第440話―ファンタズム・ステージⅢー

どこから質問をすれば迷った結果、比翼から詳細には尋ねず高級車の後部座席リアシートに乗ることになった。

車内は感染をしないように対策に余念が無さに安心感を抱く。

着席すると後部座席の真ん中に上から降りてくるアクリル板。

たぶん運転席から折り畳みのアクリル板で間隔をとったのだろう。

窓を開けず車内で換気する駆動音とポップそうな音楽が流れるのをBGMに、俺は透明アクリルを越しに比翼の質問を答えていく。高校生になったばかりなのか話の大半が恋愛の話だ。

冬雅と真奈どっちが好きなのか?どこまで進んだのかと訊かれて困惑しながらも大きな変化はないと応えるが得心に至らず内容を少し変えて、もう一度もう二度と訊いてきた。

どうしてだろうと不思議に思ったが後になって分かった。その猜疑心は単純に興味津々だけではなく心配もあったことに。


「さぁ、おにいちゃんとおねぇちゃんたち降りてください。

ここが、わたしの新しい自家」


到着すると腕を引かれて苦笑しながら俺は降りて建物を見上げて硬直。

今日はエイプリルフールだったかなと一瞬そう脳内によぎったが今月は5月でエイプリルフールは一ヶ月前だ。

だとすると比翼の新しい実家はここだとすれば――。


「比翼もしかして住み込みバイトみたいにメイドとして泊まっているとか」


「住み込みバイトじゃないから。

ペネロペおねぇちゃんの妹になったの!本当に」


「本当に?……つまりはペネの義理の妹ということで解釈でオーケー?」


「オールオーケー」


人差し指と中指で円形を作ってウインクで肯定した。そうか…なるほどな。

つまり、どうして妹になったのか経緯をもう少しだけ聞きたいのだけど。

サファイア家の養子になったのは理解したが疑問は残っている。もやもやしたままであるが後でペネやメイドさんに、その事情などを詳しく訊いみるとするか。

冬雅と真奈の二人が静かだなと気になって横を見ると豪邸を見上げてポカンという表現が適切なほど圧巻され

ていた。

失念していたが、ここはスケールが大きすぎる敷地と建物が視界に収まらいほど広がっている。別に二人は、ここへ来るのは初めてでなくとも驚いてしまうのは理解は出来る。その上に

比翼の実家の情報、処理に追いついていないのだろう。


「プッププ、おねぇちゃんたちおかしい。魚が口を開いたような顔をしていますよ。

そろそろ中に行こう。面白いのが用意されていますから」


滅多なことでは驚かない二人が驚いているのを隣に立つ比翼は楽しそうに笑っていた。二人に近づいて催促すると

二人は硬直から立ち直って振り返る。


「ねぇ、比翼ここに住んでいるの?

暮らしとかどう。楽しい、困ったことってない?

あの大きさ、スケールはスゴイよねぇ!庭だけでゴルフコースとかで遊べそうだよ」


「どうして養子に?それよりも新しい環境に困っていない?

いつでも頼って、力になってあげるから。ワタシ大学生になったから前よりも力になれると思うよ」


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ二人とも。いっぺんに喋られたら分からないから!

生活は楽しいし良くしてもらっているよ。いつか社会に出たら恩返し

したいと思っているから。

それと冬雅おねぇちゃんゴルフに興味を感じるのだけど始めたの!?」


冬雅と真奈は疑問や興味を表に出して怒涛な質問。年上である彼女たちに比翼は同時に喋るなと言うが普通に答えられている。

そこはかとなく耳の良さや処理能力の高さなどを垣間見えるよな。お城のような門をくぐって敷地の中を歩いて入口にある門に進む。

移動中は冬雅が何故かゴルフの話題を始めた。なにかゲームか漫画の影響を受けたのかな?ともあれドアの前に着いた。さすが資産家よりも資産家のサファイア家、敷地の外から中にある建物の入口まで歩くのに数分も掛かる。

比翼がドアを開けて玄関に踏み入れる。玄関と言ったが規模はエントランスホールがしっくりとくる。

玄関ではあるが靴を脱がずに土足のまま別の部屋に行き、そこで靴からスリッパーに履き替える。

なら玄関でそうすればいいじゃないかというのは口にせず思い留めたまま。

比翼に案内されエントランスホールに戻って4階へと上がっていく。

廻廊をしばらく歩き、突き当たりに曲がるとメイドのグレイスさんが窓拭きをしていた。

近づいて足音に気づいた彼女は振り返って頭を下げる。


「おかえりなさいませ比翼さま」


「そ、そんな下げなくてもいいですよグレイスさん。頭を上げてください」


ふむ、あの奔放な女の子である比翼が困惑気味になってグレイスさんの丁寧な対応に慣れていない。

どうやら養子説は信憑性は高くなってきたなぁ。恐る恐るにグレイスは頭を上げてうやうやしく応える。


「ご配慮に恐れいります」


軽く頭を下げた後にグレイスさんは次に俺に鋭い眼光を向ける。

あっ、危機的な状況に逃げたくなりました。


「トウヨウまたですか。…しかも若い妻の二人を連れて、恥ずかしく

ないのですか?」


「くっ、なんて反論すればいいのか分からかい……」


そのセリフになにで否定すればいいのか困るし、冬雅と比翼は妻と認定されていることに照れている。

俺だけ嫌味の一つやふたつを冬雅たちには分からかいよう巧みに悪口を吐くグレイスさん。

軽く会話を区切りらせて清掃するグレイスから通り過ぎる。グレイスさんまで一緒にこられたら大変なことになると内心そう思っていたので安堵する。

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