第205話―彼女達は夢を見て、俺は夢をつかめず5―

陽が沈み夜が立ち込む外を羽柴さんだけで歩かせるには心配事が

多く俺は途中まで同行することに

なった。正直、羽柴さんなら不審者も返り討ちに出来るのでは思っているが楽観視は出来ないし。


「女子高校生をナンパする人って最低と思いませんか、ステルスJKナンパさん?」


「・・・そ、そうですね。普通にアウトかと存じます」


「ふーん、一般的に自覚していて毒牙をかけると?

いえ、妹みたいな人までメロメロさせている誰かさんじゃありませんよ」


「え、えーと・・・」


それ完全に俺のことではないかな?

そう確認したくても笑顔でそうですね。など優しく罵られるのが未来の出来事を想像出来る。なんだろうそれ、ニュータイプになった気分。っと現実逃避な考えで

散乱した思考を整える。

今は羽柴さんと駅に向かう夜の住宅街で二人。年が離れているのと女の子の気持ちに疎い俺は、

どう話をすればいいか悩んだ。


(それに真奈が期待されている。

お願いされたら出来る範囲はやるとしよう)


「羽柴さん真奈とは最近、いつ頃に会いましたか。ほ、ほら

感染がクラスターですし」


しどろもどろ。さり気なく話題して胸につかえている事を訊ねるつもりなんだけど迂遠すぎたか。

冷ややかな視線を向けて言う。


「はっ、最後に会ったのはホワイトデーですよ。デレデレしていたアンタと一緒のときです」


「・・・・・そ、そうですか」


「もしかして警戒しているんですか?真奈様と二人きりに

なれなくて」


並んで歩いていた彼女は足を止めて俺も止まり振り返る。

拳を構えてシュー、シューと澄んだ声を発して戦闘態勢を取るJKさん。


「まさか。そんな事は考えていないのと真奈が、それを望んでいない。

真奈は優しいから、よく気配りする。それは長所で短所でもあるんだけど」


落ち込んでいれば、鋭敏な神経の持ち主は神速のごとく気づく。

そして、気に病んでしまう。

優しすぎて不安を覚えることが、一つ2つじゃない。


「・・・・・何よ、それ。真奈様の事を好き過ぎじゃないの変態オッサン!」


羽柴さんは怒り心頭で罵声を吐いた。彼女は止まった足を動かし地団駄しだんだを踏む。

俺も慌ててその背を追うため早歩く。それにしても罵声を何度も

されると強くないメンタルは

ボロボロなんですけどね。


「あと、寄り道したいからついて来てくれる?」


「えっ、ああ。もちろん」


長い買い物ではないようにと心に祈りながらついて来て歩く。

駅に到着し、電車に揺れ降りて暫く歩いて俺は思考が一瞬だけ止まった。


(こ、ここホテル街って所じゃあ!?)


どうしてその道を通ろうと決めたのか。

夜の繁華街で一緒に歩いていないと危険にもほどがあるだろうと

危機感をしっかりしてほしいと

心で思っていたが・・・さすがに

ここは、まずい。俺も含めて。

俺にはよく分からんが神待ちより

危ない人物で見られるのは間違いないね。すでに通り過ぎる30代の恋人か夫婦かともかく俺に蔑んだ視線を向けてきました。

はい、アウトですね。


「も、もう少ししたら休む所があるから」


「いえ、結構です。休まずに一直線で目的を果たして・・・早く去りましょう」


どう意味を受け取ったのか知らないが恥ずかしそうに、そう言わないでほしい。誤解される可能性が飛躍的に上がる――いや、上がった。


(どうして、この道を通るんだ?

チラッ、チラッと俺に振り返る視線も気になるんだが)


明らかに知らずに入った線は羽柴さんの躊躇うよう所作で

推測は出来るもので複数の結論が浮かんでは泡になって消える。

何か目的があって、この場所を選んだ。完全に犯罪者みたいな思考だが羽柴さんが制服であったら俺はアウトだったなぁと思った。


「・・・へ、変態」


「へっ?な、何が」


「な、何でもないわよ!」


理不尽にもほどがある。もしかして社会的地位を貶めようとしているのでは。曲がり角にも、まだ

あるし早く未成年には健全な建物が見えないかな?と考えている

と羽柴さんは足を止めた。


「・・・そ、そのどこか休憩しない?」


今までに見たことないほど赤面した顔と涙目でいっぱいの目で

小さな声で言った。


「・・・・・じゃ、じゃあ飲食店とか公園とか」


もう明らかに入ろうとしていますよね。どうして、こうなったのか。是が非でも避けないと!

冬雅達に合わせる顔がない。


「そう。わかったわ」


ここに来て不意をつかれたが、また不意をつく発言に俺は呆然となるのを感じた。足が止まったせいで羽柴さんが中年男性が近づこうとするのを視界の端に入り

急いで走り隣に立つ。


「ハァ・・・ハァ」


「ちょっ!?息が荒いんだけど、怖いんだけど」


両腕で身体を包み隠すようにして距離を取る羽柴さんを見て、

少し、いやけっこう憤りを覚えた。


「誤解ですよ。知らないで・・・・・もう少しで危険な目に合っていたかもしれないんですよ!

