第405話―初対面のように接する妹と親友3―

その振る舞い方は、感情の吐露というものが無かったように顔の変化が殆どなく以前の冬雅が戻ってきて懐かしかった。まぁ、多人数での行動や以前のようなデートが出来ないから自宅でのリビング行うことになったが。その他にも違和感は――


「そう…なんですね。やっぱり山脇やまわきさんの見識の広さには頭が下がります。…どうして今まで彼女がいないのか…不思議でなりません」


(そもそも過去の冬雅なら好意的の手前ぐらいの俺に向ける言葉じゃないんだよね。

やっぱりなんて時間と関係が築いていないと出てこないし、それに最後の質問なのか愚痴のようなセリフも頻繁に投げかけられているからな………)


ダイニングテーブルを挟み、向かいに座る冬雅に俺は少し困りながらも答える。

確かに、これは演技だな。その内容は今の冬雅だからしているので暗かった時期の冬雅は当の本人が気付かずにやっているのを見ていると、なんだか変に愛おしくなり微笑ましくなる。ようするに成長したんだなと感慨深くなるのであった。

お茶を飲んでの初対面という設定で俺と冬雅は落ち着いて談笑を楽しんでいた。冬雅のスマホから着信音が響き、一言を入れて画面の文字を目で追っているのを眺める。読み終えたのだろうか、「あっ」感嘆の声を出す。


「どうやらお兄ちゃん、わたしの時間はこれまでのようです」


「これまで?……あ、ああ。もしかして一対一マンツーマンでの時間を決めていた?」


ちょっと説明が足りないと口にしてから気付いて不足の補足をするべきか迷っていたら冬雅は首肯する。


「はい。それぞれ欲望に忠実なしでの議論した結果が一対一、なので今回の目的はお兄ちゃんをドキドキさせるのではなくて緊張させるつもりですたけどねぇ」


どうやら俺が何を訊きたかったのか理解してくれたようだ。長い付き合いだからこそ為せるコミュニケーションだなと再び感慨深くなっていると冬雅は整った顔を不安そうな色で見上げる。


「頭の中ではシミュレーションしたんですけどねぇ…お兄ちゃんがいつもと違う、わたしに戸惑うとか惹かれるのを。

もしかして失敗…したのでしょうか?」


それは、どういうことだろうと考えようと考察する前にその意図が読めた。いつもなら俺か冬雅が照れるなり暴走するのが日常生活の一環みたいになっていた。もしかしてお互い演技と分かっていながらも落ち着いて話し手と聞き手を交互に繰り返し和やかな空間を失敗したんだと解釈したのかもしれない。


「はは、まさか。そんなことあるわけ無いよ。どうしても成否を付けるとするなら、成功になるよ」


「せ、成功ですか…」


逆にどうしてそんなに不安に思うのかと思いながらも疑問は片隅に追いやり俺は間、髪入れずに答える。けど冬雅としては満足していないのか自己評価は高くない。

いやネガティブな評価で俺が傷をつかないように気遣っていると思っている。

もし、そう考えているとしたら

それはノーだ。どっちかと言うと家族みたいに気兼ねがなく隣にいて、それでようやく自宅に本当の意味で寛げる存在で落ち着ける。

それを言うには俺は冬雅のように勇気が際限無く湧けないので本音は口に出来ないが気持ちなら伝えられるはずだ。


「ああ。斬新で懐古心な時間だったよ。冬雅がいつもいるから落ち着けるというのか…えーと、小説志望者なのに上手く表現する自信がないなぁ。でも言うよ。

冬雅がいつもの姿を見ていると安心する。隣にいるのが幸せで心が温かくなって落ち着ける。

あれ?これってリサーチの目的と脱線していないかな?」


なんとか伝えられる範囲で伝えた。けど、これって本来の目的とは違う方向に進行しているのでは。


「…お兄ちゃん。わたしも実は、そばにいるだけで幸せでいっぱいでした」


言葉を聞いてくれた冬雅の反応は静寂で熱意のあるものだった。

突貫する勢いで想いをぶつける暴走機関車なテンションが常日頃。

ときどき見せる愛おしいそうに表情されると…少し困る。


「冬雅…」


名前だけ呟くだけというのも想像に絶する恥ずかしさに、それどころじゃない。見つめ合う形となって、数分が経過して冬雅は両手で俺の右手を包むように握りしめて少し前に引く。俺と冬雅が目詰め合うのを壁となるようにして。


「良かった。わたしと同じ気持ちでいてくれて…その、お兄ちゃん改めて言うのも恥ずかしいですけど。

大好きですよ。2年前よりも…そ、それじゃあ」


いつもと告白して冬雅はリビングを出るのだった。そしてクールダウンしてから、とんでもないことをしたなと頭を抱える。

相思相愛なんだから常日頃している告白が、いつもと違うだけでこうも与えるものが違うのかと実際に体験して識った。

―ドアが開く音が聞こえた。音のした出入り口を振り向くと真奈が軽く会釈をした。


「こんにちは。もしかして山脇さんですか?」


微笑を浮かべた真奈は俺に近づくとそう声を掛けるのであった。

そういえば失念していたが、マッチングアプリで知り合った設定でのデートを協力してくれるのだった。


「あ、はい。俺が…私が山脇です。すると貴女は平野真奈さんですか?」


なんだか、すごい頭のおかしい質問だなと思った。あれだけ毎日と真奈と呼んで遊んだりと生活しているのに、初対面で話すのは。


「フフッ。はい、そうですよ。

会うまでは不安でしたけど、良かった。山脇さんを見ていると優しい人で安心します」


「ああ、それは私も」


ここから一人称は私で行こう。それは、ともかくとして真奈が初対面で来るはずなのに、距離感が近い。

演技ではそうでも俺と真奈は好意を持っていて実際には距離感や趣味も近い。とりあえず場を作ろうとお茶を飲むことにした。まぁ字面的に意味ではなく飲み物を飲んで談笑する。ドリンクは、それぞれコーヒー。

淹れて運ぶという作業中、ここを喫茶店などデート場所のシュミレーションとはいえ現実はシュールになる。ダイニングテーブルを挟むように着席して話を始まる。

最初は無難に趣味や好きな作品などで話を進んでいたが。


「早速で申し訳ないのですが山脇さん隣いいですか?」


「えっ、あ。はい」


途中から真奈がそう言い出したのであった。戸惑いながら答えた俺であったが気持ちは分かる。

いつも隣にいる真奈が目の前に座っているのが。


「フフッ、こうしていると力が湧きますねぇ。まるで二人で一人…みたいで。ちょ、ちょっと恥ずかしい」


「そ、そうだね…」


ぎこちない真奈に俺の答えにも、ぎこちなく首を立てに振る。

少ししてから真奈から手を握られ純粋無垢な快活な笑みを浮かべる。

また少ししてから肩と肩が触れる距離まで詰め寄り、上機嫌になっていく真奈。初対面で、ここまで詰め寄られたらストーカーかセクハラ範囲になるが、そんな下心が

無いのが真奈。天然と純粋無垢は、ときには凄まじい行動を起こすものなんだなと思うのであった。

ともあれ冬雅と真奈のおかげで、マッチングアプリごっこみたいになったが、得られる経験はあって再確認もして確かに間口まぐちを広げたと思う。

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