所詮、幼なじみは

輪陽宙

幼なじみ

「ずっと前から好きでした!私と付き合ってください!」


「俺も西川のこと気になってた。こちらこそよろしく」


とある日の放課後、学校の屋上で二人の男女が夕焼けの色と同じぐらい頬を赤らめ、抱きしめあっていた。


明日になれば、クラス中に二人が付き合い始めたという話が広まり、お祝いムードになるのだろう。


あぁ。どうしてこうなっちゃったのかなぁ。


屋上と校舎内を繋ぐ扉の向こう側に私は扉に耳をくっつけながら二人の会話に聞き耳を立てていた。二人して屋上に上がっていくのが見えたからつい、あとをつけてきてしまったのだ。


二年生にしてサッカー部のエースで次期キャプテンの快斗がモテないはずがない。だから、男女二人きりで屋上に行く時点で告白だろうなとは思っていた。


・・・結末は予想だにしなかったことだけど。


私と快斗は幼稚園の頃から一緒に遊んでいた。所謂、幼なじみというやつだ。小学生の低学年までは快斗のことを弟のように思っていた。誕生日はさほど離れてはいないが、いつも私に甘えてくる快斗は可愛らしい弟のようだった。


だけど、私達が小学生高学年になって快斗の身体がガッチリとしていき、私の身長を追い越し始めた頃にいつも可愛いと思っていた快斗のことを初めてカッコイイと思った。


それからは早かった。


私はいつも快斗の姿を目で追っていた。中学生になった時に、この感情が恋だということに気付いた。快斗のことを考えると胸がドキドキする。今日はいつもより多く話せた。快斗がサッカーの練習をしているときにこっちを見て、手を振ってくれた。


私は照れて、ぷいっと別の方向を向いてしまったけど、嬉しすぎて心の中ではガッツポーズをしていた。


どんなに月日がたっても快斗の隣には私が居ると確信していた。

快斗も私のことを想っていて、いつか向こうから告白してくると思っていた。


しかし、それは愚かな勘違いだった。


ぽっとでの女の告白に快斗が靡いたのだ。

西川って言ったけ?幼馴染といっても今はクラスが違うので学校内での交流はあまりないからそこらへんのことは知らないけど、確か快斗と同じグループの女子だった気がする。


西川が快斗のことを気になっていたのは知っていた。快斗と学校内ですれ違うときによく楽しそうに喋っていたから。だけど、快斗は違うと思っていた。快斗からすれば只の女友達としか思っていないんじゃないかって。


だから、嫉妬はしても仲を断ち切ろうとはしなかった。


だけど、違った。


快斗と西川は両思いだった。

西川はずっと快斗のことが好きだって言ってたけどずっとって何?一年くらいの付き合いしかないでしょ。私なんか西川の何倍も前から快斗のことを想っていた。

愛は時間じゃないっていうけど大きなアドバンテージにはなる。一人だけスタートをとてつもなく早く切ったのだ。


でも、でも・・・


気付いたら涙を流していた。

扉の向こう側から聞こえる楽しそうな声が私の胸にグサグサと突き刺さる。私が泣いていても慰めてくれる人はいない。快斗は来ない。


帰ろ。


無理矢理、涙を止めてバッグを背負い、降り階段を走って降りる。

早くここから離れたいと思った。さっきまでは快斗と近くにいるだけで幸せだったのに今は、直ぐにでも家に帰りたい。


下駄箱で下靴に履き替え、学校を後にしようと校門の近くまでいく。

校門付近からは丁度、屋上が見えていて二人がベンチに座って話していた。遠くて表情は見えないがきっと幸せそうな顔をしているのだろう。


目元に熱いなにかが押し寄せてくるのを必死に抑え、がむしゃらに駅に向かって全力で走った。


「うう、ぐすっ」


走りながら快斗のことを考えると遂に抑えきれなくなってしまい、駅の手前で立ち止まり蹲って泣いてしまった。


「あぁ・・・ぐすっ・・・ひぐっ・・・」


泣いて、泣いて、泣いた。


通りゆく人に不審な目で見られるけど、そんなこと気にする余裕も力も今の私には無かった。優しいサラリーマンから大丈夫かい?と声をかけられて私は少し落ち着いて、大丈夫です。と言ってトボトボと歩き始めた。


家の前でもう一度、快斗のことを思い出して泣いちゃったんだけど。


その夜、私はもう一度、快斗のことを考えた。今度は泣かない。次、泣いたら負けだと思った。


他の人の彼氏になる快斗が想像できなかった。想像なんかしたくなかった。実際にはそうなっているのに。


それでも私は快斗のことを想う感情は消えない。快斗のことを考えるとドキドキする。そんな気持ちが消えることはない。


やっぱり、好きなんだよなぁ。


快斗が別の人を好きだと知っても私の気持ちが揺らぐことはない。今でも、これからも快斗が好き。大好き。


よし、決めた。快斗を取り返そう。


あの二人にとっては私は邪魔な存在なのかもしれない。主人公とメインヒロインの関係を脅かす嫌われキャラであり、報われないサブヒロイン。


・・・けど、それは快斗を主人公とした物語。


快斗を主人公としたラブコメはここで完結した。主人公とメインヒロインが結ばれ、ハッピーエンド。幕が閉じ、エンドロールが流れ始める。だけど、その先のことは読者は知らない。


もしかしたら、直ぐに別れるかもしれない。

そのあと、別の女性と結婚するのかもしれない。


快斗の物語はこれで終わり。

これからは私を主人公としたラブコメが始まる。


私が主人公で快斗がヒロイン。


ラブコメにバッドエンドは似合わない。

最後は必ずハッピーエンドで終わる作品の方が多い。なら、この物語も絶対にそうなんだ。ここから私の物語が始まる。


最後に私と快斗が結ばれる恋物語の第一話が今日、連載開始のゴングを鳴らしたのだ。


始めよう、私の青春ラブコメを。


◆◇◆


いつも通り、私は学校の校門をくぐる。

しかし、私自身はいつも通りではない。いつもより倍以上の時間を掛けて身だしなみを整えた。それくらいしないとサブヒロインに負けてしまう。それだけは嫌だ。


「おっはよー快斗!」


私はいつもより明るい元気な声で教室に向かっている快斗の後ろ姿を見て駆け寄る。


西川はいない。絶好のチャンス。


「ああ、おはよう」


快斗は眠たそうな顔をして、私の方を振り向いた。


やっぱり大好き。その眠たそうな顔も、後ろ姿も。


そして、私はこっちを見てくる快斗に思いっきり近づいた。体と体の距離はわずか30センチほど。心臓がばくばくする。


「おい、ちょっと・・・」


快斗は予想外の出来事に少し取り乱したけど直ぐに私から距離を置こうと離れようとする。だけど、それで終わりではない。


私は後退った快斗の腕を引っ張り、無理矢理私の元へ引き寄せ、快斗の耳元で快斗にしか聞こえない小さな声でこう言った。


「私、負けないから」


快斗の頬が少し赤らんだのを見て、私は思わずニヤリと笑みを浮かべた。

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所詮、幼なじみは 輪陽宙 @wayouchuuuuu0129

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