第395話―バレンタインデーは甘くてあまくない?―

親しい人にチョコレートを贈る日が迎えた。女性に義理チョコさえ貰えず無関心でいられたのは過去形、目覚めると二人はチョコ作りに先に起きたのか隣に寝ていたはずの二人の姿はなく俺も居室に向かおうと一階に降りて洗顔をしてから入る。


「ボンジアお兄ちゃん、相思相愛の仲でデート重ねて来ましたよね。今日も忘れない思い出にわたしが作ったバレンタインチョコです。

去年よりも想いを込めて…受け取ってください、お兄ちゃん!

ずっと、わたしの前で笑ってください。去年のわたし想いよりも大好きです」


赤と白のコーディネートをしたバレンタインイメージになんとなく合うと感じさせる私服の冬雅に

開口一番、挨拶と告白を受けた。

前に差し出すは丁寧にトッピングされた小さな箱、俺はそのサイズを見て驚愕した。溢れんばかりの想いと同等な規模でワンホールサイズだと覚悟していた。


「あ、ありがとう冬雅。…貰えるの分かってはいたけど動揺させられるものなんだな」


ここが落ち着き場所である我が家だからこそ。つい出てしまった心の声。ありがたく箱を受け取り中身は何が入っているのだろうか。


「そうですよねぇ…何でもない日なら告白しやすいのですが。バレンタインデーだと想いをこれ以上ないぐらいに伝えるのですから緊迫しますよ。でも、それも含めてドキドキ感いっぱいになります」


「そ、そうなのか」


敵中に斬り込みほどの勇猛果敢さを持つ冬雅らしいロジックだった。正直この滅茶苦茶な考えを少しだけ同意している自分がいる。

気分次第で、その日は記念日。毎日レパートリー違いの告白をやってのける。好きな人に贈ってもらうバレンタインデーは想いが強く届く日だと。


「二人だけの世界を壊すみたいで少し躊躇ためらってしまうけど、お兄さん次はワタシの番」


静観していた真奈の言葉に振り返った冬雅は微笑を浮かべて道を開ける。冬雅は邪魔にならない静観するように距離を取る。知らない内に二人はルール付け締結しているのかな。


「お兄さん大好きだよ。ワタシここまで人を愛した事がなくて…他の女の子と幸せなら隣にワタシがいなくてもいいかな思っていました。

今は手を繋いで、お兄さんを他愛のない話で花を咲かして寛ぎたい。ワタシが強く信じてやまない運命の人はお兄さんだけだから」


ラッピングされた箱を差し出して真奈はいつもよりも感情的な言葉に嬉しかった。この気持ちをどう返事をすればいいのか迷った。

運命の人だと感情的のままに言って後々に傷つけられないか。


「真奈…ありがとう。とっても嬉しかったよ」


しばらく真奈は言葉を窮した。これは間違っているのではないかと焦る。


「…フフッ、うん。どういたしまして…かな?でも、いつか冬雅みたいに、お兄さんの口から愛している大好きを言ってみせるから」


真奈は優しく好戦的に微笑んで宣言する。言葉の意図をすぐ読み取って後ろ向きじゃなく前向きで突き進む容易に諦めない強い意志がある。


「え、えーと…そうだ。素朴な疑問を一つ、冬雅と真奈のプレゼントはケーキワンホールだと思っていたんだけど、普通のサイズで驚いたよ」


どうにか甘くて恥ずかしい雰囲気を逸らそうとして咄嗟に浮かんだ少し失礼な質問をする。冬雅と真奈の二人は顔を合わせて、どんな意思疎通したのか視線を戻す。


「お兄ちゃん大きいければ愛情の比例では無いんですよ。それにサイズ理由は…この先は真奈が」


「ほら、お兄さんワタシたちだけじゃないと思って。これから他の女の子にチョコを貰うと考えたら辟易しないぐらいのてのひらサイズにしたの」


た、確かに二人がこの先を斟酌しての掌サイズのチョコ。俺はもう一度お礼をしたくて言の葉を紡いで微笑み返したのであった。

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