隣の美少女はあからさま

もなか ののた

第1話 いつもの朝

成海陽太は現在モテ期である。正確にいうと隣に住んでいる美少女ただ1人にであるのだが。


今日もあたりまえの朝がやってきた。天気は晴れ。

まだまだ寝足りない気もするが、ここはすぐに起きることにしよう。きっと隣の部屋で「彼女」は俺を待っている。

いつものように顔を洗い歯を磨き身支度を整えて靴を履きドアを開け玄関を出る。と、同時に隣の玄関のドアが開く。


「おはようございます!成海さん。」


「おはよう、鮎川さん。」


彼女は俺の住んでるアパートの部屋の隣で暮らしている、鮎川雪乃さん。

いつも偶然俺が家を出る時間に彼女も部屋から出てくるのだ。

それはゴミ出しのためゴミ袋を持ってたり、部屋の外の小さな植木鉢に水をやるためだったり、玄関の掃除のためにほうきを持っているときもある。

ちなみに今日は花の水やりのために小さなジョウロを持っている。


「今日も偶然朝にお会いしましたね。なんだかお花がしんなりしている気がしたのでお水をやろうと思って。」


そういってたっぷり植木鉢の花に水をやる。しかし彼女が言うようにどうもしんなりしているようには見えない。綺麗に咲いているものもあればいくつもの蕾をつけているものもある。


「本当に、いつも偶然会うね。花、とても元気に見えるけど…。鮎川さんがそう思うならそうなのかな。じゃあ、またね。」


「はい。本当偶然です!学校頑張ってきてください!」


階段を降り、自転車に乗る。まだ夏の暑さを引きずった秋の日差しに目を細めた。ちらりと二階をみれば彼女はジョウロを片手にこちらをみて小さく手を振っている。

俺は軽く会釈して自転車を漕いだ。


「…よく飽きないよなあ。」


時折吹くまだ生ぬるい風を浴びながらぽつりと呟いた。

毎朝ぴったり同じタイミングで玄関を出て軽い雑談をする…。

内容としては今朝のような花の具合の話だったり天気の話だったり便利なお掃除グッズ、ご飯の話など様々だ。

はじめの頃はこんなどこにでもいる量産型大学生の俺なんかを毎朝待ってくれているなんて思わなかった。ただ生活のリズムが同じなのだと思ってはいたのだが…。

以前、彼女の言う「偶然」が偶然じゃ無いのではと思い始めたとき、俺は一度だけ大寝坊をしたことがある。毎朝部屋を出る時間より2時間も過ぎていた。もうさすがに同時に部屋を出るなんてありえない、そう思いドアを開けるとなんと彼女も同時にドアを開けたのだ。


「おはようございます。寝坊ですか?偶然ですね。なんだか今日は私も寝坊しちゃって…!」


えへへ、と恥ずかしそうに頬を赤らめて笑う彼女はとても幼く見えた。

しかしこのいかにも不自然な行動をきっと誰もが偶然だとは思わないだろう。

彼女を除いては。

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