第212話―サクサクのからあげ作り方―

朝に目覚め洗面所で顔を洗いリビングに入ると

俺に気づいた冬雅は、味噌汁を作っている途中で振り返り軽い足取りで前に立ち止まる。


「サバーフルハイム!・・・お兄ちゃん」


「サバー・・・フルハイム?おはようで、よかった」


「うん。サウジアラビアの挨拶なんだよ」


「へぇー、なるほど。勉強になるなぁ」


今日の挨拶は海外流の挨拶にしてきた彼女に俺は感心する。その、語学力などに。お玉とエプロン姿を目にすると思わずにはいられないのかある。どうしても新婚生活または同棲の光景だと事に。


「今日は早めに起きましたよね、お兄ちゃん。あっ!そうでした。もし暇だったら後で見てほしいイラストがあるんですけど」


「早速だね。分かった食べ終えてから素人目線とコメントで良ければさせていただくよ」


「やったー!楽しめだなぁ」


夢を抱いた彼女は、早くもイラストを書いたようだ。正直イラストやオタク文化を除いて絵画の分野にも知識が疎く審美眼しんびがんある方ではないが、なるべく参考にはなれるような助言はしたい。

ソファーに座り俺は、ニュースをポカンと放心状態に近い顔しているだろうなぁと思い見る。

台所に戻った冬雅は、皿をテーブルに並べる。台所に戻って、またテーブルに並べると比翼が

大きな欠伸をして起きてきた。

俺と冬雅よりも、ぐっすり惰眠をむさぼったはずなのに

眠たそうだから驚きだよ。


「おにいちゃん、おはよー!」


眠気は遠い彼方に。比翼は眩しい笑顔で挨拶して、とことこ・・・

早足で近づく。


「おはよ・・・う・・」


「えっへへ、おにいちゃんの顔よく見える」


俺の膝枕にして頭を預けて横になる比翼。批難するべきか注意するか悩んだが別にいいかと結論。

トラの動物パジャマのままだし、後は裾がへそが見えて変に艶かしいから気づいて戻してほしい。


「もう、お兄ちゃんに甘え過ぎだよ!あと、わたしにも挨拶してよ比翼おはよう」


「あっ、いたんだ冬雅おねえちゃん。おはよー、」


手をブランブランと上げて雑でどうでも良さそうな挨拶をする。

しかし比翼の顔を見れば乱暴的な挨拶しているが、表情は微笑を

浮かべて楽しそうにしている。


「えぇーー!?ひどいよ、びっくりだよ・・・もしかして、あの年齢に目覚めるという・・・・・反抗期」


「冬雅おねえちゃん普通に違います。ただのイタズラですよ、

アメリカンジョークを革新的にさせた比翼ジョークですよ」


ひ、比翼ジョークか。それ、俺にも牙を向けられそうだなぁ。


「そうなだったんだねぇ。これは、まんまと騙されましたなぁ!それじゃあ朝食を食べましょう」


「うん!」


おぉー、なんだか冬雅が古典的な

セリフを言った事に衝撃的。

これを冬雅プライスセリフと命名しよう。いや、何を言っているんだ俺は・・・。

そんなバカな事は置いといて、比翼が膝から離れソファーの上で立ち上がり、ジャンプと着地。俺は普通に腰を上がり定位置の椅子に向かう。


(考えてみれば比翼って反抗期してもおかしくない時期だなぁ。

そうなれば俺には――)


脳内によるもの――


「はぁ!近いんだけど、消えてくれない。この世から」


「ちょっ、これ一緒に洗うなぁって言ったよね。なに普通に洗っているのよ。キモっ」


「あっ、わたし家を出るから」


――脳内による反抗期によるシミュレーションを終了・・・いやツッコミどころ多い!

