第394話―チョコを試作する冬の畑に咲く冬雅―

今日は、いつになく菓子類が作られていた。俺は今日は何かの記念日なのかなと記憶を掘り返しながらテーブルの上に並べる数々の種類を眺めては口に運ぶ。少し前に告白をした冬雅が作るのはチョコパウンドケーキ、キャロットケーキ、ガトーショコラ、ガナッシュなど作った経験が浅い俺でも高度な技術が求められるものばかりだ。そして冬雅たちにスルーしたがハート型ばかりで毎日と告白をすると有言実行するだけはあると俺は感心と呆れが半々とさせる。

一方で勉強では天才を超えて鬼才きさいである真奈が作った料理は普遍的な物だった。チョコを入れたクッキー、カップケーキと他にも作られているがコゲがついたり失敗したチョコもある。本人は失敗するたびに捨てるのも勿体ないと後で持って変えると言ってはいるが当分は帰る意志がないので恐らく咄嗟に出た言葉で食べさせたくないのだろう。真奈が作った失敗作を手に取って口に入れて咀嚼する。


「甘くて美味しい!失敗したのは悪魔で見た目だった。外はカリとしていて中はとろける甘さがあって個人的には好きな味」


大きな独白に台所でチョコを作っている真奈は振り返って目を瞬かせて、すぐ愛おしそうに微笑む。

うーん、それ恋人に向ける笑顔ですね。直視するのが恥ずかしく目を逸らして回避行動を取る。


(それはともかく昼食の前に、二人とも今日は張り切っているなぁ。

チョコを試作どれだけすれば満足するのか…こんなに糖質の多いのが摂取していたらお腹の周りが不安だ)


今でも真奈は冬雅にアドバイスを受けてチョコ作りに頑張っている。その姿にそれほど試作を精魂尽きるほど遮二無二とさせる気力の源はどこだろうかと考える。何がそうさせるのか分からないが台所に立つ二人の姿は楽しそうにしている。とても割り込めない。うーん、これが…若さか。


(受験も終わったし後は天命を待つだけ。合格するのは確定として不安は無いけど…卒業した二人にどんな言葉を送るか具体的に考えないと。今は2月の中旬なわけだし卒業まで迫っているから……

あぁー、そうか。なるほどバレンタインデーが迫っているから二人とも張り切っていたのか)


謎がすべて解けた。だからなのだろう2月14日まで一週間もないから冬雅と真奈はチョコを試作を開始しているのだ。視線に気づかれないよう横目を向ける。表情には真剣味が表れていた。


(そう考えたら足が浮いたみたいに俺も慌ただしくなってくる。

それと…当日には二人だけでは終わらないんだろうな)


楽しみもあり不安もある。きっとここ知り合ったばかりの花恋たちにも渡される可能性が高い。本命チョコか義理チョコか判断が付けず返事も考えないといけない。

加えて義理チョコを装って本命チョコを渡されるかもしれない。


「ハァー、」


大変に光栄で甲斐性が皆無である俺ごときが渡される事さえ、おこがましく思う。だけど、彼女たちに喜んでくれるような言葉を探すと考えたら嘆息が零れる。


(バレンタインデーって渡される俺にも悩んでしまうものだったのか…)


きっと俺だから悩む。どれだけ貰ったとか?それを実際に貰った側になれば解る。想いを込められているから簡単に無下にしない。

込められたプレゼントを簡単に捨てるほど楽観視していないし、その選択肢は最初から排除されている。

試作の数が合計のべ数百を超えてしまい流石さすがの俺も苦笑した。残ったのは冬雅と真奈も食べるが減る気配がなし。凄まじい数を冷蔵庫に保存…冬雅と真奈よ、加減を知ってほしい。


「あはは、わたしと真奈ちょっとお兄ちゃんを大好き気持ちを全面に出ていたんだろうねぇ。気づいたら正午が過ぎていて反省です」


「う、うん。途中からワタシ完成度よりも冬雅にはお兄さんの想いだけには負けたくないと闘争心みたいなの火がついてしまったし。

ある意味これ重たい黒歴史…」


さすがに冬雅と真奈は反省している。張り切っているから指摘しなかったけど注意とかした方が良かったかもしれない。ともあれ、バレンタインデーの当日は今日あれだけの量が渡される…ことは無いと思いたい。

