第20話 -3 私の運は天から始まる
セバスさんがベルを鳴らし、ゲームの開始を告げる。賭ける場所を選ぶ時間だ。お遊びなのにみんなの目はどこか闘志に燃えて真剣だ。
まずは三人の様子見、赤か黒かだけ選ぶことにした。黒を選んで一枚だけ置いた。
セバスさんが円盤を回し、球を逆方向にサーブする。それぞれの思惑を乗せた銀の球が運命の書かれた円盤の上を流線を描いて光って廻った。
オセロットくんが亜人の目を光らせて、計算するように指を素早く動かす。ベット締め切り時間ギリギリでチップを置く。
なるほど、彼は亜人の動体視力を活かして落ちる場所を計算している。転生前と視力の変わらない私にはできない芸当だ。
銀の球は私たちを弄ぶようにカラカラと音をたて赤の19の枠に落ちた。
最初の賭けは私の負けだ。セバスさんが外れたチップを無情に回収して、配当を配る。オセロットくん、クチナワさんの順に配当が多い。私とリップさんは負けだ。
「芽衣、せこせこ賭けても勝てんぞ」
「まだ皆さんの様子見なだけです、次から本番です」
「いいだろう、かかって来い」
ベルがなるとクチナワさんは適当にパラパラとチップを放り、転がる先に掛け金を置いて行く。
リップさんは確率は高いが配当の少ない場所に、さっきの勝負に負けたので掛け金を二倍にして置く。マーチンゲールという戦法だそうだ。
オセロットくんは私を見るだけでまだベットしない。私は一枚一枚を天の神様に願いを込めて運まかせに目に付くところに置いて行く。
すると……
「芽衣……」
リップさんの同情を含んだ声が頭上に響く。残りたった一枚を握りしめ、うな垂れる私のその横でオセロットくんが吹き出し腹を抱えて笑いを堪えている。
天は私に一度も微笑んでくれず、六ゲーム目までここまで逆に外れるかというほど惨敗、ゲームオーバーが目の前だった。
「あー、ここまで綺麗に外される方も逆に珍しいことでございますよ」
あのセバスさんさえフォローは苦しいようだ。今の一位はクチナワさん、余裕の笑みで自分の毛先の枝毛チェックをしている。次のゲームを知らせるベルが鳴る。
「諦めて今から下僕になると誓えば悪いようにはせんぞ、芽衣」
挑発的なクチナワさんの言葉に私は顔をあげた。コスプレして下僕になるなんて嫌すぎる。今後の人生さえもこの一枚にかかっているようだ。
私が立ち上がると円盤に銀の球が投げ込まれた。今までみたいに、運任せに適当な場所にチップを置いてはダメだ。私はきっと運は強くない。
考えて行動し、努力で積み重ねないとここでは生きていけないと思う。
「お前には最後の掛け金だな芽衣、ルーレットはカジノの女王と呼ばれている。女王に願いを込め、どこに置くか選ぶといい」
ルーレットの銀の球が反射して私の首元のネックレスが一瞬光を受けた。ライバルのクチナワさんの言葉に、私はこの一枚を、一点賭けの数字の真上に置くことにした。
ベット終了を告げる鐘がなる。銀の球は運命の螺旋を輪廻のように、物凄い勢いで走った。
私は手を組んで心静かに祈る。
カラカラと音がゆっくりになる。永遠とも感じる時間に耐えられなくて強く瞼を瞑った。
自分の心音だけ、ついに静寂が訪れると時が止まったように誰も声を発しない。恐る恐る目を開くとみんな盤上に食い入り固まっている。
銀の球は黒いマスの6のポケットに綺麗に収まっていた。
「うわあーー芽衣すごいぞ! 一点賭け当たったぞ、三十五倍! アッハッハなんて子だ」
「おめでとうございます芽衣さま、豪運の持ち主でございますね」
配当金が配られた。リップさんとセバスさん二人が拍手を贈ってくれてやっと気がついた。命を繋ぐことができたようだ、キャーキャー言いながら二位のリップさんに抱きついて喜んだ。驚いた、まさか当たるとは思いもしなかった。
「まぐれで当たっただけだ、まだ大した枚数じゃない」
余裕綽々のクチナワさん、彼の鼻を明かしてやろうじゃないか。やっと私にもツキが回ってきたようだ。これから盛り返して見せる。
チンとベルが鳴るたび、私は怒涛の勢いで賭けていった。
黒の13、またまた私の当たり、ニコニコしてほとんど賭けなくなったリップさんを追い越し次に赤の23とまた高配当を当て、二位のオセロットくんに追いついてきた。
「すごいなー芽衣は次でラストだよ、僕も最後は本気で挑もうかな」
オセロットくんの猫の目が光る。次が最後のゲームだ。
緊張感が高まる室内でとって置いた数字を思い浮かべるとセバスさんが球を投げ入れる。私は慌ててチップを全投入する。
大差をつけているオセロットくんとクチナワさんに勝つには安全パイは取っていられない。
ラスト私が選んだ数字は5、五月は英語でMayだがちなみに名前の由来ではない。私は六月生まれだし。そういえば私の名前の由来ってなんだっけ?母はなんて言ってたか――……
運命の球は緩やかに速度を落として行き、みんながその動きを見守っていると部屋のドアに光が射し込んで静かに開く。センさんが息を切らして入り口に立ち、汗をかいていて大股でリップさんの所に辿り着くと、彼に耳打ちしている。
リップさんに何か急ぎの用だろうか、目線をルーレットに戻したその時、他のみんなが声を張り上げた。
驚いて盤上に目を戻すと、銀の球は狙いどおりの5のポケットにちょこんと収まっている。
「おめでとうございます芽衣さま、見事一位に輝きましたよ」
「うわーー! 芽衣ギャンブラーじゃん、マジか!」
「か、勝った!? 私の勝ちオセロットくん!? キャーーッ」
オセロットくんと手を握り合って盤上を見ながらピョンピョン跳ねて興奮した。心臓の早鐘が止まらない、嬉しくて血管がきれてしまいそうだ。
「クソ、おもしろくない。おい芽衣もう一回だ」
「そうはいきませんよ、私の勝ちですクチナワさん! 皆さん私のお願い聞いてもらいますからね」
ふてくされるクチナワさん、私と手をつなぎ一緒に喜んでくれるオセロットくん、そしてセンさんを後ろにしたリップさんの顔を見た。とても穏やかに笑いかけてくれる彼の手に白い封筒が握られている。
「おめでとう芽衣、今手紙が届いたよ」
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