最後は現に家出しているから言わないはずだと思うけど・・・

口調も香音みたいだったし。

変な雑念を振り払い俺は、椅子に座ると、比翼が何をしていたの?と訊ねられると、「雑念を払っていた」返すと当然、首を傾げるのであった。

さて、こうして冬雅と比翼にテーブル囲んで楽しく取り留めもない話に花を咲かす。きっと、これが

いい思い出として残り、

思い出すのだろう・・・。


「ねぇ、ねぇおにいちゃん?」


「んっ?」


「はい、あーん」


はしでウインナーを挟んでそのまま口に運ぼうとする。俺は理解すると、口を開けて入れるのを待つ。そして、ゆっくりと入れて箸を離すと噛む。

うーん、香ばしい匂いと焼け具合が良く端的に言って美味だ。


「それじゃあ次は、ごはんも」


次に比翼は俺の茶碗を箸を持たない左手で持ち、箸で自分の口に入れて頬張る。そのお箸でご飯を挟む。


「はい、あーん」


「あー・・・いや、待ってほしい。

当たり前のようにやっているけど、おかしい!それは、恋人以上がやるべきで間接キスになるだろう。

それに大人なのに子供にあーんってツッコミ満載すぎる!?」


テーブルに並ぶ、ご飯、ウインナー、目玉焼き、レタス、味噌汁の

朝の定番メニューがそれぞれ香りが朝の充実した生活リズムの一つの渾然となる。そんな考えしていたら比翼の襲撃に気づくのに遅れた。あまりにも自然に気軽に。


「甘いですね、おにいちゃんは。好きな人にあーんさせたいのは女の子として・・・や、やって・・・み、みみみみぃぃたかった・・・・・から・・・・・・・・・・」


納得していないけど、なんとなく納得した俺は思った。

恥ずかしいなら別の言い方をしたほうがいいと。聞いている俺も

恥ずかしくなるではないか。


「お兄ちゃん比翼とイチャイチャは控えめにねぇ」


「冬雅それは勘違いだから。

俺はイチャイチャしていないし、朝から普通に食事がしたいんだよ」


朝ドラ並に平和な食事シーンが、

理想的なんだけど・・・いや、考えてみれば朝ドラの食事シーンって

最後には何か起きるか示唆するシーンが多いよなぁ。


「あっ、そろそろエールが始まるからチャンネル変えし!」


ここ最近は朝ドラをよく観る比翼がリモコンを取りチャンネルを変える。ちなみに2020年の朝ドラは、[エール]。

福島にある老舗呉服屋しにせごふくやの長男に生まれ独学で

作曲して非凡の力を発揮させた

主人公の古山祐一こやまゆういち。モデルになったのは古関裕而こせきゆうじ

作曲家で有名な作品は、君の名は。君の名はと言ってもアニメではなく昔のドラマのタイトル。


「なんだか、こうしていると家族みたいですねぇ」


冬雅がそう呟いた。感慨深そうに

微笑を浮かべて俺を見つめて言葉を続ける。


「こうして温かい食事するの昔から憧れていたんです。

ずっと一人で食事が当たり前だったですから」


「唐突だね。こんな事を言うのは一般的に危ないんだろうけど、

明日も来月だって一緒に食事するんだから」


「・・・えーと?はい」


少し疑問符が残る反応から笑顔で答える。長年のコミュ力の低さとぼっちにより明るくさせようとしたが失敗して冬雅に気を遣う

ような笑顔をさせてしまう。

仕方なくシンプルにした言葉にしてみよう。


「上手く伝えられなかったけど、冬雅がそんな寂しい思いをしないように俺は・・・比翼や真奈だっているから孤独を感じることは、もう無いはずだ」


「お兄ちゃん・・・うん!

