第4話魔物肉は美味しかったです
「それよりゴハンにゃ! 腹減ったにゃん!」
クロは俺の足に擦り寄り、にゃーにゃー鳴き始めた。
「はいはい、わかったよ。ちょっと離れて待ってな」
「にゃ!」
クロは俺から離れると、近くの岩の上に飛び乗った。
食べたきゃ取ってこいと言ったのは俺だしな。
とりあえず作ってやるとするか。
鞄に手を突っ込み、中を探す。
確かこの辺に……あった。
取り出したのはキラキラ光る短剣、精霊刀という魔道具である。
こいつは地水火風、四属性の精霊の力が宿った短剣で、念じるままにその力を使うことが出来るという便利なものだ。
俺が今まで、一番世話になっているものである。
「まずは解体だな」
精霊刀を振るうと風が巻き起こり、グレイウルフの皮を剥ぎ血を抜いていく。
風の精霊の力により、部位ごとの塊肉に切り分けられた。
魔物の肉とか食べられるのか不安だったが、綺麗で美味そうないい肉じゃないか。
よし、この赤身をステーキにしよう。
俺は塊肉を一つ取ると、今度は地の精霊に呼びかける。
すると目の前に岩石の板が出現した。
俺はそれをまな板代わりに、肉を分厚く切り分ける。
表面に切り込みを入れると肉が柔らかくなってなお美味い。
今度は火の精霊の出番だ。
十分に加熱した岩石の上にステーキを置き、一気に過熱していく。
三十秒焼いてひっくり返す。そしてまた三十秒焼いて、ひっくり返す。
最後に蓋をして、三十秒待つ。
その間に鞄から取り出したのは、ステーキソースだ。
マーリンの元で料理をしていた俺は、暇を見つけては色んな調味料を作っていた。
この世界にも醤油や塩コショウ、酒やみりんのようなものはあり、マーリンが取り寄せてくれたのだ。
それを更に調合し、色んなソースを作っている。このステーキソースもその一つだ。
熱々のステーキにソースをかけると、ジュワっと白い煙が上がりいい匂いが辺りに漂う。
クロがよだれを飲み込む音が聞こえた。
「待たせたな」
「にゃあ!」
俺が肉を切り分けると同時に、クロが岩山から飛び降りてくる。
皿の上にステーキを乗せてクロの前に置くと、尻尾をぶんぶん振りながら肉を前脚で引き寄せ、何度も念入りにフーフーした後、噛みつく。
「美味いにゃ!」
そう言って一心不乱に食べていく。
がつがつと美味そうに食べているクロを見ると、俺の腹もぐぅと鳴った。
俺も食べるとするか。
残ったステーキを精霊の短剣で突き刺し、一口に頬張る。
おお! 美味い!
少し筋張っているが、濃厚な肉の旨味が噛みしめるたびに広がっていく。
「こりゃ美味い! 今まで食べたことのない肉だな」
「魔物の肉は魔力を帯びててとっても美味しいにゃん。ユキタカは魔物の肉、初めて食べたにゃろ?」
「おう、こんなに美味いとは思わなかったぜ」
マーリンの家で食べていたのは、普通の動物の肉ばかりだった。
何故か家の近くには魔物は近寄ってこなかったし、そもそもマーリンはあまり肉を食べなかったからな。
「各地の魔物肉を食べるのも、旅の醍醐味にゃ。ちなみに基本的には強い魔物ほど美味いにゃん」
物騒なことを言いながら舌舐めずりをするクロ。
言っとくけど、その為に危険を冒すつもりはないからな。
「ボクが勝手に仕留めてくるから、ユキタカはただ料理してくれればいいにゃん」
「……へいへい」
クロが取ってきてくれるならまぁいいか。
そんなこんなと言ってるうちに、あっという間にステーキ一枚なくなってしまった。
「おかわりにゃ!」
「はいはい」
クロはこう見えて結構大食いだからな。
この調子だとまだまだ食べるぞ。
俺は新たに肉を切り分け、焼き始めるのだった。
「ふぃー食った食った」
「満足にゃあ」
結局、クロと合わせてステーキ五枚くらい食べてしまったな。
ポン酢と味噌ダレとステーキソースのローテーションで飽きずにいただけた。
魔物の肉、超美味ぇ。
満腹感に浸りながらも俺は余った肉を鞄に入れた。
鞄の中は入れたものごとに区切られており、他の汚れが付くことはない。
時間も止まっているらしく、劣化もしないとか。
「骨と毛皮はどうするか……まぁ入れておこう」
スペースはまだまだあるし、何かに使えるかもしれない。
捨てるにはなんかもったいないし、もしかしたら売れるかもな。
念のため、ぽいぽいっと鞄の中に放り込んでおく。
さて、改めて片付けをするか。
ここからは水の精霊の独壇場だ。
精霊刀から生まれた水が、汚れた食器や俺の手を洗い清めていく。
この水は特殊で、油汚れだろうが何だろうが綺麗にしてしまう。
食器についた水は風の精霊に乾かしてもらい、片づけ完了である。
「精霊さんありがとな。残りは食べていいぜ」
礼を言って精霊刀をステーキにかざすと、淡い光と共にあっという間になくなってしまった。
いつも料理する時は少し多めに作って、精霊さんたちに食べてもらっているのだ。
精霊さんたちも最初の頃はあまり乗り気じゃなかったようだが、最近では俺の料理が気に入ったのか、今では率先して協力してくれる。
「いやーそれにしても便利な魔道具だ。一家に一台って感じだな」
「精霊刀を料理に使うなんて人間なんて、始めて見たけどにゃあ」
クロは呆れているが、むしろこんな便利調理器具もないと思う。
十特、いや百特包丁だぜ。
「本来は精霊の力を借りて魔法の
くあーっと興味なさそうに大あくびするクロ。
どうやら腹一杯になって眠くなったようだ。
「ボクもう眠いにゃ。ユキタカも寝るにゃ」
「そうだな……おいまだ寝るな。シャワーを浴びてからにしろ」
「うにゃあ……」
余程眠いのか脱力するクロを抱きかかえ、家の中に入る。
結界があるから魔物が襲ってくることはないだろう。万が一来てもクロがいるから安心だ。
俺も一日中ヘルメスを走らせて限界だ。ふあーあ。
大きく伸びをしながら家に入ると、シャワーを浴びて布団に入る。
クロは俺の上に乗り、丸くなった。
「おやすみ」
「……ZZ」
すでにクロは寝息を立てている。
疲れているのは俺も同じで、あっという間に眠りに落ちるのだった。
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