第359話―花恋の性格は安定している2―

振り返るとヤバかった。

これって真奈がいつも東洋お兄ちゃんとイチャついたカップル行為で…うわあぁ。あんなバブみ全開をジョギングでやっていた、やってしまった。


「んっー…んうぅー、」


そして東洋お兄ちゃんの家に戻ってからの私はソファーで寝たフリを強いられる事になった。

普段はうつ伏せなんて寝ないのに、どんな相手にも合わせるような事はしないのに。

自由奔放にやるのを自分でも理解はしていたと思っていたけど、

東洋お兄ちゃんに優しくする時にフワァーと甘くなることがある。

…私ってバブみするのか。


(あの反応をするのは年下の女の子に惚れる何かがあるのかもしれない。

うん、きっとそうに違いない!)


絶対そうだ。どんなイケメンにも想った事がないのを東洋お兄ちゃんに抱くはずが…いや、いや

何を考えている私。ひとまず保留にして、東洋お兄ちゃんに声を掛けられていないのが気になる。ソファーに埋めていた私は、さり気なく顔を上げて覗いてみれば…普通に執筆していた。


(ふ、ふーん。私があれだけ恥ずかしい思いをしているのに平気だと言うのか…この人は。

普通は意識するなり反応をしてもいいんじゃないかな)


ムッとなると悶々とした気持ちは、いつのまにか消えてしまいバカバカしくなってきた。


(こうなったら近づいて意識させてやる!超可愛い私にでれでれにさせてやる)


そう決心してソファーから立ち上がって東洋お兄ちゃんの隣に座る。

真奈さんみたいに手を繋いで意識させるんだから。足音で気づいているのか、いないのか視線を向けてこない。近づくにつれ私は――


(…で、でもパーソナルエリアは大事だと聞くよね)


ギリギリの手を伸ばせば届く距離に私は椅子に腰を下ろす。

目標は確かに達成しているのだ。なので問題は何もない。東洋お兄ちゃんの手を握るのは恋人でも

ない人に予告もなしでするのは失礼というと聞いたことがある。

そして私は、いったい誰にこんな言い訳のようなセリフを考えているのかな?


「よし今日はこれぐらいにしてと…花恋かなもしよかったら少し一緒に遊ばないか?」


「本当に!?じゃあ…何をして遊ぼうかな」


マジか。何をして遊ぼうかなと候補はいくつもあって迷う。最初は人生ゲームをした。二人だけのゲームなので非常に静かで異様にも感じてしまったが東洋お兄ちゃんに対峙するのはドキッとする。

見ているのは私だけだと意識すると逃げたい衝動になったけど楽しかった。何か忘れているような…まぁ、いいか。楽しいし二人だけだし。

そして忘れた目的をゴール直前で思い出した。


「と、東洋お兄ちゃん!どちらかがゴールしたら終わりでいい?

動物の動画を見たくなったので」


「分かった。これが最後の戦いだな…これで、最後だぁぁあ!!」


東洋お兄ちゃんが似合わない悪役を演じてルーレットを回す。

わ、忘れていたけど今日の私は東洋お兄ちゃんのためにするのだと決めていたのだ。

東洋お兄ちゃんは人生ゲームに負けてしまい私は勝利して少し大げさに喜ぶ。

その後は、計画通りに東洋お兄ちゃんは執筆に専念してもらい私は邪魔をしないよう好きな動物の動画で癒やされる。猫が風呂場に意味もなく歩き回る動画のところで

東洋お兄ちゃんが立ち上がる。

なに、なに?と目で追うとキッチンだ。どうやら夕食を作らないといけない時間になっていた。

手伝おうかな?で、でも得意じゃないし…ど、どうしよう。


(迷うぐらいなら、手伝う!)


気になる動画は後回しにして私は調理中である東洋お兄ちゃんの負担を減らす事にした。


「東洋お兄ちゃん!たまには私もお手伝いしますよ」


「ありがとう。まずはエプロンしないとね」


えっ?どういうこと困ったけど企みの類はないのは表情が現れていた。


「いいよ。別にエプロンなんか」


「少し待っててくれ」


断ったのに持っていくようだ。この一方的な優しさは迷惑にもなるんだぞと指摘しようかと思ったが

完全な善意からなので怒るに怒れない。

持ってきたのはピンクのエプロンでサイズは女の子のようだ。真奈さんは胸が大きいし…もしかして冬雅さんのエプロンかなと聞こうとしたけど、やめた。けど聞きたい…そして私は睨んでしまった。

反省しよう。具をグツグツと煮込んでルーを私は混ぜながら隣に見守る東洋お兄ちゃんに問う事にした。


「…その気になったのだけど、東洋お兄ちゃんは冬雅さん―いえ、公園にいたキレイな女の子を今でも好きなのですか?」


脳裏に蘇るのは二人が悲しそうにしていた。冬雅さんに一人で会いに色々と聞いてから気になった。

並々ならぬ関係なのは間違いない。


「………」


無言は肯定に等しい返事だ。けど変に律儀な性格がある。


「…そうかもしれない」


頭が真っ白になった。私はそれを聞いて思考するよりも言葉にする。関心がないように受け取ったかもしれない。予想した返事だと分かりきっていたのに…なのに虚無感を感じるのは、どうしてだろうか。


「東洋お兄ちゃん今日だけの限定で私が食器洗いをやります」


ゴシゴシ。東洋お兄ちゃんに執筆の時間を作ってみせましたが私も心の整理する時間を手に入れた。

このまま冬雅さんと…よりを戻さなければ私が……そんな後ろめたい考えがするから。

最後に面倒くさい鍋を洗おうとして。


(焦げが多い…やっぱり落ち込んでいるのが原因それとも私が手伝ったから失敗をした……)


ポジティブが取り柄の私は悪い方向へと考えている。その後は、のんびりとする。こうしていられるのも長くない…。


「そろそろ帰らないと!」


ゆっくりし過ぎた!?名残り惜しいけど帰らないと怪しまれるし。

東洋お兄ちゃんが見送りのため外に出る。話が続かない。

浮かない顔をしている…冬雅さんの話をしたから?…よし!


「東洋お兄ちゃん止まって」


「んっ?ああ」


背丈があるのでかかとを浮かせるように伸ばして東洋お兄ちゃんの頭をなでる。


「東洋お兄ちゃんは…え、偉い…」


恥ずかしい。やるんじゃなかった。けど想像したよりもドキドキが止まらないのに、それを忘れるほど愛情があふれてくる。

やってよかった…間違いなく黒歴史ものだけど。満足しているので、いいのだ別に。

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