ありがとう。・・・・・お、お兄ちゃん勘違いじゃなかったら、ずっとここに住んでくれ意味なのですか?」


胸元の前で手を組み、上目遣いで期待、どこか熱っぽい思いを向けられる。心情の機微に鋭い冬雅。

ずっと俺と生活するんだからと。

思った感情を言葉にはしていないはずだけど読まれたのだろう。


「わたしもですけどねぇ冬雅おねえちゃん」


答える前に比翼が、半眼で答えた。


「そ、そうだね。あはは・・・」


冬雅は微苦笑して返事、甘酸っぱい空気を綺麗に霧散する。

いい雰囲気になると比翼は感知したのか妨害してくる。俺的には

助かるが、そうなると機嫌を損ねるのは比翼だ。対面は大人しくなり隣には非難的な視線が刺されるような雰囲気を醸し出す。

比翼の視線はオープニングに向いているのに視線を感じるのだから不思議だ。

朝ドラを楽しみにしている比翼と一緒に視聴する。最近の朝ドラは

歴史ものが多い気がするなぁ。


「よっと。さて片付けますか」


終わるとニュースに変えて立ち上がる比翼。セリフが、バトルものみたいになっているが、片付けるのは食器。


「それじゃあ、冬雅の分も今度こそ洗うよ」


「それじゃあ、今度こそお兄ちゃんの分も洗います」


冬雅は、そう言うと食器を持って片付けに行く。どうやら自分の分を洗うようだ。そして食器を持っていくと、ついでと流れになり俺の分まで洗うんだろう。

助かるけど、そこまでやってもらうわけにはいかない。


「これぐらいは俺がやるから。

冬雅はイラストを描くんだろう」


「イラストってなんですか、おにいちゃん?」


食器を置いて通り過ぎる比翼が、振り返って訊ねた。どう説明をしようかと考えると。


「まだまだ、お試し感覚というのか真剣に挑んでいませんので、お構いなく。お兄ちゃんの夢をサポート重要ですから」


「冬雅おねえちゃん?」


「いやいや、高校生の夢を応援するのも大人として当然というのか保護者的な立場として煩わせるわけにはいかないよ」


「お兄ちゃん!高校生とか大人なんて関係ないって前に言ったじゃないですか!!

保護者じゃないよ。相思相愛だって言ったじゃないですか!?」


涙ぐんで冬雅は珍しく怒っている。


「相思相愛?もう、そこまで進んでいんですか!?」


比翼は愕然としているのが後ろからでも伝わる。けど、勘違い。


「違うから比翼。冬雅も確かに言ったけど、相思相愛は答えはまだ先と言いますか・・・。

どう処理をすればあぁぁぁぁーーー!!」


「おぉー!おにいちゃんが頭を抱えて天に向かって叫んでいる。

まるで、ギャグマンガみたい」


すべてが当てはまらないのをつけるけど。ともかく正しい答えが

分からず、どうしようかと悩んでいると、ピンポーンとリビングに響き渡る。

いつもならインターホンの音に、

人と話さないといけないのかと少し落ち込むが今は助かる。


「はーい!」


俺は玄関越しにも届くように少し高い声で向かう。比翼か冬雅が注文した物だろう。玄関ドアの横に置いてあるマスクをつけて開けると・・・見覚えのある美少女であった。

オフショルダーブラウスに赤のミニスカートと黒のニーソックスというギャルギャルとした衣装。

ギャルギャルってなんだろう?


「な、何か言いなさいよロリコン変態」


(ぐっ!)


精神的なダメージを受けた。

目の前に立つのは、冬雅の同級生である羽柴香音。

刀のような鋭い言葉を放つのが、

ギャルというか恐らく彼女だけだろう。


「ニアッテイテ、タイヘンに

スバラシイ・・・デス!」


「なにその片言?キモっ、普通に喋れないの。褒めるなら、かわいいとかあるでしょう」


カオスな空間から出ていたら次の間には鋭い刃が待っていたら

片言もなりますって反論しても

倍返しなるのが関の山だろう。


「あっ!香音かのんおねえちゃんだ。元気だった、おはよう、うわぁーかわいい!」


「お、おはよう。そのマシンガントーク相変わらずだね」


香音の姉貴は年下には弱いとみた。香音の無垢な笑顔と言葉には、どこかたじたじ。


「は、羽柴さんも来ていたんだ‘・・・」


「冬雅、随分とぞんざいに私を扱うんだ」


「冬雅おねえちゃん。人権問題!」


「ま、待って!わたしを貶めようとするの感じるのだけど?

