第6話 始動

【今回の物語を語る前に著者からいくつかの設定ミスや描写不足による訂正と謝罪がございます。(陽炎邂逅)にて痛みを伴う疲れによりヴィレアが休憩を提案する場面がございますがその後と今回行う描写で矛盾が発生してしまいました。そのため訂正として前述のシーンは痛みは無かったのに突然足が動かなくなったので蟲骸に背負われて湖へ休憩をとりに向かったという描写が適切であった事をまずお詫びいたします。

そして次に突然存在が消失したかのように触れられなくなった《槍》についてですが、現在公開している情報を元に今後の展開を書くと人前で槍背負ってほっつき歩く少女になってしまい絵面的に違和感がある事に前話の投稿直後に気づいたそうです。そのため補足設定として少女(幼女)にされた後(3つの呼び出せた武装の行方は今回描写いたします)最初に少女サイズまで縮み、その後移動の際に透けるような緑色の結晶そのもので出来たようなネックレスとなって現在ヴィレアの首にかかっているという設定を描写不足で後付けとなってしまいましたが説明させていただきました。今回はこのような謝罪からのスタートとなり申し訳ございません。それではこれより本編へと移ります。今後は描写忘れの無いよう見直しの時間を増やすつもりです...】

ここはとある街。街と言っても普通の街では無い、表向きは誰もが羨みそこで暮らしたいと考えるような大都市である。そんな都市から今回のお話は幕を開けます。

前回空腹で倒れたザフィラはヴィレアに半ば引きずられる形でショッピングモールへと向かったのでした。

「お前の指示通りに移動してきた訳だが...この建物で大丈夫...鼻から出血しているな、何処かで怪我でもさせてしまったか?もしそうなら今すぐ治療を...」

今まで背中に背負うようにして運んでいたザフィラが何故か鼻から大量の血を流しているのだ、彼女が心配をするのも無理は無い。一方当のザフィラはというと...

「(あ"ぁ"〜"ウ"ィ"レ"ア"ち"ゃ"ん"の"匂"い"ぃ"ぃ"ぃ"〜"空腹と疲れで足が動かなくなった時は女の体を恨んだけど...スゥ〜〜〜〜〜〜〜......は"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"〜"♡"合法的にヴィレアちゃんを補給出来るから今はもう感謝感謝だぁ...もう最高、一生こうしてたい、俺ここに住む。ここで一生ヴィレアちゃん補給して...)」

約5秒、それはザフィラがヴィレアに話しかけてから話しかけられたことに気づくまでにかかった時間である。

「...ハッ?!い、いや!大丈夫大丈夫!これはその...ほら、空腹?空腹!空腹のせいだから!ね?ご飯食べたら治るから!?」

清々しいほどにまで嘘である。

だがつい数時間前に人間になったばかりの純粋なヴィレアがそれに気づけるはずもなく...

「そうか、それなら早くふーどこーと?とやらへと向かわなければな...それにしても」

流石に大勢の人だかり真っ只中で幼女の髪に顔を埋めながら引きずられる訳にもいかないと判断し慌てて鼻血を拭うザフィラへヴィレアは1つの疑問を問いた

「ここに辿り着くまでにもいくつも空腹を満たすことが出来そうな施設はあっただろう?何故わざわざこんな場所まで?」

「確かに今まで見てきた飯店でもお腹は満たせるけども...フッフーン、ここのフードコートみたらヴィレアちゃんもビックリすると思うよ〜?」

そういうとザフィラはとても上機嫌に歩き始めた。不思議に思いながらもついて行くとそこには

「ジャーン!どう?このよりどりみどりなお食事空間!ヴィレアちゃんもワクワクするでしょ?」

見渡す限り食べ歩く人々、もしくはテーブルをさまざまな食べ物で埋めつくし食べながら会話をする家族づれ、そんな光景が広がっていた。それは1つの階層全てを飯店が埋めつくしているのではないか?とすら思える程の光景でありその光景を初めて見た人間ならば高揚し、例えるならば童心に帰るような感覚に陥るであろう。

が、それも常人であればの話。

「人が他の階に比べてやけに多いとは思うが...そもそも私にはお前の言うワクワクというモノがよくわからない。」

見た目と精神構造があまりにも掛け離れ過ぎた彼女に効果は無いのであった。

「アレ?思ったより反応が...まぁとにかく、ここで売ってる料理はどれも美味しいし何より食べ物であればなんでも揃ってるからやっぱりお腹が極限まで空いてる時はここに来るって決めてるんだよね〜♪それじゃあついて来てついて来て!オススメの料理紹介するからさ!」

