第441話―ファンタズム・ステージⅣ―
通路を案内されながら比翼は対面で歩く給仕に、お疲れ様と労いの言葉を送っていた。慣れた様子で給仕は通路の邪魔にならないよう、わざわざ端に急いで寄せて頭を下げて敬意を払う。
なんだか後ろから歩いている俺は王様や坊っちゃんになったような
優越感に浸りそうになる気持ちよかった。さてくだらない小さな自尊心は置いて、先頭に歩いて案内をする比翼は
道を迷うような足取りではない。
養子縁組の手続きで長引くと思うのだけど宮殿のような規模がある回廊を比翼は足を止めることや地図など開くこともなく、まるで住み慣れた人が案内されているような頼もしさがあった。
そうなれば遊び相手として呼ばれた際に比翼と遊ばないといけなくなるのだろうか。まぁ、それはそれで久し振りに比翼が前に遊んでいたゲームなど
持参してゆくとしよう。
「うんざりするほど長い距離だったけど、この部屋だよ。さぁ中に入って」
ドアノブを引いて開け廻廊に立つ比翼
の所作に言葉を失った。
他人や知り合い程度であるなら俺のリアクションは大袈裟なものであるが、身近で見てきた側からして好みや癖は、よく知っている。劣悪的な環境に育ってられ暴力と暴言にボロボロになって、このまま居れば命の危険を覚えた比翼は実家から逃げていった。
逃げたはいいが頼れる相手が分からず保護してくれる組織の存在も
知らずに。
比翼は、サイコパスである大人に目をつけられ不利な提案。冷静な判断力があれば断るのだが住む場所がないのもあって搾取の対象とされる条件を呑むしかなかった。そんな生き方に是正なんて余裕もないほど追い込まれた比翼を発見して冬雅たちに協力して
保護したのだ。環境や教育をあまり受けなかったため振る舞いには欠点はあったが、それは仕方ないと半ば諦めていた。だが、ドアを開けるだけの動作に気品があふれている。
きっと厳しい指導を受けて身についたのだろう……。
「うわぁ、気のせいだと思うんだけど比翼なんだか大人らしくなってきた感じがするなぁ。
お姉ちゃんとして嬉しくもあり寂しくもあるよ」
「うん、同感かな。はしゃいで甘えるのを控えるようになって前進しているのが見て取れる。
これ錯覚なんだろうけどワタシとしては、しみじみになる冬雅の気持ちがよく分かるかな」
冬雅は姐のような言葉を発して
真奈の場合は本当に眦に涙を拭って比翼の振る舞いに俺と違うなにかを感じて、懐かしみ、感動しているよう
だった。
「む、むうぅ。そんな感動の再会したみたいな顔にならないでよ。
たかだかドアを開けただけ感激するのびっくりだし引くよ!もう、ほら中に入ってよ!」
比翼からすれば、どうしてそこで感動するんだと若干の引き気味になって照れていた。羞恥を紛らすように怒鳴っているが全然そんな怒りがこめられて
いない。
では心身共に成長したのを感慨深くなるのは、この辺にして素直に中へ入るとしますか。
この一室だけでも一軒家のスペースがあっても俺は驚かなくなった。
実際に呼ばれてペネたちと遊んでいるわけだし。
「お兄様ァァ!」
小さな足音立てて走って突撃してくるのはペネの妹であるエマリア様だ。
接触しそうな距離まで近づくとエマリアは見上げると何が楽しいのか分からないが弾けんばかりの笑顔。
「こんにちはエマリア様。
ちょっと会わないうちに大きくなったんだね」
確か当たっているか自信がないがエマリア様は今年で10歳になる。
糸のような一本、一本がきれいな金に輝く髪を後ろに束ねたポニーテールは伸びていて顔つきや身長も成長しているのを見ていると時が確実に進んでいるなぁと一種の親子心にしみじみになっていた。
「………」
「エマリア様?」
ほとんど思ったことを口にした言葉にエマリア様は大きかった目をさらに大きく見開く。その原因は、俺の発したセリフによるアクションなのは明白な
反応。そうだとしても驚愕させる
ような言動はしていないはずだ。
「お、お兄様のえっち!」
「…へっ?うん、うーん…急にどうしたんだい。思い当たるのが無いのですけど」
おっさんくさいとか親かなどツッコミじゃないかな。きっと、そうだ!