おはよう・・・えーと、それで、どうしてここに真奈は今日はこないよ」


俺よりも苦手意識を持つ冬雅に

軽く驚いた。頭のネジが吹っ飛んだ二人なら意気投合すると思っていた。視線を香音に戻すと彼女は、おとがいに人差し指を当てて

答える。


「真奈様がこないなら・・・別にいいかな?」


「軽いのだけど!?」


冬雅のツッコミに俺は心で頷いて疑問に思う。


「たまには比翼と遊びに来ただけだから」


俺の疑問に答えるように香音は言った。ああ、なるほど目的があるとすれば冬雅か比翼しかないだろう。俺に好意的な反応をしてい

たのも気の迷いだろう。


「へぇっへへ、真っ直ぐ求められると何か目覚めそうになりそう」


香音の言葉に照れる比翼。

百合か、百合属性に覚醒したのか。

香音をリビングに案内させ椅子に座らせて、粗茶そちゃどら焼きに卵糖カステラを出す。


「和菓子ねぇ・・・これで数多の女の子をとりこにしてきたんだ」


「・・・・・っ!?コホッ、コホッ!」


斜向はすむかいに座る香音はいきなりそんな事を言った。


「それ、普通にスーパーとかで買った安いものだから奪えないよ」


真面目に答えたのは隣に座る比翼。


「お兄ちゃん大丈夫?平気ですか、苦しくない」


向かいに座る冬雅は、椅子から立ち上がり半円形を描くように

駆け足でやって来ると俺の背中を優しくさする。


「ありがとう。もう大丈夫だよ、いつもの気管に入ってせっただけだから」


「それは、良かったです・・・んっ?

言われてみればいつもですよね・・・・・お兄ちゃん風邪とか何か?」


「違うよ。その心配は無いよ、ただの・・・驚いてしまっているからで」


「うーん?・・・あっー、はい。

理解しました、その節はすみませんでした」


理解力が著しく高い彼女は察したようだ。痛まれない顔になり、ペコリと頭を下げて謝罪をする。


「いや、大丈夫だよ。頭を上げて」


俺は、なんといえば分からず取り敢えずそう言った。

冬雅のとんでもない発言は確かに飲み物を飲んでは噎せることが多々あったが謝るほどではないし、それに・・・それも面白かったから控えるようにしなくてもいい気持ちは少しはある。

冬雅は顔を上げ申し訳なさそうにする。


「この度もまた迷惑を掛けることになりますがよろしくお願いしますねぇ、お兄ちゃん」


満面な笑みでお願いをする。勝手な推測になるが改めても、きっと

噎せる回数は減らないと。


「あー、お手柔に」


効果はゼロだと分かっていても、

そう答えるしかなかった。


「比翼あの二人って、いつもあんな会話しているの?」


「ううん。いつもは冬雅おねえちゃんが甘々な言葉で誘惑や

突拍子もないがもっとありますけど・・・今日は冗談が多いですね」


二人がひそひそ会話をしますが筒抜けである。もう少し声量を下げてしてほしい。

冬雅も隠しきれてない小さき声に耳にして顔を赤らめるのだった。

香音と比翼と冬雅の3人はさすがは同性で年齢が近いだけあって

すぐに話が盛り上がり俺は、相槌を打つ。

最近の流行っているドラマやオシャレを香音は熱弁する。

最近の面白いアニメや料理のレシピ本などを冬雅は語る。

最近の俺が読んだ本やいつの間にか撮った寝顔の写真をスマホで見せる比翼・・・・・。

俺の話題になると、饒舌じょうぜつになりかしましく話をする。


「はい、可笑しいところがありましたよ。比翼それ、いつ撮ったのかな?

無駄なお願いと分かっても懇願するけど、削除をしてほしい」


「出来ない話ですよ、おにいちゃん」


ニコッと笑いデビル比翼は答える。

せめてと俺は、話を逸らそうとして真奈の話に変えようとした。

すると、やはりと言うべきか――


「ま、真奈様と去年にそんな事が・・・ゴミムシ風情ふぜいが」


狂信者(勝手に呼んでいる)である香音は興味を惹かれるのは必然。

しかし、ほとんどが一緒にゲーセンやカードショップ等で盛り上がった。しかも他のプライヤーよりも長くしているから増悪ヘイトされるのも必然なのだ。


「おにいちゃんそろそろ夜だよ。ご飯を作ろうよ」


「もうそんな時間か・・・もしかして比翼、手伝ってくれるのか」


「まぁねぇ」


銀河英雄伝説を一緒に観ていたら

午後7時間となっていた。

そろそろ香音を帰宅させる時間だろう。俺はソファーから腰を上げると口を開こうとするが彼女達も

立ち上がる。


「実は、わたし達も手伝おうと思いまして。お兄ちゃんの負担が減るだろうし、楽しめそうですし」


冬雅が屈託のない笑顔で言う。

窓越しから視界を錯覚させる太陽が最も大きく見える光を背にしてより一層と輝きを増す冬雅。


「そういうわけよ。私、今日はここに泊まるから」


香音は栗色の長い髪の毛先をくるくると右手で、もて遊ぶ。

あれ、泊まると危ない言葉を?