そう言うと圧倒的な人混みとただでさえ多すぎる程の店を迷う事無く、時にその店々のオススメなどをヴィレアに話しながら驚く程の速さで目当ての料理を買い終え2人で席に着いた。

「さぁ!どれでも好きな物食べて食べて!辛いのもしょっぱいのもとことん美味しいのも甘いのも!なんでも揃ってるからさ!」

実際テーブルに置かれた料理は大半のラーメンやステーキ、アイスクリームなどのフードコートで見かけるような物も有れば、本来地方まで行かなければ味わえないような料理まで、到底2人の少女が食べ切れるはずのない夥しい種類の料理が並べられていた。

ザフィラはヴィレアの食の趣向がどのような物であったとしてもその中に最低でも必ず1つは彼女が思わず笑顔になれる、そんな料理が有ることを確信していた。

だがその期待には1つ大きな見落としがあった。そう、

「いや、私に食事は不要だ。」

「......へ?」

そもそも用意した料理を彼女が1つも食べ無いという可能性を微塵も考慮していなかったのである。なぜ考慮出来なかったのか?それも当然、ここまでこの物語を読んでくださった皆様にはもうおわかりであろう、そう、そもそもザフィラはヴィレアが元機械である事を未だ知らないのである。

「いやいやいや!?食事はちゃんと取らなきゃダメでしょ!?お父さんかお母さんだって食事してたでしょう!?」

「?お前は何を言って...そうだった、生物は基本食事を取らなければ活動できないんだったな。」

ザフィラにとってとても衝撃的な発言をしたヴィレアであったが直後透き通るような緑色のネックレスを手の平の上にかざした。そしてネックレスを手の平から動かした後には驚く事にネックレスと同じ色の、手のひらに乗るくらいの大きさのカプセルのような物が置かれていた。そして彼女はそれをさも当然のごとく口に入れ数回ほど噛み砕いた後飲み込んだ。

「食事の事なら私は大丈夫だ、コレで活動するのに必要なエネルギーは全て得られる。」

その光景をみて呆然としていたザフィラであったがしばらくして口を開いた

「食事は要らないんだね...そっか...美味しいのに...」

心底残念そうに呟いたザフィラであった

「(一度で活動するのに必要な栄養全部取れるカプセル...どんな味がするんだろうか...)」

しかしそれと同時に好奇心と探究心も湧いていた。そこで思い切って頼んでみる事にした。

「...それはそうと、そのカプセル俺も食べてみていい?」

「少し待て...これで良いか?」

そう言って先ほどと同じ方法で同じようなカプセルを手に取り渡される。

どんなシステムでコレが出てくるのだろうか...まぁ今はこのカプセルを味わってみるとしよう。

「ありがとありがと、それじゃあいただきますっと...」

そういうと同時に口へ放り込み噛み砕く、直後口の中に広がる独特な風味

まるで粗挽きのコショウと山椒をそのまま口の中に放り込んだかのような刺激、しかしその刺激の中からほのかに香る薬に似た異質な甘さとそれを引き立てる海水のような異常なまでの塩気、そしてそれら全てを無理矢理繋ぎ止めるかのように鼻腔をくすぐる強烈な香水の原液と形容すべき豊潤な香り!

...それらいっぺんに押し寄せた味の暴力を認識した瞬間にはすでにザフィラは激しく咳き込み嗚咽を漏らしていた。まぁ、つまるところそのカプセルは見た目の芸術的ともいえる美しさからは信じられないほどにまで不味いのである。

「ゲホッ!ゴホッゴホッ...」

突然咳き込んだ事により周囲の人々から視線が集まる、

「...ヴィレアちゃん...よくこんなの食べれるね...」

先ほどの痴態を誤魔化すかのように、そして先ほどの衝撃を少しでも忘れようと涙目で大急ぎでクレープに手をつけながらザフィラは呟いた。

「...?私が食べても特に身体に異常は無いのだがな...」

心底不思議そうに首を傾げながらもう一欠口に入れ噛み砕きそして飲み込む。依然ヴィレアは平気な顔をしている。

それを見てザフィラは半ば顔を引きつらせた。

(...この子、異常なまでに世の中への理解が無いことといいこの味覚障害なんてレベルじゃない味覚といい...この後一人にして大丈夫だろうか...本気で心配になって来たな...『白刃』と俺の身体が元に戻ったらあの子はほっといて帰るつもりだったけど、もういっそあの子と一緒にずっと...)

