第418話―花恋ライフライン2―

「あの!教えてもらっている身分ながら質問させても、よろしいでしょうか真奈さん」


「もちろん、いいよ。どんな小さなことでも気になる点があればガンガン訊いていく大切なの心得てねぇ。

それじゃあ、何が気になるのかなカナちゃん?」


これで何度目になるかの勉強の質問に真奈さんは嫌な顔を一度も浮かばない。それどころか困っている人に手を差し伸ばす女神さえ見えてくるぐらいだ。絶妙な顔の傾き加減での微笑むのは同性にも惚れる人がいるのを心中で納得する。


「去年やったはずの数学なんだけど全然なにも分からくて…どうすれば解けばいいのか」


中学から簡単じゃんと最初は思ったものの途中から複雑な問題や次に進んだため付いてこられなかった。高校に至っては見るだけで苦痛になる数学アレルギーになっている。


「えーと、どれどれ…ここが難しいとなれば優先するべきは多数処理などは下げて取得を基礎から根気よくがいいかもしれないねぇ」


「…ま、真奈さん。もしかしなくても簡単なレベルを解けないことに引いちゃっていません?」


現役東大生からすれば鼻に笑うほどレベルなんだろう…たぶん。


「ううん、そんなことないよ。

これぐらいで引かないよワタシ。

冬雅のアクティブな行動と比べたら」


「マナマナ。それフォローじゃなくてマシなレベルになるよ。ワロ」


隣からツッコミを入れる明るい笑顔で紬が言う。やっぱりヒドイのか。そういえば紬も勉強を手伝ってとお願いしたが何を勉強しているのだろうかとチラッと覗くと、

中学一年レベルの数学問題集。しかも間違えている箇所がある。

…見なかったことにしておこう。


「えっ!?そう受け取れることになるんだ…。カナちゃん、そんな意図で言ったわけじゃなかったの。ごめんねぇ」


「い、いえいえ!傷ついていませんよ。そんなことよりも問題だよ真奈さん。早く教えてください」


純粋な好意で勉強を見てくれる相手に対して催促するようで申し訳ないが早く終わらせて東洋お兄ちゃんと遊びたい。…冷静に考えたら冬雅さんと二人きりさせている。…これって危険じゃないのかな。


「そうだねぇ。別の問題集を取りに降りるから少し待ってくれるかな?」


「待っているのもヒマなんで私もついて行くよ!」


冬雅さんとお兄ちゃんが気になるし。お兄ちゃんの部屋を出て廊下を歩く。紬を残して一階に降りたけど、真奈さんは私がついて行くとは言ったけどリビングに行くとは知らない。言った方がいいかな?