今のは間違って単語を使ったはず。
「大きくなったと面と向かって仰りました……まだ成長途上中ですけど指摘されると……いくら、お兄様でも」
顔を赤らめて自分の胸をさするように大きさを確認を取っていた。
「…ああ、そう解釈をしたんだね。
エマリア様、そういう意味ではなく裏がなく言葉通りの意味です。
背が伸びて成長したことに対しての意味であります」
「……え、ええぇぇーー!?」
その悲鳴は俺も叫びたい。
どうしてそんな早とちりをしたのか敢えてスルーするけど今後こんな誤解
がないようにエマリア様には言葉を選んだほうがよさそうだ。
「ふーん。東洋お兄ちゃんって小さな女の子が大好きなんですね?」
ハッ、殺気がきた!?
声の方はエマリアの後ろ。エマリア様と同じ視線に屈んでいた俺は顔を見上げると腕を組んで機嫌が悪そうする
「やぁ、こんにちは花菜」
「へぇー。幼い子をセクハラして、いつもどおり挨拶?ふーん」
(あかん。めっちゃ怒っているやん!)
つい関西弁に心の中でツッコミをいれる。なにか擬音が聞こえそうなほど
怒っている目をしている。
「ゆっくり息を吸って吐いてねぇカナちゃん。
お兄さんはそんなことをしない。優しいのはカナちゃんだって知っているのじゃないかな?」
「真奈さん…そうですよね。
ちょっと頭が熱くなっていました。
反省します」
ふむふむ、指摘されて目を逸らさずに受け入れふ素直さは、よろしい。
けど花恋のしたことは間違ってはいないし自責の念を抱く必要はないと思うのだけど。
「ご機嫌よう。兄も災難だったね」
そう同情してくれたのは花恋。花恋の隣に立つと小さく手を振る。
今日も今日とて正体を隠そうと偽装している。チョイスが高確率でサングラスなのもどうかと思うが本人は、
もしかして気にいっているのかもしれない。
「ああ、こんにちは猫塚さん。
色々と大変だと思うけど困ったことがあったら、いつでも相談してくれ。
余裕があれば力になるから」
「ありがとうございます。
あの…それで、大事な話があるのですが……よろしいですか?」
「大事な話?」
すると猫塚さんは顔を伏せる。頬はみるみると赤くなっており、落ち着かずにいる。片方の人差し指をもつ片方の人差し指で軽く触れて離すなど繰り返していた。
目はどうやっているかサングラスで分からないが一つだけ確かなのは。
顔は赤いし告白をする前兆にも予想が出来た。
どうしたものかと悩んでいると猫塚さんは決心したのか顔を上げた。
「はい!あの、私――」
「む、無理しなくても―?」
「私と兄って、もう友達と思うのですがどう思いますか?」
うん?どういうことでしょうか。理解が追いつけないや。
「ほ、ほら。やっぱり気になるし」
失念をしていたが猫塚さんは異様なほど友人が欲しくて渇望しているトップアイドルだった。
「……もちろん猫塚さんと俺は魂の友達に決っているじゃないか」
「ほんとうですか!?やったーー」
そこまで歓喜しなくとも。しかしそこまで感激して少踊りをするほどの猫塚さんを見て良かったかなと思うのであった。ですが告白を敢行するような
誤解は最後に、してもらいたい。
「集りましたね」
凛々しく透き通る声で言ったのはペネ。俺や真奈がいても驚かないのは前もって知っていたからだろうか?
ペネは視線を巡らした後に言う。
「完成しました。ようやくら、くくっこれから、せっしゃは大人になります!」
ペネは周囲に一人と一人の順で巡らかしてかられ声高にペネは宣言をするのであった。
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