そんな考えに至りかけた事に気づきハッとし頭を振る

(...いや、『あの人』を見捨てる事、それだけは絶対に出来ない。少しかわいそうだし...正直ヴィレアちゃんと一緒に居たいけれどそれも『白刃』の問題を解決するまで、とにかくヴィレアちゃんが十分やっていけるくらいまでの手伝いが終わったら俺だけでもあのカブトムシの『雇い主』とやらを探して...

...いや、でもヴィレアちゃんと一緒にソイツを探せば全部解決するしそもそもヴィレアちゃんが『白刃』を持ってる訳だし、何より『雇い主』の情報を一番持ってるあのカブトムシ、奴と接触する機会が一番多いのはヴィレアちゃん...アレ?これもしかして...)

そしてとある結論に至る

(...ヴィレアちゃんと別れる利点、無くね?)

一瞬その結論に顔を輝かせ喜びそうになる、が、別の思考が湧いてくる

(いや、『あの人』は絶対に酷い目にあって苦しんでるはずだってのに俺はこんな幸せになって良いんだろうか...?もっと辛い道だろうと覚悟して色々探して試した方が...でも今の俺にとっての最適解が一番幸福とよべる選択な訳だし...俺は一体どうすれば...)

「...様...お客様?」

呼ばれているのは自分の事だと理解し周囲を見渡す、考え事をしながら食事をしていたせいかあれだけあった料理...その半分以上はスイーツであったのだが...は全て無かった。どうやら無意識の内に全て食べ終わり、それに気づく事なく口に運ぶものを手探りしていたらしく、これまた周囲から冷たい視線を浴びせられている事にやっと気付いた。そんな俺をヴィレアちゃんはこれまた心底不思議そうに見つめていた。

その眼差しは決して冷たいものでは無かったけど...純粋な眼差しがむしろ痛い...いっそ罵倒された方がまだマシだ...

再び周囲の視線から逃れるようにして大急ぎで後片付けを終え、これまた大急ぎでショッピングモールを後にした。

「さて、お前の食事も終わった事だ、この街の汚点とやらの元に案内してもらおうか。」

そうだった、食事や考え方ですっかり忘れていたがヴィレアちゃんの目的はそれ1つだった。

ヴィレアちゃんのあの時の目は嘘や冗談を言っているような気配は一切無かった、本気であの企業を潰すつもりなのだろう。

だがそれは連中の権力がどれ程強大な物なのかを知らないからだ、奴らが今まで何をしてきたのか、その証拠を消すためにどんな手段でもいとわないって事を知らないからだ。

俺が知ってる範囲すら氷山の一角とすら呼べない程度の浅知恵だ、ヴィレアちゃん1人でどうこうできるような問題じゃない事だけは明らかだ。ヴィレアちゃんを説得出来るとは思えないけど...今は少しでも時間を稼いで説得できる可能性を...

「いやー...そうしたいのは山々なんだけどね?その...さっき色々食べ過ぎてお財布が空っぽになっちゃったから...その、先に銀行に寄ってからでもいい?」

苦し紛れの言い訳にしては上出来だろう。口座なんてそんな物俺には無いんだけども...

「...まぁ必要な物なら仕方ない、先にそちらを済ませよう。」

その返答を聞いて一先ず安堵する

(取り敢えずはこれで良い、それから後は適当な言い訳を続けて歩き回ればそのうち疲れて...少なくとも今日だけでも諦めてくれるだろう。)

そんな事を考えながら...当然出来る限り遠回りに向かいながらも目的の銀行まで残りわずかな所までたどり着いた。

その銀行は中心となる都市に古くから佇むにふさわしい様相をしており、その内部は銀行とは思えぬほどの広さを誇っている。当然多くの国の役人や著名人などが利用しており、この銀行の金庫を借りる事が1種のステータスとして語られる程のものであった。

そんな建物の周囲は当然人で溢れ、その日もどこを見渡しても途切れる事なく人が行き交い、車はいつものように渋滞を起こし、ぱっと見はいつもどおりの日常となんら変わらぬ光景であった。

