逃げてきた男



 本当に犯人――いや容疑者は戻ってくるのだろうか?


 その疑問はいくら時間が過ぎても、同級生たちの心から消えなかった――イチヤ以外は。


「『忘れ物』ってそんなに大事なものなのかなあ。あんな古いものばかりだけれど」


 心の中を口に出さずにはいられないのが、トシカズだ。


「うーん良くわからないよぉ。私にはいらないゴミにしか見えないけどなぁ~」


「ただのゴミじゃないぞ。『不燃ゴミ』だ」


「不燃ごみは隔週の木曜日だった気がするんだけど……」


「こらこら、いまそんな話してる場合か!」


 イチヤが四人をたしなめた。


「言ったろ! 犯人は現場に戻ってくるって。何で僕を信じないんだ? それと、お前らがゴミ扱いしてる『忘れ物』だけどな……僕は何だかあの品物に、物を集める人間コレクターの執念みたいな物を感じるんだ……絶対ヤツにとって必要なものだ。だから戻ってくるって信じられる!」


 拳を握って力説したイチヤだったが、仲間の痛い視線を感じて我に返る。


「だ・か・ら! 変人を見つけたみたいな目で僕を見るなって! そもそもお前らにはさ、好きなものを収集する執念って物が足らないんだよ! だから同志の繊細な気持ちがわかんないんだ!」


「繊細? 繊細な人って猫娘ゾンビになりきって銃乱射して、一般人に噛み付くゲーム好きなのかなぁ?」


「イチヤの言う『同志』って、これから来るかもしれない容疑者のことだよね? 会ったことも無いのに、もう友達になったの?」


「あれ? 確か犯行後に現場に戻ってくるのって、放火犯の心理じゃなかったかしら?」


 ツッコミの三重奏がイチヤに襲いかかる。


「ぐぐぐ、チキショウ。三人揃ってあらゆる角度から否定しやがって……」


 タイチがその最後トリを務めた。イチヤの肩をポンポンと叩く。


「イチヤ、すげえ格好いいことを言ってるかもしれないけどな、その格好じゃあ、説得力が失せるぞ」


 その通りだった。イチヤの格好は上から下まで、軍隊の基地から逃げ出してきた兵隊そのものだった。

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