでは知った事ではない。

 注意して逆恨みされても面倒だし、俺は小屋の箱に銀貨を一枚入れ、爺さんの後をついて行くのだった。

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