第215話―静謐なき春季3―

春の息吹を例年よりも感じず終わりが迎えようとした。

そんな実感だけはあって、心は軽い戸惑いを覚えざるを得ない。

俺は、おそらく去年は冬雅達と一緒に花見や旅行プランみたいな事をしていた冬雅に呆れながらも笑って行っていたことであろう。

・・・来年こそは花見をしようと静かに心を灯して。


(そうなれば、冬雅や真奈は女子大生で比翼は・・・ここにいるだろうか)


ベランダで月を見上げる俺は、らしくもなくもすがら物を思うのだった。

比翼を起こさずベッドに入り眠気が生じる誘われるのを見に任せていく。そして翌日になり。


「ハァ、ハァ。きつい・・・」


スポーツウェア比翼は、正座を崩した座りをする。通称、女の子座りをするのを俺は横目で見て視線をリビングのテレビ前に戻す。

テーブルもソファー等を端っこに置き俺達がしているのは自宅で出来る運動である。


「わたしとお兄ちゃん二人だけになりましたねぇ。まるで・・・舞踏会ぶとうかいで二人だけ踊っているみたい」


白とオレンジ色のスポーツウェアで汗を一滴も流さない冬雅は涼しげな顔から一変して照れ始める。

しかし舞踏会とは程遠く見慣れたリビングで運動不足を解消のため

筋トレや軽めのダンスをしていた。ダンスもあるから驚きだ。

現在は、そのダンスをおそらく12分ほどもやっている。


(スポーツ選手等の多くの人に向けた動画を上げているが一部は自画自賛して自宅では出来ないのもあるよなぁ)


学生時代は運動部に所属していないが、そこそこ出来る方だ。

大人になってからは運動する機会が減っていた。


(だからこそ、冬雅がいなかったら比翼に運動をさせようなんて

一緒にしていたか)


提案をしてなかば強引ながらも家に長くいる俺と比翼のために考えてくれたのだろう。


「ハァ・・・ハァ、ハァ」


「とぉー、ここでターン」


苦しくなり息切れをする俺とは裏腹に冬雅は輝かんばかりに笑顔で

ターンをしてはポーズを決める。俺は言葉を発するのも難しいのに

余裕綽々よゆうしゃくしゃくの冬雅。


「ハアァ、ハア・・・」


「あはは、おにいちゃん息切れがスゴイよ」


なんとか最後までやり遂げた。

全身が汗でびっしょりで息も絶え絶えの俺は手を膝に置く。

女の子座り、またの名をアヒル座りをしていた比翼は、俺の姿を見て年相応な笑顔をする。

どんどん遠慮がなくなり俺は心の中で嬉しくなり表情は五月蝿うるさいなぁと作り照れを隠す。


「あはは、おにいちゃん、ごめんだって。

いつもは落ち着いていてキャップあるからおかしくて。

・・・おにいちゃん引っ張って、疲れて立てない」


両手を俺に上げて引っ張ってくれと甘える比翼。必ずやってくれると確信した表情をされたら

断る事など出来るはずがなく俺は嘆息して手首を掴むと引っ張る。


「えへへ、おにいちゃん大好き!」


立ち上がる比翼は屈託のない笑顔で上目遣いでお礼をした。


「どう致しまして」


汗をかいているからか比翼の太腿ふとももが一段と綺麗に見えてしまい引力でもあるのか目に行くのを高い自制心で押し留める。


「お疲れ、お兄ちゃん。はい!タオルです」


「ああ、ありがとう冬雅」


冬雅はタオルを持ってスポーツ部のマネージャーのような渡し方をする。

案の定、汗の粒は見えない・・・改めて文武二道ぶんぶにどうで容姿もチートの冬雅。

次の日には筋肉痛は確定だな。


「そ、そのお兄ちゃん・・・

汗をかいていて、普段よりも、わたし・・・ドキドキします」


急にそんなセリフをしたので俺は心をクールダウンさせてから

応じるのだが。


「い、いや口にされると恥ずかしくなるんだけど!?」


つい心に思っていたことを叫ぶトーンでツッコミをする。

すると冬雅は不意をつかれたように目を大きく開く。


「そ、そうなんですねぇ・・・」


冬雅も俺がそんな言葉をするとは予想外だったようで手を前に組んで悶えるのだった。やめよう、

こちらまで恥ずかしくなるから。


「なにイチャイチャしているんですか!!!」


そんな甘酸っぱいような?空気を察知したのか比翼は叫び上げる。

俺と冬雅はイチャイチャされたこたに強く否定が出来ずに否定をする。


なんとかなだめることに成功し(本人が落ち着いた可能性もある)安堵のため息をする。

比翼は勉強を見てほしいことで移動した窓際までに置いたテーブルに向かう。

冬雅は暫く運動をすることだ。

比翼はノートに目を落としペンを走らせると邪魔にならないよう

俺はPCを立ち上げ執筆を始める。


「おにいちゃん・・・・・どこを見ているの?」


「えっ!?えーと気になって」


冬雅が気になり時々と見ていたのを比翼は気付いていたようだ。

天真爛漫な顔は今だけ翳《かげ》り罪人を向けるような半眼。


「もしかして運動する女の子が

好きとか?」


「そ、そそぉ、そうなのですか・・・お兄ちゃん!?」


聞いていた冬雅は振り返りキラキラした瞳で近づいたと思ったら

女の子座り別名、ぺたん座りをして前のめりなる。


「誤解だよ。少し気になっただけなんだ」


華麗な動作に目を奪われそうになったなんて言うわけにはいかない。

二人は、半信半疑だけど納得してくれた。


冬雅が一人で運動をしてから三十分だろうか軽く息を乱れて整え

やって来る。見るとタオルを拭いていた。どうやら汗をかくほど激しいのをやっていたのだろうか。

近づくにつれ冬雅の首や太腿など

つい目に行く。凝視していた事に気づき俺はすぐ目を逸らす。これも詠まれると考えて視線をパソコンに戻す。


「お兄ちゃん・・・」


「っ!?」


冬雅は俺の隣に座り肩と肩が触れる距離。鼓動が高まるのを感じて静まれと心で命を下すが効果なし。 今月でこんなに近づいたことあるだろうか・・・。


「わたし、お兄ちゃんの事が大好きです。

返事ははるか彼方になると思うけど・・・その時は相思相愛でいたいと思っています」


「冬雅・・・」


左を見ると冬雅は儚い表情でそう言った。けど、悲観よりも希望を

強く持っているような、それは

静かな闘志を燃やしているのが雰囲気であった。この告白は計算による狙いというよりも感情に

任せて出た言葉だと俺は感じて思った。


「二人ともイチャイチャしないで勉強とか小説を書いてください」


目を鋭くして怒りを表す比翼。 俺と冬雅は少し距離を取ってイチャイチャしていないと遅れてやる。


「そ、そうだね執筆しないと」


「え、えーと・・・勉強とかイラストもしないと!」


俺は執筆を、冬雅はどちらかを始めるかを悩み始める。

生まれて俺は春を静かに暮らすのがいつもの事であったが今年は違う。冬雅達といたら静かな春なんてあるわけがない。

静謐せいひつなき春季しゅんきが終わりを迎えるのは遠くない。

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