ピンポーン、と部屋に響くは呼び鈴。3人で玄関に向かい真奈がドアを開ける。すっかり我が家の住人意識が芽生えてしまいましたなと誰からとなく心で呟く俺。


「あれ、香音だ!フフッ、こんにちは。さぁさぁ上がって」


「…は、はい!こんにちは真奈様。

今日も晴天の喜びに至る気持ちでいます。今日も可愛くてかわいいです!」


同じ同級生であゆ香音が訪れて真奈は真っ直ぐな笑顔を向けて挨拶をする。すると香音は赤面しどろもどろ慌てて挨拶を返す。感激のあまり語彙力の一部が消えていた。


「こんにちは。そう言えば香音も冬雅たちと同じ年齢だから今年で卒業だったね。困ったことがあったらいつでも相談してくれ。話を聞くだけしかなれないと思うけど」


「はぁ!?そんなあるわけないでしょう。何を卑下をしているの気持ち悪いんだけど…ともかく。

感謝だけする。どうも」


照れながら玄関ドアをくぐり抜ける香音。ツンデレな反応する香音の隣にドアを閉めた真奈が立って微笑むと察知した香音は驚く。

いつの間に真奈が隣にと言わんばかりに顔を伏せて恥ずかしそうにする。真奈に好意を持っているから初々しい反応に百合は最高ですなと心中で狂喜乱舞する。


「あそこまで威張っているけど香音が、静かになるの珍しいよねぇ。やっぱり大好きな二人に笑顔を向けられたからかな?」


「はぁ!?何を言っているの冬雅のクセに。うわああぁぁーー!」


「わ、わわ。いたい、いたい。頭をアイアンクローの威力が女の子じゃないパワーなんだけどぉぉーー!?」


鬼の形相になる香音は腕を伸ばして冬雅の小さな顔を掴むと力を込める。真奈からは二人がたわむれいるように見えているが俺は本気で攻撃をされて苦しんでいると知っている。

アイアンクローから開放された冬雅は涙目になりながらリビングに。香音は咄嗟にアイアンクローを繰り出していたが手を洗っていなかったのを開放された冬雅が指摘した二人は洗面室へ。

菌がついている恐れがある除菌していない手で顔など触れないように良い子や悪い子は決して真似しないようにしよう。山脇東洋の約束…これを一度やってみたかった。


「それにしても二人とも来るの遅いですね、お兄さん」


「そうだな。二人ともナニをしているか見に――」


「おまたせしました!」


ソファーから立ち上がろうとして冬雅がリビングに元気あふれる声と動作で入ってきた。冬雅の後ろには香音もいて身体を揺らして恥ずかしそうにしている。それは、何故か、畑をたがらす女の子用のつなぎ衣装していたからだ。その農業着はオシャレを追求しており冬雅は橙色で香音は灰色。


「えへへ、どうですかお兄ちゃん。今日は趣旨を変えてみたんですよ。頭をなでなでして、褒めて」


麦わら帽子をしているのに頭を撫でる事、出来るかなと思いながらも取り敢えず頷いて言われた事をする。

普通に感触は麦わら帽子であった。


「活発で元気な冬雅を見るのも好きかな。ああ、可愛いよ冬雅」


「す、好き…あ、ありがとう。

…お兄ちゃん。わたしの方がお兄ちゃんを大好きです」


そこで張り合わくてもと思いながら頭を撫でる。何か視界の端に見られているなぁと感じて、そちらを見ると香音が羨ましいそうに口を開いている。香音は俺と目が合って慌て始めた。


「な、何か甘いのが急に食べたい気分になったなぁ」


香音が反射的にそんな言葉を言うと振り返る冬雅。


「あっ、それならチョコたくさんあるよ。真奈が作ったのも」


「ぜひ!」


香音が前のめりになるのは真奈プランド効力なのは言うまでもなかった。さすマナ。ちなみに冬雅は自分が作ったチョコを勧めるが香音は興味がないと返され真奈が作ったチョコを平らげていくのであった。

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