待ち伏せ



 半信半疑ながらイチヤの説を信じた私たちは、話し合った結果、アイの部屋で容疑者を待ち伏せする事に決めた。


 あの不可解な忘れ物の品々は全て元のビニールの中に戻し、最初にイチヤが拾ったスタンドミラーの脇にセットした(イチヤの意見)。


 あまり部屋の物の配置は、いじらないようにした(トシカズの意見)。


 でもケーキがあると容疑者さんが気になりそうだから、食べておいてあげよう(アイの意見)。


 遠くからでも人が居ない事がわかるように、部屋の灯りを消して薄暗くしておいた(マリアの意見)。


 とりあえず暑いから窓は開けておこうぜ!(タイチの独断)



「よし、これで現場の準備は終わった。今度は待ち伏せする僕たちが準備を整える番だ!」


 そう叫んでアイの家を飛び出していったイチヤの、戻ってきた格好が何故かこの脱走軍人の重装備だった。


「お前らの方がおかしいだろ! リアルに犯人かもしれないんだぞ! 凶器を持ってたらどうするんだ!」


 イチヤがアサルトライフルを構えて力説した。


「こら、銃身を向けるな! いや、そうだけどさ……お前どこの国の出身なんだよ。近代軍人なのに脇差しまで差して、国も時代錯誤もはなはだしいぜ!」


「仕方ないだろ? 家の装備を手当たり次第持ってきたから……揃えてる暇なんて無かったんだよ!」


「わかるけどさぁ」


 タイチはぶらさがっているそれ・・を指さした。


「何でこんなものまで?」


「あー懐かしい!!」


 アイの目がイチヤの腰のあたりに釘付けになる。


「これ小学生の時にみんながランドセルに付けてた、防犯ブザーじゃん! こーやって引っ張ると鳴るんだよね! よく先生に叱られた!」


「わ! 触るんじゃない!」



 結局イチヤ以外誰も家には帰らず、そのままアイの部屋の見張りを始める事になった。


 二名が常に部屋の外から中を監視する役になった。残りの三名は補欠。そこに居さえすれば本を読んでも、スマホを触っていても構わない事にした。当然、監視は交代制だ。


「今は午後三時過ぎだから、せめて夕方の六時までは張り込もう」


 最初の見張り役を買って出たイチヤのひと事で、交代の順番とタイムスケジュールが決まった


 住宅街のど真ん中の庶民の家で、子供の部屋の前に座りこむ妖しい集団――それは異様な光景だったろう。


 何度か廊下を歩く母親にチラチラ見られたが、声をかけられる事は無かった。


「あの子たち、また変な流行りの遊びをやってるのね」そんな風に思われたのかもしれない。アイからはまだ、盗まれた事実を母親に伝えていなかったので、大騒ぎにはなっていないのだ。


 少年少女たちが座りこんでる場所からは、壁に掛かっている時計が見えなかった。ただカチコチと聞こえる長針の音だけが、遅いけれど時間が着実に進んでいる事を教えてくれた。

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