第317話―居て当然の彼女がいない日常―

右隣にある家には住居人はいない。

何故そう思うのか?表札ひょうさつ、自動車、自転車など無ければ十分だった。

もう峰島みねしま家は隣ではない。


(当たり前か。大人が女子高生の娘を狙っていると冬雅のご両親は思っている。そんな危険人物の

周辺になんか離れる)


冬雅が住んでいた家を見上げた俺の心は哀愁あいしゅうと虚無感に浸かる。

…もう行くか。買い物を帰り道でこれを何度も味わう事になるのか。

重たい足でポケットから鍵を使いガチャと開錠してドアをくぐり「ただいま」と決まり文句。


「…そうか。誰もいないだった」


真奈も泊まる時期は過ぎているし比翼ひよは児童養護施設にいる。

静謐だった。それは居室に入ると余計に否応なく感じさせる。

俺の動作音しか無い空間で夕方までPCを立ち上げて執筆を始める。

ピンポーンと静かな空間に響く。ようやく俺ではない音に疎外感は抜け出される心地になる。

軽くなった足で開けると玄関先にいたのは真奈達であった。


「こんにちは、お兄さん」


「ああ、こんにちは真奈」


絶妙な角度で傾いての笑顔は威力が絶大だ。一瞬だけ見惚れてしまうが感じ取られていないはず…だったが純粋無垢な瞳は、

驚いた目で強張って頬を赤くなっている。真奈の目を以てすれば一瞬の反応さえ分かるのだろう。


「挨拶をしただけで照れ合うの

素敵ですね」


ショートヘアーのつややかな黒髪に背後から夕陽で美しく彩る

三好茜みよしあかね。 真奈の親友である彼女は俺と真奈の反応に満面な笑みを浮かべている。

きっと恋愛ものが好きなんだろう。


「ま、真奈様に変な目で見るんじゃないわよ変態の豚野郎!」


「「豚野郎!?」」


ストレートすぎる罵声に俺と真奈は異口同音と発する。

長い栗色のロングヘアーと控えめな化粧をしたギャル風の柴田香音しばたかのん

真奈様と尊敬の念を抱いていて、彼女の前では仲良くするのは面白くないらしい。

改め、真奈は女性にもモテる。


「バリエモ!?み、見ているだけでキュンキュンするけど…これが甘々系!?」


胸部の前で手を組み、新しい道に覚醒するは不死川紬しなずがわつむぎ

インドアの証である不健康を感じさせる雪を欺くような肌、

いい美容院にでも切ったのか髪は以前よりも艷やかで長さはあまり変わっていないブラックのショート。

あどけなさがある瞳を青縁メガネをかけているボクっ子で三好さんよりもギャル語をバンバン使う。


「バリエモ…俺でも意味か分かるぞ。とても胸を打たれる……かな?」


「はい。そうだと…思うけどワタシも自信はないかな?それで紬、この解釈で間違っていないかな?」


「うん!当たっている。それより続きを見せてよ。いい少女マンガを読んでいるみたいで楽しみ

なんだから」


もっぱら恋愛が見たいと目を輝かせている不死川さん。

な、何がそこまでさせる程に魅力的だったのだろうか。


「とりあえず、おねえちゃん達は欲望のままに従わないで落ち着いてよ。

おにいちゃん引いているし」


呆れた表情で宥めようとするのは

箙瀬比翼えびらせひよだ。

ウェーブがかった黒髪を長く伸ばす15歳。

母親の再婚で強姦され家出をした比翼の過去は凄まじい。

年齢にそぐわない悲しい色気を出していた最初に見た姿は無い。

今は年相応に…無邪気なのだが、その姉が個性が強すぎって

毎回と静止する役目に徹する事を強いられる。

もはや誰が姉か妹か分からない。


「一気に賑やかになったなぁ…

さて、ここで話すよりも家に上がらないか?」


「そうだね。お邪魔します」


さっきまで羞恥だった真奈は、すっかり耐性が上昇していて元の笑顔で頷き中へと入る。

そうなればかしましく騒いでいた彼女達も続く。

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