だが目的の銀行の正面入り口の様子がそれなりに離れていても異常である事に気づく、道行く人々は誰一人銀行内に入ろうとせず、入り口前で中を覗いている者もいれば内部を撮影している者もいる。そして銀行内部から出てくる者も誰一人として居ない。

最初はどこぞの芸能人でも訪れているのか?と楽観的な予測を立てたがそれにしては妙だ、もしそうなら銀行内から出てくる者がいないのはいいとして誰も入ろうとすらしないのは明らかに不自然だ。そして何より周囲に人だかりをつくる野次馬達以外の人々があからさまにその周囲を避けるようにして駆けてゆく。

...嫌な予感がして来た。

「...ヴィレアちゃん、ちょっとここで待っててね。」

そう言って人だかりへと向かおうとしたまさにその時、突然人だかりが散らばり始めた、誰彼構わず押し合いながら我先にと銀行とは反対方向へと彼らは走り始める。

「まさか...ッ!」

瞬間先程まで人だかりの中心地であった場所が激しい爆音と共に炎に包まれる、建物に大きな損傷を与える程の衝撃では無いにせよ、生身の人間が至近距離で喰らえばどうなるか、それは眼前の惨禍が物語っていた。逃げ遅れた人々の背は黒く焼け焦げ痛みに呻き声をあげる者、もはやそれすらあげる事の出来なくなった者、その中に混じって幼い子供が母親を呼ぶ声すら聞こえてくる。

「...ッ!捕まって、ヴィレアちゃん!早く!」

突然の出来事に反応が遅れるもその場ですぐさまヴィレアの手を掴む。

その場はまさに混沌と化し、皆叫びながら逃げ惑う。そんな中銀行の中からは...当然と言うべきか、恐らく混乱を生み出した元凶であろう武装した者達が数名現れ、先程の爆風で動けなくなり、そしてまだ息のある者達を銀行内へと引きずって行く。

(俺達のいる場所から銀行前まではそれなりに距離がある。しかも逃げ惑ってる奴らが壁となって俺達が狙われる事は無いだろう。しかしそれも今すぐに逃げ出せばの話だ。逃げ遅れてしまえば奴らが次にどんな行動に移るかは予測がつかない、最悪の場合俺達が標的とみなされる可能性も少なからずある...)

ザフィラはそう結論付けた。

(ここから人波に紛れて走り続ければいずれは安全な場所まで逃げ切れるだろう、あの集団は警察隊が鎮圧してくれるのを祈るしか無いけど...)

そして掴んだヴィレアの小さな手を離すまいと握り締め走り出した。

が、その場から移動する事はほとんど出来なかった。ザフィラを阻んだのは離すまいと掴んだ、彼女が守ろうとした小さな手の主であった。

「っとと、ヴィレアちゃん!突っ立って無いで早くここから逃げ...」

切羽詰まった状態での想定外の事態に焦りを抱きながらも発したその言葉はそこまで言った所で遮られた。

「あの連中のしている行為...アレはこの街で許容されている事なのか?」

「まさか!いくらこの街といえど表向きは治安最高の理想都市だよ?銀行乗っ取って何をしでかすつもりなのかは知らないけど...あそこまで派手にやってるんだし『旧108山道』送りは確実な程の大規模な《犯罪》さ。」

「そうか、連中のしている事は《罪》なのだな...」

目の前で起きた一連の出来事、それを引き起こした者達は裁かれるべき存在である事を確信する。

「そうならば...」

無意識のうちに右の手はネックレスを、左の手はまるで初めからソレに成っていた事を知っていたかのように服の下部に飾られたアクセサリーを掴みそして...

「私の『使命』を全うしよう。」

「まぁこの街の警官隊に任せておけば...ッてヴィレアちゃんッ!?」

目を離していた一瞬の間の出来事であった。

掴んだ物を引きちぎると共に彼女の足は向かうべき方向へと走り出す。そして

ガシャァァァァン!

