第217話―気づけば春は過ぎていく2―

4月のぽかぽかした陽気。

洗濯日和だなとリビングの窓から見る日差しに、どことなく心にも照らされて元気になれた。


そして、わたしが恋慕う人のためにお化粧や褒めてくれる髪を入念に鏡をにらめっこして確認する。

やり過ぎると化粧が濃くなり不快感を抱くだろうし、髪をかし過ぎると痛めてしまうので気をつけないといけない。

それに長くなるとバタリと会ってしまうので早めに終わらせ朝食を作り始める。

お兄ちゃんが慣れない笑顔にドキッとして手伝い。遅れて比翼もやってくると朝の食事となる。

そして昼頃にお兄ちゃんと二人きりでデートをする。


「お兄ちゃんなんだか二人きりになるとドキドキしますねぇ。

えーと、あの・・・お兄ちゃんもドキドキしていますか?」


今日はマスクせずデートになった。ストレートな発言をするとお兄ちゃんは・・・疲れたようなため息をする。


「冬雅その屈託のない笑顔でいつでもドキドキなんてするとは思わない方がいい」


「・・・・・えっ、お兄ちゃん?」


忠告と冷めたような雰囲気にわたしは肩が震えているのだと遅れて理解する。


「客観的に考えてくれ。大人と子供が両想いでいられても刹那的な瞬間だ。それは、夢の期間のようなものだ。

いずれ現実を知り抱いていたのが、まやかしだと」


「そんなこと・・・ないよ。

お兄ちゃんが今そうなくても、いつかは」


「冬場、気づいていないようだが君は強く否定もしなければ信じていないのではないか」


「っ!?・・・・・」


目眩めまいがする。今わたしが立つ地面が歪んでいく感覚に堕ちいていく。理解が追いつかず呼吸方法が分からなくなる。


「どうやら諦念していた。している・・・君は諦めている相思相愛だって言って自分にそう言い聞かせるように言った」


「ちがう」


「ずっと想っても告白しても空虚なものは何も生まない。空虚は空虚を呼ぶしかない。

つまり・・・君は何もしていない定義になる」


「ちがう、ちがう!」


わたしは、最愛の人にどうしてこんな言葉を言われているのか悲しくて心が引き裂かれるような苦痛を感じながら何とか反論しようとして言葉にすると諦めているのが自分にも解ってしまう。理解してしまう。

すると、お兄ちゃんは冷めた表情から寂しそうな顔をする。


「・・・これ以上は見ていられない。

冬雅いや、君とは終わりしたい。それじゃあ・・・さようならだ」


わたしに背を向けて歩き始める。

その言葉に最悪な予感が胸にあったそれが現実になりわだかまる。

わたしは手を伸ばす。


「お兄ちゃん待っ――!?」


足が動けない。まるで闇に呑み込まれ深淵をいざなわんとしていて、身動きがとれない。


「お兄ちゃん待って!行かないで」


叫んでも振り返らず歩いていく。

やっぱり足はかせのように動けない。


「わたし・・・お兄ちゃんがいないと・・・・・笑えない」


それが、わたしの本音ほんねなのかもしれない。きっと、それが理由で依存いぞんしていていたのだろう。その事実を理解すると心が慟哭どうこくしているように激しくなっていく。


「お兄ちゃん!やだ、見捨てないで・・・わたし一人になりたくない。

弱いんだよ、わたし・・・助けてよ。嫌だ・・・嫌だよ!お兄ちゃん!!」


歩みんで離れていく。いつの間にか周囲の風景は闇の一色となり

奈落に落とされたような絶望を創造したような場所でいくら叫んでも振り返らない。姿は遠く、見えなくなり永遠の孤独をわたしは

訪れるのだった。


「・・・・・あっ、夢」


闇から開放され目を開くと天井。

どうやら、夢を見ていた・・・わたしの生涯で二度とない悪夢を見てしまった・・・そう思いたい。


(どうして、こんな悪い夢を見てしまったんだろう。どうせならイチャイチャする夢が見たかったよ)


厄日やくびな予感をしながらベッドを出て洗面所で仮想的な言葉による苦痛も一緒に洗いたいが、そんな都合よく起きずリビングに。髪を軽く梳いて顔は青ざめていてひどい顔だった。


――視点は山脇東洋へ――

冬雅の様子が少しおかしかった。

突拍子のない言動ではなく天真爛漫な雰囲気が影を潜めているのだ。向かいに座る冬雅を心配そうにするのは俺の隣に大食い大会並みの速度で食べる比翼も気づいた。


「冬雅もしかして病気にでも罹ってしまったのか?」


突然の変化に思いつくとしたら、それだった。笑顔を絶やさない彼女が

顔をざめて空元気からげんきしていたら。すると冬雅は肩をビクッと震わせる。


「そ、そんなことないよ。

ほら!わたし元気だよ。あっはは」


箸を置き両腕を肩の高さで広げて次に前腕だけ上げて筋肉のこぶを作るポーズをした。左右の腕にL字型の力自慢の構えに俺は本当に

筋肉のこぶがと信じて凝視するが柔らかく繊細で白い腕だなが感想で筋肉のこぶは無い。


「冬雅おねえちゃん何を・・・

はっ!も、もしかしてボディビルダーを目指していた!?