少しは自分を大事にしてくださいよ」


「ど、どうして怒られているの!?」


誘惑まがいな言動や、俺が運動不足で全力で走って隣に守ろうとすれば危険扱いで怒りたくもなる。

もし、俺が一般的に本能的にという感情があったら大変な事に

なっていたはずだ。


「もう、いいでしょう。羽柴さんここが、どんな場所って知っているようですから一刻も早く立ち去りますよ」


「は、はい・・・」


素直に頷き、場所を小さな公園に

足を向けた。ブランコをブラブラと揺れながら乗る。


「・・・試していたの」


「試していたですか」


試していたと彼女は言った。試すには危険が伴うにもほどがある

が、そこまでするには何かあるのだろう。左にブランコをゆっくり揺れながらうつむく彼女は話を続ける。


「もし、そんなことをするなら

証拠写真とか撮って真奈様に

報告しようって考えていたのよ」


「・・・もしかしてそれだけ?」


「そ、そうよ!もしかして怒っているの?」


「ああ、怒っていると思う」


「え?」


予想外な言葉に、彼女は口を小さく開いて戸惑っていた。

俺は滅多に怒らないことで定評があるが、これにはトリガーとなった。


「もし、そんなことされて誰が得をするんですか!真奈や冬雅を

悲しむ結果になる。

羽柴さん自身だって永遠に苦しみ続けることになる」


「・・・・・うん」


長い髪がカーテンのようになって下に向く羽柴さんの表情は分からないが静かな声音から察して

嗚咽を堪えているかもしれない。


「俺を試すような事は他にあるでしょう。こんな簡単に実行を

しないでください」


「うん・・・」


おそらく他にも狙いがあったのだろう。俺が邪魔になって逮捕などされるようにつく作る必要性が彼女にはあったのだろうかもしれない。選んだ手段は消えない傷を

多くの刻まれることになる。

だからこそ俺はそれを全力で否定する。


「俺は・・・羽柴さんが苦しませたくない。だから絶対にもう

そんな事をしないでください」


「うん・・・うん」


彼女は小さな声で頷き、唸るような声で返事をした。

彼女が隠そうとした嗚咽を気づかないようにして俺は夜空を見上げる。羽柴さんが泣き止むまで俺はブランコに揺れながら夜空を

ぼんやりと見上げて、ある事を気づく。


(まずい!冬雅と比翼に遅くなるってメッセージを送らないと。

・・・でも、なんて理由を送ればいいかな。さすがにホテル街に回っていたという危ない発言は出来ないし・・・説明するべきか?)


悩んだ末に夜の繁華街で回って遅くなったと送ることにした。

なんだろう、この隠蔽いんぺいした後ろめたい気持ちは。

嘆息してスマホをポケットに戻す。


「そろそろ行きましょう。

エモくなっていたけど落ち着いたから」


エモいなんて見抜きやすい嘘を思ったが指摘しないようにしよう。

彼女なりに自省して泣き止んで

成長をすると信じて。

また、電車に揺れながら羽柴さんの家の近くまで今度こそ歩く。

家、車、街灯の強弱の明かりで彩る坂道を並んで下る。

その間はお互い話などせず黙々と歩いていた。うーん、どう話を振ればいいのだろうと悩む。


「月がきれいですね」


彼女はそう言った。


「えっ?ああ、そうだね」


唐突だったので少し素っ気ない回答をしてしまった。

ここでコミュニケーション不足が出てしまったか!何度も恨んで後悔したことか。気の利いた言葉を

ここで言えばいいんだけど。


「羽柴さんその、良かったら

真奈と一緒に会いにいきませんか?」


「真奈様と?」


キョトンと傾いて見上げる。


「難しいけど、たまには。

近々に・・・真奈も羽柴さんと会えなくて寂しいはずですから」


「真奈様が・・・うん、分かった」


真奈の話題となると満面な笑顔で返事をするんだなぁ。どれだけ

尊敬しているのか。それからポツンと話題が途絶え気まずくなる。

小さなラーメン屋やコンビニが前方に視界に入る。隣の足音が聞こえなくなり振り返ると足を

止めた羽柴さん。


「私・・・羽柴さんじゃないから」


「えっ?」


2つの人差し指をツンツンと触れて離れを繰り返しうつむく彼女は、赤く染まった顔で

上目遣いで見上げる。


「か、香音かのん。私のことは香音って呼んで。

冬雅も比翼も真奈様だって下の名前を呼んで・・・ず、ズルいから!」


「あ、ああ。分かった・・・香音さん」


「さん・・・いらない!」


「香音!」


うわぁー、しまったなぁ。上擦った声で下の名前を呼んでしまったよ。


「・・・・・」


コクっと嬉しそうに頬を少し上げて頷く羽柴さん――もとい香音。うーん、そう喜んでくれるのは

悪くないけど恥ずかしい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る