第7話

8月10日はさーやんの誕生日だ。16歳。朝起きた時には、さーやんはもう外出していた。どうやら今日は朝から新曲のリリイベがあるらしい。で、帰るのは夜になるとか。そして明日はバースデーライブだ。




そしてこの日の俺自身はというと、部活動に顔を出していた。季節は夏休み真っ只中で、しかもこの日は土曜日。本来ならそろそろ、家で夏休みの宿題に追われている頃であろうが、我が白渚しらなぎ高校文芸部は文化祭に出す小説の執筆に追われていた。本番まであと1ヶ月。8月中に一通り書かないと締め切りには間に合わない。




「そう言えば今日、沙弥香ちゃんの誕生日だったよね?」




昼食のため執筆を中断していた時、アリ姉は俺にこう言ってきた。俺は「そうだけど」と答えたが、他の部員には中々話が分かっていないようだった。そして、




「あのー・・・すみません。沙弥香ちゃんって誰ですか?」




と2人に尋ねたのは1年生の藤岡美穂ふじおかみほ。少し低い背に、肩甲骨のあたりまである黒髪と黒縁メガネが特徴の女子生徒である。俺は「妹だよ。1個下」と美穂ちゃんに答える。すると美穂ちゃんは、




「俊彦さんに妹さんがいたなんて知りませんでした・・・ということは、亜梨紗さんの従妹いとこでもあるんですよね?」




と言ってきたので、アリ姉は「まぁ、そうなるわね」と言い返した。




◇ ◇ ◇




夕方、部活が終わると同じく部活を終えた明日香と合流。で、文芸部とチア部が揃って帰りの電車に乗ることになった。




「はじめまして石見くん。もしかして、君が明日香の彼氏さん?」




そう答えるのはチア部の野口玲香のぐちれいかさん。俺や明日香とは同学年だけど、ずっとクラスが違うから話したことないな・・・まぁ、俺は「違う!」って言い返したし、明日香も「玲香のバカ!彼氏じゃないし!ただの幼なじみなだけだから!」と反論したけど。




そして俺は駅に着くと、アリ姉や明日香と別れ、そのまま帰宅。で、着替えをする。夜、レストランに着いた4人は個室に入り、それぞれ食事を注文する。俺はラーメンセットを注文した。しばらくして、4人が食事を食べ終えようとしていた頃、仕事を済ませたさーやんがやってきた。




「沙弥香、遅い!あんた、今日が何の日なのかかわかってるの?」




楓さんは店に入ったばかりのさーやんにこう言ってきた。さーやんは、「ちょっと仕事が長引いて・・・」と言っていた。さーやんはステーキセットを注文し、これから食事をしようとしていた頃、店員さんが個室にやって来た。




「石見様、バースデーケーキを用意致しました」




店員さんはそう言い個室を出る。しかし店員さんの言葉、そして「Happy Birthday to Sayaka 8.10」と書かれたチョコレートが載せられたケーキに莉奈ちゃんは、




「みんな、これって・・・」




と言葉を漏らした。さーやんがそう言葉を漏らすと3人で声を揃え、




「沙弥香、誕生日おめでとう!」




とさーやんに向けて言い、誕生日プレゼントをそれぞれさーやんに差し出した。そしてさーやんは、




「ありがとう!やっぱり私の誕生日知っていたんだ・・・でも私、朝からみんなに誕生日祝われてケーキもいっぱい食べたからケーキはもういらないかな」




と涙を出しながら言った。それでもさーやんはケーキを1カットだけ食べたけど。そして、残ったケーキは3人で食べることになったのは言うまでもない。






◇ ◇ ◇






食事を終えた4人は、揃って家に戻った。帰りの途中、俺はさーやんに「家に戻ったら大切な話がある」と言った。帰宅した俺は、すぐ部屋に戻った。さーやんも一回自分の部屋に戻るという。しばらくして、




「お兄ちゃん、何の話?」




とさーやんがやって来た。俺は、「ノックくらいしてくれよ・・・」と小言をいったが、さーやんには多分聞こえていない。そして、俺はさーやんに、




「沙弥香、お前は俺の大切な妹なんだ。だから大好きだ。誰よりも愛している。・・・深い意味はないけど。だからこれからも、ずっと一緒にいよう・・・」




と言った。義妹にこんなことを言っただけなのになぜか照れる。顔が赤くなる。・・・大好きなアイドルが妹なんだから仕方がない。すると、さーやんは、




「・・・うん。私もトシ兄がお兄ちゃんで良かった。ありがとう!」




と最高の笑顔で俺に言葉を返したのだった。

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