銀行の正面入り口のガラスを突き破り内部へと突入した。その時内部では先程施設内に運び込んだ爆発の被害者達を外部からの狙撃を防ぐための盾として貼り付けており、その奥の広い空間には一階二階の両階の至る所に銀行員や不運な客達がまとめられそれを監視するためにテロリスト数名が割り当てられていた。

突如ガラスの割れる音と共に侵入して来た存在に正面入口で作業をしていた者達は一瞬何が起こったのかを理解できず、その異常事態と原因を理解し、彼らを待つ運命を変えるために迎撃をするために必要とする時間は絶望的な程に長過ぎた。少女はその体躯からすれば異常な程の速度でその場にいたテロリスト達を殲滅するとそのままの勢いで正面の人質グループを監視している者達へと走り出す。

正面入口で起こった異常事態にその場にいたテロリスト達は(なぜこれ程早く突入された?)(倒れた仲間達は何をされた?)(なぜ警官隊らしき者が見当たらない?)(あのガキに、それも女1人に殺されたのか?)など様々な疑問を浮かべながらも少女が自分達の敵である事を即座に認識し一階から...いや、二階からも、少女を狙える全ての場所から彼女へと銃口が向けられそして一斉に銃弾が放たれる。しかし放たれた銃弾は見えない何かに全て阻まれ一発でも彼女に当たる事なく弾かれた。その異様な光景を目の当たりにした彼らは(これだけの人数で迎撃して全員が外した!?)(今確かに空気に...いや、何かに弾かれて...!)などの恐怖に近い疑問を抱く。だがそんな疑問を浮かべている間にも少女は臆する事なく向かってくる、その場にいたテロリスト達全員が1人の少女を迎撃するべく恐怖を抱きながらも再び引き金を引いた。だが何かがおかしい、先程射撃した時とは明らかに感覚が違う...その違和感の正体を確認するべく引き金を視認する。するとそこには先程まであったはずの引き金は無く、もはや彼らが手にしているモノはただの鉄塊に過ぎなかった。その間に少女は標的へと十分近づいた、ある者は恐怖で身動きすら取れず、ある者は我先にと逃げ始め、またある者は己の持つ武器を失ってなお勇敢にも立ち向かおうとした。だが少女が先程引きちぎったアクセサリー...今は先程森の中で使用した赤いイバラの模様のナイフを掲げる、すると人質以外のテロリスト達、逃げようとした者も、身動きすら取れなかった者も、立ち向かった者も、一人として例外なくその場にいた全員の首に赤い線のような物が浮かび上がりそして

ヒュッと少女はナイフを一度振った。

たったそれだけの動作により線を引かれた者達の首が転がり落ちる、辺りには至る所に頭の無くなった死体が転がりその首からは鮮血が噴き出す、人質達はその光景を見て叫び声を上げ、少女の美しい顔も、銀色の髪も、純白の服も全てが紅く染まっていく。だがそれでもなお少女は躊躇う事なく進み続ける。

(ここから見える標的は全て片付いたが...まだ2回の奥の大部屋、そこに数名生き残りが居るか。恐らくは首謀者もそこだろう。)

「ヴィレアちゃんこっちは危な...ッ!?」

ヴィレアのとった想定外の行動に面食らいながらも銀行前へとたどり着いたザフィラは眼前に広がるその光景、とても現実的とは思えないその惨状を見て絶句した。

入り口には背の黒く焼け焦げた犠牲者達が所々に貼り付けられ、それを行なったと思われる武装者は皆糸の切れた人形のように横たわり、その先には首のない死体が当たるところに転がりまるで噴水のように血を吹き出しその血を浴びた人質達が狂ったように叫んでいる。そしてその先に見える階段をとても子供とは思えないほどの速さで銀髪の少女が迷いなく駆け上がっていく、この状況を見ればどんなに愚かな者でも誰が何をしたのかは明白である。

「ヴィレアちゃんが...一人でこれを...?」

その光景はとても正義の味方が制裁を加えた後には到底見えず、むしろおぞましいバケモノにでも襲われたかのようなものであった。

一瞬その光景を茫然と見つめ立ち尽くしていたザフィラであったがすぐに気を取り直すと再び走り出した。

先程は彼女を救う為に走っていた、だが今回は違う...彼女が『バケモノ』となるのを止めるべく先程よりも速く走り出した。

その顔に先程まで彼女と話していた時のにへらとした笑いは無く、一目でその心情が伺えるほどの焦りに満ちた表情をしていた。

そんな事に気づく事なくヴィレアは目標の部屋へと辿り着き扉を勢いよく蹴り飛ばす。するとその侵入を予測していたであろう内部のテロリスト達からの一斉射撃が始まる。だが先程同様に銃弾は阻まれる、しかし先程使用したナイフからは赤いイバラの模様は無く、黒い柄の部分だけが覗いている、そのせいか少女は再びナイフを使用せず、今度はありったけの力を込めて奥にいる誰かを守るかのように並んだ者達を切り裂き、突き刺して行く。一人、また一人と倒れ、それでもなお隊列を乱す事なく射撃を続け道を阻む。だがそれも所詮は時間稼ぎという結果で終わった。突入からまだ1分と経たずに隊列は散って行き、ついに立っているテロリストは最奥にて部下達に守られていた首謀者のみとなった。

