第367話―あるネガティブなJKのために彼は告げる―

ついに冬雅とは離れたまま今年が最後となる日が迎えた。

これほど長い人生の中で最悪な目覚めはなかった。理不尽な扱いを受け、なおそれでも学校や会社に罵声を浴びるための目覚めよりも俺を憂鬱にさせる。

それだけで希望が砕かれそうな状態に錯覚、すがる気持ちでベランダへ入っても…冬雅はどこにもいない。


(これでいいんだ。所詮しょせんは上手くいくはずがない恋なんだ。

…そう無理に納得しても本音は静かにしてくれず、俺は動くんだな。

冬雅に逢いたいって想いは消えない)


理屈じゃないのは、この事だった。納するための言葉を、どれだけ理路整然とした言葉を並べても遠くある深層感情からは、ただの羅列られつに過ぎなかった。

どうしてか?付属されるのは微量の想いでは響くことはないから。

今年とお正月は冬雅とは笑って過ごす事は無い、けど真奈に励まされ来年はと前向きになれた。

俺を一途に想っての言葉は透きとおるように響いた。

心機一転と気分を新たに朝食を作り彼女達を待っていると――


(遅い。今年が最後だから気合を入った真奈が告白まがいな事をすると思ったんだけど…これは予想外)


時刻は9時半。もしかして事件に遭ったのだろうかと不安が襲う。何かあったのだろうかと席を立ち

居室を回る。

一瞬だけ浮かんだ一時的な不安は現実に起きたのでは辺りでピンポーンと鳴って杞憂となり安堵のため息をこぼす。

ドアを開ける前に真奈だと直感がそう言う。その根拠がなくアフリカで生まれた人類の祖先アウストラロピテクスが多くを頼った直感は的中した。


「おはよう、お兄さん。

やっと明るい顔をしてくれてワタシ嬉しいよ」


両手を組んで目を潤む姿はまさしく女神であった。何度目になるのか見惚れそうに…いやなっていた。


「はは、大袈裟だよ。でも真奈の言葉で諦めないと決めたからね。

おはよう真奈、さぁ朝食を食べないか」


「うん。フフッ今日は何かな?」


まるで実家に帰る気楽さで真奈は家に上がる。今日のメニューは豆腐丼とうふどんとシジミ味噌汁。

テーブルを挟んでの朝食は静かな雑談は盛り上がった。


甘味甘露かんみかんろで美味しかった。突然だけどお兄さんにぜひ協力してほしいと紬にお願いされたの」


「不死川さんが?ああ、もちろんいいよ。やっぱり動画撮影はゲームかな」


「たぶん。そうだと思うよ」


微笑を浮かべたままの真奈は頷く。

寒い外に出るため着替え終える。真奈と手袋越しでの手を繋ぎ速度を合わせて歩く。

移動している間はゲーム、アニメの話題だけになるはずなく好きな髪飾りなど訊かれてしまい応えに困った。とりあえずこだわりがなかったけど有り体に答えたのは花。

不死川さんの家に到着してインターホンを押そうと手を伸ばそうとすると真奈に手首を掴まれてと止められる。


「えーと?」


「あっぁぁ!押さなくて大丈夫だよ。

紬から動画にインターホンの音が入るって怒られた事があって、鍵を渡されたの。なので押さないで入ろう」


「あー、言われたらそうだね。

なら静かに入るとしますか」


「うん。静かに…ねぇ」


素早く3回も縦に頷いた。何かを隠しているのは分かりやすい言動で悟る。本人は真面目に隠そうとしていているが一種の示唆だった。


(お邪魔します)


ドアを極力と音を立てないよう気をつけだが閉めた時に大きな音を立たせた。これで誰かが来たと居室に届いた事になる。

まず向かったのは洗面所で汚れ落とそうとするが家主に許可どころか一声も掛けずにするのは、

ちょっとした盗賊になった気持ちだ。

異世界で渡る機会があれば盗賊として手を洗うだけの盗賊と巷が騒ぐことになるだろう。そんなバカな考えをしていた事を露を知らない真奈はタオルを差し出された。

お礼をして受け取る。拭き終えると奇襲を仕掛けるように左手を握ってきた。

こうなればトイレか家を出るまでは長時間は手を繋ぐことになる。


「お兄さん今日はびっくりすると思うよ」


「うーん、よほどの事がなかったら驚かないと思うけど」


「ううん。驚きますよ」


「そう、なのか?」


手を引かれ導かれて確かに驚いた。

そこにあったのは乱雑に置かれた居室ではなくキレイに整理された居室。ソファーに腰がけているネガティブなJKは俺に両手でカップを持ちながら入ってきた俺に目を見張った。


「…どうして山脇さんが、ここに」


冬雅は、どうにか言葉を出したのは苗字で俺に質問だった。


「私達がそうするべきだとしたんです冬雅さん」


それを応えたのは俺ではなく花恋だった。この空間には本来いるはずべきの不死川さんがいない。

雑談していたのだろうか、花恋は冬雅の向かいの位置で座っている。


「……言いにくいのだけど言うねぇ。

そうするべきって…必ずしも本人が望んでいるわけじゃないんだよ花恋」


冬雅の静かな叱責に花恋は、肩を震わせて一瞬だけ身を仰け反り怯むが…そう一瞬だけ。

勢いは衰えず果敢に、前のめりにな姿勢で花恋は言う。


「そんなの…知っていますよ。

身勝手な振る舞いなんて!

