私という人間

田中 堕郎

第1章 私なりの証拠の残し方

第1話

 現代ではインターネットが発達し、SNS上などでのコミュニケーションも多く見られるようになってきている。俺自身もSNSを利用する一人だ。そして俺には、SNS上の友人がいる。所謂いわゆる、ネット友達。『ネ友』だ。

 そんなネ友の一人に『景星夏音けいせいかのん』という女性がいる。彼女は超が付くほどに優しい人間で、それ故、よく悩んでいる人だった。色々な人から相談を受けるが、人の悩みを聞いていると自分自身が暗い気持ちになってしまい、体調を崩してしまう。その結果相談を断ると、相手を傷付けてしまったり、変に気を使わせてしまうのではないかと、相手を気遣うあまり、さらに自分が体調を崩してしまうような人だった。

 私も、夏音に話を聞いてもらうことが多かった。が、夏音は私に対して、夏音自身の悩みや考えを話してもくれた。お互いがお互いにとって、とても大切で、心の許せる人間だった。

 そんな彼女がある日。

「私と田中が友人であった証拠が欲しい。形に残したい。」

 そう言ってきた。今まで友人であることの証拠を形にすることなど考えつかなかった俺は、どうして夏音がそんなものを求めるのか、さっぱり理解出来なかった。

「友人であったことの証拠なんてどうしてほしいんだよ?もしこの先、俺たちが喧嘩別れしたとしても、今こうやって過ごしている時間がなかったことになるわけじゃないのに。まぁまず、私と夏音が喧嘩別れすることはないと思うけど。」

「なんかさ……昔、仲の良かったネ友さんがいるんだけど、その人、ネットやめちゃったんだ。喧嘩別れとかトラブルじゃなく、リアルの事情でね?」

「おう。」

「でもね。その人が居なくなっちゃったあと、なぜか無性に寂しくなっちゃって。その人が最初から居なかったような、そんな感覚におちいって。その人と仲良くしていた証拠を搔き集めたの。貰った絵とか、その人のアイコンの画像とか。そんなことしても、なんにもならないんだけどね。……そうしないと居られなかった。」

「……そうか。」

「だから、田中とこうやって仲良くしている証拠も欲しいんだ。……不安なんだよ。」

 正直その時の俺には、なぜ不安になるのか分からなかった。だが、夏音が少しでも安心するなら、形に残すのも悪くはないと思った。彼女には安心して、笑顔で居て欲しかった。

「でも、どうやって形にするんだよ。」

「そうだねぇ……んー。」

「夏音が言い出したんだろー。そのくらい考えとけっ!」

「んー……あ……」

「ん?なんだ?」

「……写真。写真欲しい。顔の写真。」

「はぁぁぁ??お前、俺の顔なんか見てどーすんだよ。」

 正直俺は自分が写真に写ることをあまりよく思っていない。というか、むしろ嫌いだ。大っ嫌い。

「だから、残しておきたいんだってー!……ダメかな?」

「……。」

「ダメならいいんだけど……。」

「……今日は髪ぼさぼさだし、服もジャージだから嫌だ。明日なら、まぁ……。」

 ……俺はこの夏音の悲しそうな弱々しい声に弱いらしい。

「ほんと!?ありがと田中!!嬉しい!!」

「おう。感謝しろよ。」

 こんなことがあったがやっぱり、証拠が欲しい、という考えは理解できないままだった。



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