第475話―自由でも制約はある―

腕のある人が作った家庭的な料理を食べたいと嘆願たんがんされた。

これは事情を言ってのお願いであったけど切実感のある訴えである頼み事にもあって哀願あいがんでもある。

ともあれ断る理由はないのとエミリーさんと久しぶりに会ってプロ活動中であるマンガは順調なのか?生活は……掃除に必要な用具を用意しないと心のメモに刻めて俺は既読と表示されるメッセージを閉じると準備に取り掛かるのだった。


「急に連絡があって今から向かうことになって帰宅するのは多分だけど遅くなるよ冬雅。

それで今日は居られないけど明日は…一緒にいよう」


「はい、そういうことでしたら分かりました。今日は寂しい一日になりますがお兄ちゃんをときめせる作戦を立てやすいので明日は楽しみにしていてくださいねぇ!」


楽しみというより警戒しないといけない事案になったのだが。ときどきブレーキが用意されていない行動を起こしてしまう勇敢いや無謀な危うさがあるので誰かを呼んで抑止力になってもらおうと明日の予定に記す。

場所は隣にある冬雅の玄関前。準備を終えて向かう前に冬雅に一言を伝えておこうと考えた。

どうせなら冬雅も一緒に連れていけばいいと元同伴者である女の子の知り合いが言っていたが長くなる上に冬雅を無償で働かせるような事なのと貴重な時間を別のことに使って欲しい。

なので一人で行くことにした。


「ハァー。毎回そんな一生の別れみたいな雰囲気なことしているのですか。アホですか、おにいちゃんと冬雅おねえちゃんは?」


フム、冬雅の後ろから元同居人からの辛辣な言葉が痛いですな。

弁明するなら冬雅のオーバー過ぎる反応が影響を受けてしまって錯覚をするのですよ。まぁ心理的にも真理からもしょせん錯覚なんですけどね。

まだ正式的なカップルでもないのに後ろ髪を引かれるような思いで俺はあとにした。

さて、エミリーさん野菜とか基本的に避けているから偏った食事を摂っているだろうから買い出しはと考えて住宅内にある少し広めな公園を通り過ぎようと道を歩く。


「来ると思いましたよ。フフッやっぱり来ましたね冬雅のお兄さん」


「えっなに?ってその声は三好さんじゃないですか!?」


振り向くと公園から歩いて出てくる夏服に袖を通した女子大学生さんは

隣にまで進んで足を止める。


「昨夜からエミリーさんあなたに連絡しようかと悩んでいましたので後押してあげました。

おそらくあなたは断らないと思い、ここで待っていたのです」


「そ、そうなのか。

えーと確認をするけど貴方は三好茜さんですよね?」


「そうですけど…急にどうしたんですか?自分そんな特徴が無いというよりも個性や声で分かってしまうような

全面に出ている気がするのですが」


何を今更に半分は呆れていて残りが疑問が表れていた。

けど、どういういった意味なのか首を傾げており心外そうにも窺えた。


「何というのか三好さんらしくないと言うのか…そんなキャラには見えないと言いますか」


何故29歳になった俺は、いまだに知り合いの女子大学生さんにたじたじと喋っているのだろうかと自分の成長が

無さに嘆く思いと落ち着いた振る舞いが出来ない情けなさがあった。


「指摘させていただきます。

いいですか冬雅お兄さん!現実に役割とか求められた動きをして喋るなんて現実になんて無いのですからキャラが違うなんて一方的な認識なのですよ」


人差し指を虚空を描くようにおもむろに右回りで動かしたながら持論を唱える三好さん。


「仰る通りであります」


これには否定や反論も無く、そもそも俺の失言なので素直に謝るのだった。

そして三好さんと行動することになり俺はエミリーさんが住まわれる御茶ノ水にあるマンションの前に足を止めて見上げていた。

ここに最後に来たのがいつになるのか思い出せない一方で漠然的なもやもや感がある懐かしさが心に去来した。

いざ行くとしますかと出入り口前にあるロックを解除をさせてもらってエミリーさんがいる部屋に進む。

表札には大国おおくにと名字が書かれたのが付けられている。知らない人からすれば日本人だと間違いそう。

予び鈴を押して待っているとドアを開ける紳士が笑顔を浮かぶ。


「ご足労いただき代わりに感謝させて貰わせてもらう東洋くんに茜ちゃん。

それにしても茜ちゃんは一段と可憐な女性になって――」


「すみません間違えました」


まさか三好さんに邪な目を向けてくる変態がいたとは驚いてドアを閉める。

だが、しかし閉めたドアを開けるのは変態な紳士。


「ま、待ちたまえ君たち。

なにか粗相をしたのなら謝るけど話の途中で閉めるのは不躾ふしつけではないのかい?」


たしかに話をしている途中でそんな断固措置みたいな対応は問題だった。

なら素直に謝ろうにも、その人には三好さんを好意的に見ていたのが危険だったので心情的には謝れなかった。


「そうでありますね。それに関してはすみませんでした。

でも普段の行いとか三好さんに 女性として見ていたら……つい」


「ついって…君はそんなキャラだったのかい?……コホンとにかくだよ。

俺はロリコンなのは自他共に認めてはいるが19歳になる女性には好きになれないのだよ」


そんな堂々と目の前で言われてもと俺と三好さんは顔を見合わせて苦笑するしかなかった。

出迎えた人は木戸孝允きどこういん

漢字からして下の名前たかよしと呼びそうであるが別の読み方。

エレガントスタンダード株式会社という意識高そうな人が蔓延るような社名であるが実は大手企業であり実力が備えた人が多いと噂されている。

大手企業その人は若くして社長にあたる大物になるのだが…その肩書きや仕事を取り除いて見ていけば危ない人である。女子高生と付き合いたいとか叫んでいるクレイジー。そして

女子高生と付き合い方とかナンパなど危険な本を書いてもいる。

その前にナンパは執拗すぎると迷惑防止条例にあたるの知らないのかと呆れてたことが山程ある。


「へぇー、その言葉の裏には私なんて眼中にないという侮辱なのですか?」


あれ、もしかして三好さん怒っているのか?と隣を向くと静かな怒りを闘志へと変換したのではないかとそんな雰囲気が立ち込めていた。


「ま、まさか…もちろん茜ちゃんには付き合えたらいいなぁと思っているよ。こう見えて我慢しているんだよ」


「それどうかと思いますよ木戸さん」


優秀であるのに残念な社長に案内されてリビングに入る前に洗面所でまずは手洗いを済ませてから中へと入る流れとなった。

居室はカップ麺や商品の箱や本など散らかしておりゴミ部屋と化していた。唯一そこだけは難を逃れたダイニングテーブルに突っ伏した女性がいた。

家主であり俺を招いた大国おおくにエミリーさんである。

ノルウェー人であるが育ちは日本になる彼女のつややかなボブ金髪は手入れしておらずボサボサだった。

ドアの音に目覚めたのか最初から起きていたのか分からないがエミリーさんは顔を見上げて俺と三好さんの順に見ていた。


「よく来てくれたね兄ちゃんや。

私は締め切りと戦って眠たいから、このまま寝るよ。ご飯が出来たら起こしてはねぇ。……があー」


「ね、眠りに落ちるのが早い…!?」


この速さがあれば伝説の記録を叩き出した国民的な人気のび太と互角に争えるだけの非才を持つかもしれん。

そんな現実逃避はこの辺にして、まずは掃除から行ってから料理をこしらえるとしますかと脳内で優先順位と配慮を入れたことを決めると早速と行動に移るのだった。

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