パーチェと聡
菜乃
出会い
元々絵を書くのが好きだった。紙とペンさえあればどこでも一人で出来る絵というのは自分にとって気楽だった。
父親ははっきり優劣の出る勉強やスポーツには関心があったが、芸術系はさっぱりらしく何も言われることは無かった。
でも、それは過去の話。
父は久しぶりに期待してくれたのだ。
賞の取れる腕前なら、と。
今まで父にため息しかつかせなかった自分がどこまで出来るのか。絵を描くことで本当に満足させることは出来るのだろうか。
賞が取れたのはきっとまぐれだった。
それでも父が期待してくれるのならばやるしかない。きっと頑張って結果を出せば褒めてもらえる。
しかし転入してその日に後悔をすることになった。やはり賞が取れたのは偶然、まぐれで、ここに来るべきではなかったと。
そこにはいたのだ。
父や兄達のような天才はいつだっているのだ。いくら頑張っても天才には何一つかなわないことを知っている。
ようやく期待をしてもらえたのに。父を失望させることしか出来ない自分が嫌いだ。
しかし予想外のことが起きた。何故かその天才がやたら構ってくる。
「桐生くん!」
その名前で呼ぶな。
天才が、その名前で呼ばないでくれ。
「どうしてだい?君の名前は桐生聡、そうだろう?」
俺は、桐生なんて、呼ばれる価値なんてない。
「なら聡くんって呼んでもいいのかい!?」
は?
なんだこいつ。
その瞬間、俺はきっと初めてパーチェを見た。
天才ではなくパーチェという人を。
運命というものがあるのなら、きっと、この日だったんだろう。
運命に出会ったのは。
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