さも気軽に言ったのは気のせいかな。


「えーと、聞き間違いだと期待したいけど・・・もしかして泊まると?」


すると、香音は頬を淡い赤色になる。一瞬だけしどろもどろ状態に

なり次に大きく目を見開いて頬の広角を上げて何か企む。


「ひ、ひどい。私が泊まることに嫌な顔をするなんて・・・ううぅぅ」


えぇぇーー!?香音は涙を見せないよう顔を両手で覆い隠して

下げる。酷い発言はした覚えはないが、もしかして香音は思ったよりも精神的に傷つきやすいの

かもしれない。


「ご、ごめん・・・泊まって構わないから。嫌な顔はしていないんだ、ただ驚いて・・・誤解させて悪い」


ずっと年下の女の子が泣かれると

思ったよりも悲痛に感じるものがある。思春期は傷つきやすいと言うし誠意を持って謝る。

毒舌で唯我独尊ゆいがどくそんの彼女でも例外じゃない。


「くっくく」


(えっ?何この声は!?)


「あっははは!ちょっと、マジで面白すぎなんだけど」


抱腹絶倒ほうふくぜっとう。別の言い方をすれば腹を抱えて今にも転げ回るほど大笑い。

香音のそんな姿に俺は少しイラッと残りの8割ぐらいは嘆息をする。


「やー、まさか泣いた真似をして信じてくれるなんて私は女優になれるかも。

マジ才能が溢れている感じかな?」


「嘘だったのか・・・ハァー」


なんだか、どっと疲れた気分だ。

こういう時はピタミンB1を摂ろうかな。


「そうガッカリしないでって。

ほら、夕食を作ろうよ」


哄笑こうしょうした涙を拭い、俺の右腕を引いて香音は台所へと引っ張って進む。柔らかい手だなと悲しいことにドキッとした。

いや、急だったので驚いたドキッはずだ。


「あの涙って笑ってのだと思う?」


隣にやって来た比翼が、そう言うと香音の引っ張る手が一段と

強くなる。そうされると必然、密着するからやめてほしいのだが。

人と会話したくないので、ヘタレスキルを極振りしました俺、

指摘できずに台所へ。


「んじゃあ、何を作る?

カレーとか肉じゃが」


香音は、袖をまくり質問する。


「今日は、からあげにするんだよ」


俺が返答しようと口を開こうとすると冬雅が先に答える。

振り返ると橙色のエプロン姿する冬雅。私服の上にすると、生活感があって無駄に鼓動が高まる。


「唐揚げねぇ、退屈そう」


いや、さっきほとのやる気はどこに行ったのですか香音。


「あはは、そうかもだね。

はい、これ羽島さんのエプロン」


苦笑する冬雅は黒いエプロンを香音に譲り渡す。腹黒いから黒いかな?そんな軽薄そうな発言を

すれば睥睨されるのは間違いないので心の中だけで呟いた。


「ありがとう。それにしても冬雅って、あの人に・・・やっぱり

何でもない」


「?・・・・・あっ!もしかして、わたしがお嫁さんなのか質問でした。

えへへ、そんな風に見られるの仕方ないけど進捗は問われば応じないとねぇ。はい、わたし・・・お兄ちゃんのお嫁さんですよ」


冬雅の緩んだ顔で、事実を多いに歪曲して言ったのだ。もう、そんな事を言わないでほしいよ。

学校でも、お嫁さんとか自慢話していないか不安だよ。


「・・・・・えっ?冗談で言ったんだけどマジなの!?