小さな悩みだと分かりながらも考えていたら先頭に歩く先輩の目的の部屋はリビングのようだった。

私も続いてリビングに入ると東洋お兄ちゃんと冬雅さんは真剣な表情を浮かべて取り組んでいた。

東洋お兄ちゃんはPCの画面の前で、おそらく小説を書いている。

冬雅さんはタブレットを持ってペンを走らせていた。たぶんイラスト。

これは邪魔しないほうがよさそうだ。私は真奈さんに見習いながら音を鳴らないよう気をつけて部屋を後にするのだった。

リビングを出て一息を吐いてかは二階にある部屋のドアを開けて戻ると紬がスマホを弄っていた。


「あぁー、駄目なんだ。紬たら。勉強中にスマホをしていると脳に悪影響があるって私のお母さんが言っていたよ」


「や、だって。着信音が鳴るから気になるじゃん普通に、人として?」


人としては関係なくない?と、ツッコミしようかと悩んだが面倒くさいのでやめた。


「カナちゃんその研究発表のこと知っていたんだ。スマホが部屋にあると勉強の集中力に妨げること」


振り返った真奈さんがお母さんにうるさく言われた注意を私もしただけなのに褒められるとは…びっくり。


「あっ、はい。実はスマホの研究データは詳しくないんだけど…。

お母さんにキツく言われて、それで」


「そうなんだ賢いお母さんなんだねぇ。少し強引な手を使わせてもらうけど紬のスマホ勉強が終わるまで、お兄ちゃんに預けておくねぇ」


「うそ!?マナマナすごい鬼!」


生真面目なマナマナこと真奈さんは言ったことを有言実行した。真奈さんが戻るまで私は紬に軽く恨めしそうに睨まれるのだった。

さすがに理不尽極まりないなぁと心の中で苦笑はした。


「お母さんスマホに詳しいけど学者とか開発とかしているインテリ系なの?」


「えっ?」


見ないふりを徹しようと決めていたが紬が話を切り出した。まさか話掛けられるとは思わずフリーズしまい溶けるまで数十秒ほど掛かった。


「お母さんはIT企業の社長」


「ふーん…」


「だから詳しかったりするのかな?スマホには勉強の阻害性があるとか言っていた気がするなぁ。あまりにも、うるさいから一人のときは守っていなかったかな?」


「守ってないのかよ!でも意外。カナリンなんだかキャラ違うよね」


「あはは、それこそキャラなんて呼ばれるなんて意外だよ。

けっこう普通だと思うけど」


真奈さんが入るまで紬と話を盛り上がっていた。戻ってくると休憩がてらと、お菓子を持ってきてくれたが勉強の進捗よりも会話が進んでいたことを告白すると叱られるのだった。

ようやく終ると勉強を取り掛かろうとして私はおののくことになる。

問題集が中学生用だったのだ。理由を尋ねたら先に基礎を学んで理解していくことからと言われた。

不平不満があるものの、ようやく終わり出したから3人で東洋お兄ちゃんと遊ぶのだった。

楽しいかった時間が過ぎ陽が傾き始めると冬雅さんが実家に戻ると言った。

実家に帰るとは本人はそう言っているけど単に帰るだけじゃんと思った。

悲観的に感じているのは冬雅さんだけだし、玄関まで冬雅さんを見送ることになった。


「お兄ちゃん…わたしたちの家に

一人させること許してください。

離れてしまうことになるけど引っ越しが終わったら、すぐに会いにいくねぇ」


な、なにをしているの冬雅さん!?東洋お兄ちゃんの左手を握ったと思ったら絡めて始めた。


「恋人繋がり……。少し否定させてもらうけどワタシがいるから、お兄さんは一人じゃないよ」


真奈さんは顔を赤らめながらも冬雅に穏やかな声で言った。対抗意識を燃やしいるよりも冬雅の暴走を止めようと水を差す狙いが見える。


「身体は離れても心は離れません。お兄ちゃんとまた、いつか一緒に…」


危ないワードを狙って言っているじゃないのか冬雅さんは!周囲からは変態とか下心丸出しと言われる理由が分かった気がする。


「あー、冬雅さん。そろそろ行かないと電車が予定時間に遅れませんか?」


「えっ?…ああ、うん。全然どうでもいいので構いませんよ。それよりも、お兄ちゃんと逢瀬を重ねることが肝心ですので!」


だ、駄目だった。早く行けという意図を知ってか知らずなのか滅茶苦茶な理屈を述べて玄関から離れようとしません。もう靴を履いているんだから後は百八十度を回ってドアを開けば終わりなのに。


「フユミン知っている?しつこい女の子って男の人からしたらウザくて嫌われやすいみたいですよ」


駄目だよ紬。そんな誰でも思いつくような事じゃ冬雅さんが動くはずがないじゃない。ほら、今にもニコニコしているままだし。


「お兄ちゃん健康には気をつけてねぇ。また明日さようなら!」


「あ、ああ。道中には気をつけるんだよ」


「「「…………」」」


東洋お兄ちゃんに手を振りながら冬雅さんはドアノブに手を伸ばして開ける。ドアをくぐると別れを告げて帰っていた!?

こんなあっさりと解決するとは。


「…真奈、留守番を任せてもいいか」


「うん…いいよ」


真奈さんが返事をするのをお兄ちゃんは笑って応えると部屋着のまま外を出るのだった。おそらく冬雅さんを追って途中まで見送るのだろう。

東洋お兄ちゃんの中では訳の分からない理由で両親がいる家に帰る冬雅さんと少し年上とは思えないほど熟成な精神と献身的な真奈さん。

見せつけられるようだった。その距離と愛情に。どうして、もっと早く東洋お兄ちゃんに私は出逢えなかったのか?そうしたら東洋お兄ちゃんは私に特別な感情を持ってくれたのだろうか…分からない。

これは勝手な憶測で懇願で願望で希望…妄想なんだ。

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