けど、それが私の専売特許?って奴だから。とりあえず仲直りして寄りを戻せばいいんですよ!

一人で始めたわけじゃないんです」


論理的な指摘に対して返されたのは感情的な言葉。今度は冬雅が怯む番となる。

まだ状況についてこれず傍観するだけの俺は最後の言葉に疑問を抱く。


「この計画を発案したのはワタシとカナちゃんなんだよ冬雅」


真奈は足を前にして、そう告白した。


「どうして真奈……」


冬雅はこの先は言葉を発せずに目で問う感情が垣間見えそうにない。

責めるように、感謝をするように、歓喜が混じった絶望するように、親と迷子になった幼子が無性に縋るように、期待するように…

多種多様な感情、それが今の心境なのだろう。


「カナちゃんが答えてくれたけど…お兄さんと冬雅をドキドキ関係に戻すため!」


「「「………」」」


「…あうぅ、いつもそううそぶいた冬雅に啞然となるのは、なんだか悔しいのだけど」


「えっ、ええぇー!?

だ、だってドキドキ関係って真面目な真奈の口から出るなんて…結構あった!」


重たかった空気が緩めていく。まぁ重力が無くなる勢いであるけど、そこは突っ込まないでおこう。

真奈のおかげだろうか、俺は強張る何かが吹っ切れた。


「冬雅…言葉を飾る前に一言を伝えておくよ…大好きだよ」


「ツ――!?そ、そんなの無理だよぉぉぉーーー!!」


どうやら響くものがあった。だけど冬雅は頭を横に振って叫ぶ、拒否の言葉を。

居室から逃げようと出入り口に走るが前に現れる人影…真奈だった。


「どいてよ真奈…どうしてこんな」


壁になった真奈に冬雅は言葉をぶつける。セリフや声音には怒りがあった。されどそれを大きく上回るほど泣き叫び助けを求めていて

痛々しかった。


「誰も望まない結末を、どうして選ぶ必要があるの冬雅!」


「そんな…ことない……」


「あるよ。見ていたから…」


そうだ。冬雅はまだ好きでいてくれていると俺は思っていたが勘違いではないかと心のどこかにあった。

その可能性があったから、いつも確信的で止まっていた…だが今は、確信的が確信となった。

他の人から見ても、真奈が強く断言してくれたから。

ネガティブなJKのために…いやネガティブを選んだ冬雅のために告白をしないといけない。


「冬雅…聞いてほしいんだ」


「だ、駄目。無理です…あなたにきくことなんて…ありません」


振り返らず冬雅は叫んで拒む事を

選択しないといけない。


「18歳の誕生日おめでとう冬雅」


「……えっ?」


ようやく振り返った冬雅の顔には透明な涙で流れていた。

感情を抑えられる限界が訪れる前に逃げようとしたのだろう。

今は誕生日を祝われ12月20日ではずなのに、そう疑問を目に宿っていた。


「メリークリスマスだよ冬雅…

その日が来たら言いたかった言葉」


「あっ…」


誕生日やクリスマスを過ぎてしまい冬雅に伝えられなかった。

強い後悔があった言葉をようやく伝えられた実感は確かにあったが

、それで後悔が消えるわけがなかった。


この年、、、は伝えられなかったけど未来、、では必ず祝福の言葉を伝える。

これからずっと…俺の隣でいてくれないか冬雅。いや、いてほしいんだ!

愛している…大好きだ冬雅」


初めての告白をした。

迷って悩みきって、真剣に本当の恋愛感情なのか、他の人から言葉や同調圧力による干渉もなく、

自然と紡いでいく大好きの告白。

冬雅は俺に見上げて言葉を失っている。告白の返事をただただ待つ。大好きな冬雅の言葉をいつまでも待つ。


「……わたしも大好きだよ。

お兄ちゃん!!」


返事は飛びついて抱擁ほうようだった。

毎日と全力での告白をする冬雅ならそうするのではないかと思っていた。

俺も腕を背中に回してハグを受け入れる。冬雅が欲しかった選択を導けたかなと少し不安があるけど

自由にさせて見守ろう。これからも、たまには告白もして。

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