ヤバくない、大人がJKを妻になるって」


「つ、妻・・・はわあぁ」


冬雅が限界だったようで、顔を俯き悶絶状態になる。そして、香音はドン引きである。ですよね。


「香音おねえちゃん全部、冬雅おねえちゃんの冗談ですよ。

おにいちゃんエプロン」


「あっ、そうなんだ。やっぱりあんなロリコンが冬雅と、釣り合う

わけないし」


「・・・・・」


そう言えば冬雅に釣り合うか話になればその通りだろう。年を除いても冬雅と隣にいるには

疑念を抱かせるには当然だ。

比翼にエプロンを渡されお礼して着る。


「そんなことないよ!お兄ちゃんは、わたしには勿体もったいない人なんです。

優しく見守ってくれるし、真剣に考えて、話し方が仙人みたいで面白いし、かわいい、カッコいい、高校生よりも純粋な考え方とか目をしているし、それから――」


「もう分かった。大好きなんだってエモエモになっているの解ったから」


エモいを2回も言うんだね。感情的か叙情的な様が、すこぶるだろうか。 ともかく冬雅がほとばしる思いを落ち着かせるまで

待つことせず、料理を作る事にした。


「それじゃあ先ずは鶏肉とりにくだけど唐揚げにする定番の部位がもも肉か胸肉だね。

違いはもも肉場合はジューシーで胸肉が、あっさりしているんだ。女性は、胸肉がいいかな思い

今日は胸肉を使う」


まぁ、胸肉しかないので一択なのだが。俺が事前にネットで調べた

言葉に三人は、憧憬の眼差し。


「ふーん、詳しいわねぇ」


鋭い発言はなく、少し尊敬の念を抱かせただろうか。

俺は、まな板と包丁を出して置く。


「それじゃあ冬雅、お願いしてもいいかな」


「任されました、お兄ちゃん」


指名されたことに花が咲くような笑顔をする冬雅。場所を空けて

前に立つ冬雅は包丁を持ち慣れた手つきで、スジや脂肪を取り除く。


「これは、食感や香りを妨げになるから取った方がいいんだ」


「へぇー」


包丁による素早い切り方に香音は

驚嘆の声を出す。


「もう知っていた」


比翼は、挙手して既知だと声高に言った。前に作っていたからなぁ。俺はジッパ付きの保存袋を持って冬雅の邪魔にならないよう

配慮して二人の視界の前になるよう見せる。


「作り方も色々とあるけど、今回はこれにする。

ニンニクと生姜しょうが醤油しょうゆ、調理酒と片栗粉かたくりこを入れて混ぜる」


「お兄ちゃん終わりました」


「お疲れ。それじゃあ冬雅が切った鶏肉をもちろん入れるのを

忘れずに。香音よかったら、やってみるかい?」


「えっ!?うん。やってみる」


俺は入念に洗った手で鶏肉を保存袋に入れて香音に渡す。そして、

調味料を入れていく。見落としないか確認してきて、生姜が忘れている伝えるとため口だけど

お礼して作業を続ける。

そして後は混ぜるだけだが、ここは面白い。


「おぉー、なんだか楽しい!」


最初にやった時は、多くが楽しいと思うことだろう。混ぜ方は、保存袋をただ振るだけというもの。

俺だけだと思うが、バーのシェイクみたいだと楽しくなる。


「あっ!止めてくれ香音。

失念していた事がある」


「はぁ?失念って何」


手を止める香音は、機嫌を悪くなる。


「えーと、失念というのは忘れる意味なんだ」


「いや、知っているし。そうじゃなくて何が忘れたかよ」


「ああ、実は水を入れるの忘れていたんだ」


「そう。なら早く入れてよ」


ジッパを空ける香音。コイツ思ったよりも駄目だなと言わんばかりな目線で。


「えぇーー!?お兄ちゃん水を入れるの?」


「み、水って本当なの?」


冬雅と比翼は声を出して驚き、香音は二人の驚愕に首を傾げた。


「香音、実は普通は入れないんだ。普通ならだけど」


「じゃあ何、私が嘘泣いた意趣返いしゅがえし、なわけ?」


目を細めて訝しむ香音。仕返しだと疑われている事に今度は俺が

驚く番となる。もしかするとそう悪い捉え方をする発言を知らずに

したかもしれない、心に自省した後は丁寧に不足ない説明しよう。


「デンプンの粒子がダマになると空気が中に含まるんだ。そうなった鶏肉で揚げるとサクサクの味になるんだよ」


「ダマ?ふーん、そう。なら、サクサクになるわけ。ふーん」


あ、あれ?お疑いは晴れていないようで。機嫌を損ねないよう細心の注意を払う必要があるだろう。

