第7話 黒猫とすもも

みぁと鳴く黒い影、塀の上をひょいと登って何処かへと消えた。目に映る曇天の空はきっと私の心模様だ、今にも泣きそうで耐えられそうになかった。

『黒い猫が鳴く夜は月を見上げなさい』

今日見送ったはずの、

お婆ちゃんの声が聞こえた気がして、私は涙が溢れないように顔を上げた。


お婆ちゃんの屋敷の庭は広かった。

ちょっとした果樹園だ。

一際目を引いたのは、

たわわに実ったすももの木

目の前でひとつ、ぽとりと落ちた。

あまりに丸くて勿体無くて

竹籠を手に戻ってきた。

籠にどんどんもいでいく

しゃくりと1口かじってみたら

遠い日のおやつの味がした。

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