だから筋トレなどの動画を見たのは――」


比翼はあごを手で触れてそう結論した。

なるほど、ボディビルダーはなるかはともかく多分ダイエットの線はあると俺は見ている。

果たして答えは――


「ち、違うから!・・・ボディビルダーになるの大変だと思うし。

そうじゃなくて、えーと話が分からなくなってきた」


冬雅は腕を組んで、いったいどこまで話を?など思い出そうとしているのだろう。俺はそんな冬雅に安堵して口を開く。


「病気だよ。元気がないだろうから後で部屋でおとなしくしよう」


「へ、平気ですよ。お兄ちゃん心配しすぎですし、そもそも病気

じゃないですよ」


首を横に振る冬雅に俺は、同じ動作で返す。


「いや、冬雅は変に頑張って無理はするからなぁ。体調が悪いときは俺が全部やるよ。

隣人だから・・・いや違うか。

友達・・・妹・・・うーん?」


「おにいちゃん妹でいいよ。もう、それで!」


悩んでいると隣の比翼が心底どうでもよさそうな目で一蹴した。

まぁ、どんな関係なんて今はいいか大事に想う気持ちが大事なわけだから。

朝食を済ませて俺は抵抗する冬雅を俺の部屋まで移動させた。

・・・なんだかこうすると犯罪臭がすごいが比翼が冬雅を引っ張ってここまで連れてきたのが適切だろう。


「お兄ちゃん・・・わたし本当に体調が悪くないよ」


「そうだとしても心が疲労している可能性はあると思うんだ」


「・・・疲れていないよ」


冬雅は視線を逸らしうれい顔をする。いつもの冬雅を知る俺はその真逆の表情を浮かべる姿に目をつい見開いて驚く。

呆気に取られていると冬雅は思ったのか嘆息して言葉を続ける。


「わたし、お兄ちゃんが大好きなんだけど・・・傷つくのが怖いんです」


何をそんなこと言おうとして冬雅の真剣な表情で言葉が詰む。

手や肩が震えていて痛ましい姿に俺は軽々しく発言していいものではないと切り替える。


「・・・傷つくのが?」


「うん。保守的になっていると言うと支離滅裂なんだけど、それなの」


これが保守的ならドギマギさせようとする奇行や毎日する告白も

そうなる。矛盾しているなぁ、

積極的なヒロインも引いてしまうぐらいに活発なんだけど。


「わたしがしているのは、お兄ちゃんの愛を確認したかったと思うの。今になると、それがまやかしだって・・・・・あっ、うぅぅ」


冬雅は悲痛な顔から次第に涙が頬に伝っていき嗚咽が耳に入る。

冬雅の苦しんでいる正体が今だ分からないままだが、これだけは分かる・・・好きなのか不安で仕方ないのだ。

多くの人が通りすぎれば振り返り心を奪われるほど容姿端麗な冬雅。だからこそ相手が・・・俺が著しい好意をしていないのが原因かもしれない。


「冬雅・・・俺はおそらく冬雅が好きだと思う」


「・・・・・うん。ぐぅぅ、うぅ」


冬雅の心に響くものは些細な物にしかなかった。何があったがしらないが号泣している冬雅をなんとかしたい!

どうすれば・・・いったい、どうすればいいのか。名案など浮かばず俺は最後の手段に出ることにした。


(最後の手段なんてカッコいいものじゃないけど。ただ俺も誠意で応じるんだ)


深呼吸して俺は冬雅を見て言葉をする。


「冬雅、不安になっているけど

俺は本当に冬雅が好きなんだって証拠を見せるよ」


「えっ?キャアッ!?」


俺は冬雅の左手を握る。ただそれだけ。

俺の左手から手を繋いでいるのを自覚すると思った以上の恥ずかしさが襲う。恋人繋ぎでもないのに、自分からするとこんなに羞恥心がと新しい発見した心境になる。


「ものすごく不快な気持ちにさせるけど・・・俺の反応が証拠だよ」


「お兄ちゃんの・・・あっ!!」


きっと俺は顔を赤くなり目は泳いでいることだろう。

手は汗が勝手に出ては流れている。あまつさえ震えているのだから緊張しているのが繋ぐ手にしっかりと情報が入っていることだろう。


「・・・・・」


「お、お兄ちゃん。もう分かったよ。離してもいいよ」


「けど、まだ確認は足りていないと思うけど」


「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃんの顔を見たら好きに――その、理解したから」


「そうか・・・」


真っ赤に雪を欺く頬を真っ赤に染まり困惑する冬雅。素直に従い俺は手を離す。そして沈黙がこの空間と今の状況を維持したまま支配が続く。

なんだか、相思相愛だと確認しての沈黙は甘酸っぱく年甲斐もなく俺は冬雅ほどではないが、しどろもどろになる。さすがに

このままじゃ熱くて灰になりそうなので俺から言葉を発することにした。


「冬雅これで元気になってくれたか?」


「そ、その――」


すると、冬雅は上目遣いで答えようとして中断。自分の胸を当てて深呼吸を始めて俺は何をするのか

すぐに理解して覚悟を決める。

5回ほど長い深呼吸が終わり顔を上げて満面な笑みを向ける。


「愛しているよ。

お兄ちゃんを大好きになって、わたし幸せです」


今度は嬉し涙で頬を濡らす冬雅。

そんな眩しい笑顔と言葉に俺は

鼓動が高鳴り肺腑をくのだった。

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