・・・なにそれ、上司の接待か何か。


「混ぜ終えたようなので次は油を入れます。それじゃあ比翼、入れてくれ」


「はーい」


底が広いフライパンを出してに油を入れる。四人分なので多く作る必要があるため油は少なめに

入れる。どうやら前に教えた事を比翼は覚えていたようだ。

やっぱりまともに教育を受けていないが、実は高い記憶力を誇る比翼。


「では、説明をするよ。

多く揚げる場合は使う油をいつもよりも少なくする。理由は明確単純で入れるほど油が上にいくわけだ」


「はぁー、当然じゃないの?」


「うーん作り始めて、日が浅いわたしには斬新のアイデアって思うけど?」


呆れる香音と、判断がつかない冬雅。まぁ、どう思うかは人それぞれだから否定する所でもないだろう。比翼は、俺の腕に自然な流れみたいに抱きつく。


「温度を上げてから入れる・・・のが常識なんだけど、火をつける前に入れるとしよう」


「ええぇぇーー!?」


叫び驚く冬雅。


「はい?」


キョトンとなる比翼。


「いや・・・マジで?」


香音は、ありえないんだけど目線。

それぞれ違うリアクションをする3人に俺は、面白く頬を緩んでしまう。


「信じられない話だけど、そうするのがいいとテレビでやっていたんだ。香音それじゃあ入れようか」


「はーい」


無気力な返事をして香音は、恐る恐ると菜箸さいばしで掴み油の中へと入れていく。

もちろん温度は100度前後もあるわけもなく、ジュュッ音を立てることも飛び散る水滴で火傷をする懸念もなく何事もなく入れ終える。


「後は、火をつけて揚げるのを待つだけだね」


「こんな簡単で上手くいくの?」


香音は拍子抜けだったようで誰にともなく訊ねる。おそらく俺も含めて三人だろう。


「うん。そう難しく考えなくてもいいんだよ羽柴さん。のんびりとやろう」


「うーん、そうだねぇ」


冬雅の言葉に、うーんと唸りながらも納得した声で頷く香音。

友情が芽生えて良いことだと俺は、ほぼオッサンみたいな考えをするのだった。

そして温度が、おそらく100度前後になりパチッ、パチッと弾くような音が鳴る。


「油がと、飛んでいるけど

大丈夫なわけ?」


「心配は御無用だよ香音おねえちゃん。そのために油を少なくしているから滅多な事じゃないと

当たんないよ」


「それ当たる可能性はゼロじゃないわけじゃないのおぉぉーー!!」


慕う比翼の前で少し毅然とする香音が、そう絶叫するとは。

慣れている俺も当たるかな?なんて少しは不安はあるからなぁ。

そして、ここからはキツネ色になるまで待つこと8分ぐらいだろうか。油を切って皿に入れて終わり。待っている間に冬雅と俺が作った味噌汁をお椀に入れてテーブルに並べていく。

冬雅が多めに作ったポテトサラダを冷蔵庫から出す。次々とテーブルを所狭しに並べて席につく。


「わぁー、なんだか豪華」


香音の感嘆な声に、冬雅は照れてしまう。まぁ、俺も多く作った側だから気持ちは理解できる。

向かいに冬雅、その隣が香音。

俺の右隣が比翼。お互い自分の手と手を合わせる。


「「「「いただきます」」」」


食事の儀式的な言葉をハモる。

お互い箸を持ち食事を始める。

まず俺は味噌汁を最初に口に運ぶ。うーん、様々な具と味噌の味がハーモニーが奏でて美味だ。


「ん〜!?何これ美味しいんだけど」


香音の驚きの声に、顔を上げて見るとからあげを一口を食べて

瞬きを何度もして驚いている様子。


「サクサクして美味しいんだけど。この家庭の味って最高すぎない!?」


「本当、香音おねえちゃん・・・

う、うまいどぉぉぉーー!!」


比翼は、グルメマンガ並みのリアクションで美味しいと叫んだ。

その二人の反応に――


「えへへ、料理を食べてもらって喜んでくれるのってエモいですよね、お兄ちゃん」


「ああ、そうだな。言葉に表せない達成感とかあって」


向かいに座る冬雅が、満面な笑みで言うと俺も影響を受けたのか

素直にそう述べた。

声には出してはいないが俺もからあげを食べると、美味しいぞぉぉーー!と比翼みたいな叫びを心でしている。

姦しいが楽しく

こんな平穏がずっと続いてくれたらいいなぁと俺は思いながら彼女達と談笑をするのだった。

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