紗天の掌編

真文 紗天

第1話 砂に溺れて

先輩は手先が器用だ。

裁縫も、工作も、料理もなんでも出来てしまう。字だって今まで見た誰よりも整っていて、まるで習字の先生のようだった。

この前なんて私のネイルを描いてくれた。

どうしてそんなになんでも出来るんですかとそう聞くと、細かい作業が好きなんだよと照れ臭そうに笑う。現役JKであるところの私より、ずっと女子力が高くて先輩はずるいのだ。

私より、可愛いからずるいのだ。

放課後の帰り道、先輩を見つけた。

商店街にある喫茶店、少し寂れた店内でボトルシップを並べる先輩を、私は硝子越しに見詰めていた。私服姿の先輩は、まるで私には気づいてくれなくて、大きな砂時計をひっくり返したかと思えば、客のいないカウンターで、先輩は新しい船を作りだす。流れるような所作は息もできないくらい美しく見えて、気づけば砂時計は最後の1粒も落ちてしまっていた。


その夜、ボトルシップが泳ぐ夢を見た。私は砂時計に閉じ込められたままで、砂丘を越える船を見つめる夢を見た。だんだんと砂で視界が覆われて、ついには息もできなくなって、溺れて消えてしまう夢。

先輩に想いを伝えれば、

ころんと世界が変わるだろうか。

砂がさらさら崩れて落ちて、

私を見つけてくれるだろうか。

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