第295話―夏の佳境レインボーロード―

気づけば8月の下旬。夏休みを振り返る時間がないほど色んな事があった。俺の人生の中でここまで夏休みを思い出に残った事はなかった。


「お兄さん一緒にデートしませんか?」


真奈にデートを誘われた。断われる不安と期待を含む眼差しを向けられノーと返事なんて出来るはずがない。それに俺は小説の取材にもなるし、なりよりも真奈とデートをしたい僅かな下心がある。

これは告白ではないだろうか?

混乱する頭に整理がつかずにいると。


「ほう。そんな場所で見せるつ

けなんて真奈おねえちゃんは挑戦状と受け取る!」


「そうだった比翼が・・・違うの、これは他の配慮とか見えなくなって決して挑発行為を狙っているわけじゃ・・・」


リビングでゆっくりしていると、そろそろ買い出しを考えていたら

デートの誘い。そういうことか。

このタイミングを誘ったのは買い物に同行、それに断る可能性が低いと計算もしているかもしれない。

確認するデリカシー無い発言が出来ないので完全な憶測になるが。


「知っているよ。揶揄からかっただけなので気にしないでいいよ。ただ駆け抜けするなんてモヤっとしたけど」


「・・・なんか、ごめんねぇ比翼。よし、よし」


「な、なでても・・・」


あっ、うん。気持ち良かったようだ。比翼ってしっかりしているようで甘えたがりだからなぁ。

繰り広げていた喧嘩?から仲睦まじく和やかな空気がなる。

身支度を素早く済ませたが二人の準備が数分ほと掛かった。女の子の準備はかかるとよく聞くが本当だったか。単にデートに力を入れていたもあるかもしれないが。


「気をつけてねぇーー。お兄ちゃん留守は任せましたぁぁーー!」


真奈と比翼が出るのを玄関前で待っていると見送りに来た冬雅。

真奈と比翼にそれぞれ言葉をかけると最後に俺には屈託のない笑みで手を左右に振る。

そろそろ高校卒業する3年にしては若干、幼いような気もしたがそんな反応を示すのは俺にしか見せないかと自分で納得した。


「お兄さんって冬雅と知り合ったのって去年で当たっている?」


「そうだけど、何か気になることが?」


手袋して繋いだ手には温もりは感じないが強弱の強さは伝わる。

やや強めに握るのは緊張して無意識に込めている。その緊張しているというのは冬雅と俺を知りたいのだろう。


「うん。冬雅って地元はこの辺だって前に聞いたのだけど。それならお兄さんとどこかで出会っていない不思議に思って。

お兄さんって今の家に住んでいつぐらいになる?」


「8年前かな。大学2年になってそろそろ近くに住もうとしたのが今に至るよ」


つまらない話だろうなぁと思っていると真奈は手を繋がっていない手であごに触れて何かを熟考する。

後ろを振り返ると比翼も似たような反応をして懸命に何かを考えている。これに何がそこまでさせるのだろう?


「それじゃあ、おにいちゃんは隣に住む冬雅をかわいい子が住んでいるって知っていた?」


「薄々だけど。近くにオシャレな小学生が住んでいたのは――」


「なるほど。それを知るぐらいにおにいちゃんは立派なロリコンだったんだ」


「ちがう。走って駆け回る女の子がいるって認識で、住所とか興味などは抱いていなかったから」


8年前なら冬雅は10才。20歳の俺が性的な目で見ていたら完全に危ない人じゃないか。もし過去の自分が今の俺を見たら間違いなく軽蔑な眼差しを向けるだろう。


「逆にそんなに長く住んでいたのに二人とも去年ようやく知ったんだよねぇ。お兄さん」


「ああ。変な話だって自覚はしているけど、年が離れているし俺も会社や小説に没頭していた時期だから接点はまったく無かった」


「そうなんだ・・・もし早く冬雅と出逢っていたらワタシこうして、お兄さんと手を繋ぐのも無かったかもしれない・・・」


そうかもだけど。だからって俺の手を胸元までギューとしないでほしいのだけど。指摘が出来なくて悲しいが豊満なものが当たっている。

真奈には色々と質問され比翼からは突っ込まれながらも食材を買って帰宅する。夕食の時間帯になると団欒だんらんと談笑を交える。

食後のコーヒーを飲んでいるとラインの着音に首を傾げて画面を見る真奈は小さく驚きを受けていた。椅子から立ち上がると――


「明日は夏休み最後だから、今日は帰らないと行けないと!」


内容は帰宅の催促だろうか。

さすがに最後の夏休みに大事な娘を泊めるはずがないか。俺は夜道を一人だけで行かせるわけがなく真奈を見送りに外を出る。

夜風が吹いて真奈の長いポニーテールがでて淡い月光に照らされ品行方正で才媛の比翼らしい美しさを醸し出す。


「お兄さん来年もよろしくねぇ」


それは大学生になっても泊まりに来るという事だろうか。その時には淫行にはならないけど、

大人になり前よりも魅力的になった真奈を今まてのように接する事が出来るか僅かな不安を抱えて。

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