(奴で最後...ッ!)

そして首謀者へとヴィレアが飛びかかるのとほぼ同時に部屋の中へと誰かが飛び込んだ。

「ヴィレアちゃん!それ以上はダメだッ!」

全速力で部屋へと駆け込んだザフィラは声を振り絞り叫んだ、しかし非情にも返り血に染まった銀髪の少女は止まらない、そして槍を突き刺した!






はずであった。

「...仕留め損なったか。」

先程まで槍を握っていたはずの右の手は既に腕としての原型を留めておらず、繊維数本で繋がっている程度まで劣化し、ここまで異常なほどの速度で駆けてきた足はもはや立つ事すら出来ぬまでに千切れていた。

そのような状態で切り掛かった所で相手をどうこうできる訳もなく少女は虚しく勢いよく地面へと倒れ込む。

さて、自分の建てた計画をほぼ全ての仲間と共に砕かれた首謀者が、そんな好機を逃すだろうか?

「よくも俺の計画を...ッ!この『バケモノ』がァァァァァァァァッ!」

男は倒れ込んだ少女を怒りに身を任せて蹴り飛ばすとそのまま手にしたライフルを眉間へと突きつけそして、

ズガンッ!

「...へ?」

部屋の入り口で一部始終を見ていたザフィラはしばらく目の前で起きた出来事を理解する事ができなかった。

(えーと、確かヴィレアちゃんが首謀者らしき男に飛びかかって、でも手足が千切れてたからそのまま倒れ込んで、それで男がヴィレアちゃんを蹴飛ばして...そのままライフルで...頭を.....)

先程まで一緒に歩いて、一緒に話し、そしてただ一人でテロリストを虐殺していた少女。

その美しい顔の上半分は吹き飛び肉片と化し、サラサラと綺麗に輝く銀色の髪は顔の断面から噴き出す鮮血により紅く染まり、もはやその肉体は先程まで動いていた事が嘘であるかのようにピクリとも動かずただ静かに横たわっていた。







目の前で死んだ

ズキンと頭に痛みが響く

目ノ前でシんだ?

ナニカが声をかけてくる

彼女が死んだ

もう一度痛みが響く

誰ガシんだ?

またもや声が聞こえて来る

ヴィレアちゃんが死んだ

大きく頭が痛む

ヴィレアがシんだ?

まだ声が話しかけてくる

愛しいヴィレアちゃんが...たった今、目の前で殺された

頭が割れるような痛みが襲う

誰がコろシた?

それでもなお声は続く

あの男に殺された

頭が少し和らぐ

アのオトこにこロサれた?

少しだけ声が小さくなった気がする

あの男に殺された

先ほどよりも痛みが少なくなる

オマえガコろシタ?

ささやくような声がする

違う

その声を否定する

ミごろシニシた?

黙れ

その声から耳を塞ぐ

マタこロシた?

それでも声は響いてくる

違う!

頭の痛みが先ほどに増して響く

まタだ!マタこロシたンダ!

声は嬉しそうに言う

違うッ!

頭の痛みが熱へと変わってゆく

ナにがチがう?

頭が熱い

ナニがちガう?

頭の中身が煮えたぎるかのように熱くなる

オマえガこロシた!

おマえガ!

オまえガ!

おまエが!

違う違う違うッ!






頭の痛みが無くなる








マタ、オマエガコロシタンダ。








キャハハハハハハハハ!

頭の中が焼け焦げる

煩い

脳は溶け落ちなお焼ける

煩い煩い!

焼けて溶けて焦げて溶けて焼けて焦げて溶けて溶けて!溶けて!溶けて!溶けて!溶けて!!

煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩ぃぃッ!







「 ゼ っ た イ ユ る さ ナ い 」

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