第1話 -3 鬼灯の実


 どれくらいの時間、健闘しただろうか。焼け焦げた枯れ枝が周りに散乱しているが、多少は魔法のコントロールも上達し、出来上がったものには大満足だ。


 黒い光沢が美しいカナヘビの抜け殻は、悪い魔女のドレスのように仕立て上げることができた。多少肌触りが悪いくらい我慢できる。外気に全身を撫で回される、こそばゆい感覚を消してくれるのだから。


「少し歪だけど、これでやっと堂々と行動できる」


 服を身につけやっと文明人らしさを手に入れたので、次はその文明探しと食料を確保しなくては。探索に出かけるために、最初に拾った盾も余った皮で持ちやすくし、枝を片手に出発する。


 歩きながら食べれるものがないかと目に付くものに、キノコや木ノ実がある。キノコは菌類の部類でいわゆるカビでできているようなもの。数千種類があるものの、食用に向いているのは約百種類ほど。摂取してもカロリーは低く、リスクが高すぎる。ここが地球でもそうじゃなくても知識が応用出来るかはわからないし避けておこう。


 目覚めてから水しか口にせず動き回り、お腹が鳴りっぱなしになっている。布を巻きつけているだけの足で森を探索しているため、足の裏も痛みだした。早々に何か口にしなければ、夜がきたら動けなくなる。

 

 遠くの木の間で動くものを見つけた。鹿や鳥が一つの木に集まっているようで、不思議なことにその木はボンヤリと光を放っている。


 近づいてみると、光を放っているのはその巨大な木に実る果実からだった。クリスマスツリーのように赤青黄色とカラフルに発光している。額の部分がレースの袋のように実を包み、透けて中が見える。破裂せんばかりに熟し、辺りに甘い匂いも放っていた。


 動物たちは人間が近づいてもお構いなしにその実を食べている。木の実や果実には毒を持つものもあるが、動物たちが食べ続けているので致死性はないようだ。


 不思議な青色を放つ実を素手で触れないよう、一つもぎ取ると光が消えた。念のため、鑑定してみることにした。


【鬼灯:NE:状態睡眠】


 初めて状態異常なしから変化があった。周りの動物の果実の色を見ると、この色を食べている動物はいない。みんな少し色の薄いものを選んでいるようだ。


 今度は薄いエメラルドグリーンの果実をもぎ取った。


【鬼灯:NE:状態異常なし】


 なるほど、状態異常は毒性かどうかわかるのかもしれない。次に、今より濃い緑の果実をもぎ取ってみた。


【鬼灯:NE:状態麻痺】


 自分でこの麻痺の果実を食べて確認することは恐くてできないが、今はこれを信じてみようと思う。


 提灯のようになっている皮の部分を剥がし、薄いグリーンに輝く透明の果実をちびりとかじると、爽やかな香りと甘みが口の中に一気に広がった。水分が弾け、繊維が見えないのにシャキッとした食感が音になり楽しませてくれる。


「おいしいっ」


 勇気を出して良かった。母と森を探索すると野苺などは見つけたことがあるが、酸っぱくて目を開けれないほどで、やはり市販されているものには勝てないと思っていた。手つかずでここまでの糖度を保てるなんて感動だ。


 次々もぎ取り鑑定して味を比べた。色ごとに変化があり飽きることなく食べ続けていると、動物たちの中に不思議な物が漂っているのを見つけた。まごうことなき……スライムだ。ふよふよと宙に浮き、イカのような触手が風に吹かれレースのリボンのようで可愛い。


 食べるのも忘れ、口をあんぐり開けたまま見守っていると動物が手を付けなかった毒性の果実に触手を伸ばすと、傘のような体で飲み込んでしまった。無色透明だったスライムの体が果実を飲み込んだ途端、炭酸のように内部が泡立ち赤く色づきだした。満足したのか、またふよふよといなくなってしまった。


 やはりここは地球じゃないのか。スライムらしきものを見てついに納得した。


 不思議な世界。あんな生物まで存在するのに、こんな頼りない装備では襲われたとき立ち向かえない。早く文明社会を見つけなければ生きていけない。が、果たして存在するのか、見つけたとしても人間の姿で受け入れてもらえるだろうか。お腹が満たされた分、違うことに思考がいき不安がまた私を支配した。


 満腹感にボーっとしていると眠くなってきてしまった。寝てはいけない、考えなきゃいけないことがいっぱいあるんだ、と思いつつも木にもたれかかり私は眠ってしまった。昔からよく寝る子だと母に言われたものだ。


 遠くから誰かに話しかけられる夢を見た。何を言ってるのかわからなかったが、安心感と懐かしさに包まれる。気持ちのいい夢だった。

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