第202話―彼女達は夢を見て、俺は夢をつかめず2―
比翼の成長は風のような速さだ。
目覚めた俺はすっかり習慣となった洗顔をしていた。
朝これしないと目覚めた気分になれないからだ。心地よい冷たさで思考クリアになっていくような気分になり俺は昨夜の事を振り返る。
いつの間にか相手の気持ちを押し量れるようになって、行動が出来るようになっていた。
いや、そんなのどんな人でも誰でもそうする。比翼は、その斟酌を
前よりも出来るようになってきている。近くで見ているから顕著に
違いが分かる。
この成長速度は大人ではない中高生ならではの力かもしれない。
「いや、そんな訳がないか。
現に俺がそうだからなぁ」
中学生や高校生で青春とか最も輝かしい。っと頻繁に使われるが、
それは概念じゃなく、その人の心に
俺の学生時代は輝かしいなんてほど遠いし暗いものだった。だが現在が輝かしいと言えるかもしれない。冬雅と出逢って。
「だぁーーれだ?」
顔を洗っていると後ろからそんな声が掛けられる。俺は、そのセリフは目隠しするものじゃないか?と内心そう思いながらも後ろへ
ゆっくり振り返る。
「その声は冬雅しかいない。
おはよう」
「おはようございます!お兄ちゃん。はい、タオルです。
振り返ってから答えられると分かっていなかったの、もしかして」
「毎日、聞いている声だよ。
逆に分からない方が難しいよ。
特に長い付き合いになる冬雅は」
俺の人生の中で家族を除いて長い付き合いとなるのは冬雅。
仕草や好きな食べ物など知っているのと好きなゲームなども知っている。冬雅は顔を赤くして、
平常心を少し乱れキョロキョロと視線を忙しく動かす。
「あ、あの・・・お兄ちゃん長い付き合いですね確かに。えへへ、なんだかお兄ちゃんから言ってもらえると嬉しくて夢のようです」
いつもの満面な笑みではなく恥じらいながらの笑顔。 こう挨拶されると新婚生活って、こうなのかなと俺は嬉しそうに悶える冬雅を
見てそう考えていた。いやいや、
相手は女子高校生だ。落ち着け俺よ。
「俺も夢のようだって思うよ」
欠点がない美少女である冬雅にここまで強く想われている事が夢
じゃないかと起きていつもそう
問うている。だからこそ、つい
こんな言葉を目覚めたばかりの
俺は口に出してしまった。
「お兄ちゃんも・・・夢じゃないですよ。だって、触れることできるんですから。こんな風に」
「ちょっ、冬雅!?」
冬雅は俺の右手を優しく、握ったと思ったら恋人繋ぎとした。
どうしたんだよ急に、こんな――。
「こうすれば感じますよ。お兄ちゃんはいるって!それはお兄ちゃんも同じのはずです。わたしの
存在をこう手で繋がれば強く
実感するはずですよね。
・・・・・幸せです」
最後は煩悩かな。
ともかく冬雅の言わんとしていることは、よく理解出来た。けど、その握りは俺の鼓動を速めることになっている。
そうなると冬雅は、冷静に思考出来るように回復したら逃走する
だろう。
「た、確かに手を繋ぐと不思議と安心はあるね。冬雅そろそろ、手を・・・離しても」
「えへへっへへ、だめですよ。
お兄ちゃんと、こうして手を繋いでいます・・・・・手を繋いで・・・・・手を!!?」
・・・いま気づいていたみたいな反応だけど、冬雅がしたんだよ。
唐突に手を絡められ混乱していた俺は、どんな意味があったのか問うてみたら、そんな反応だった。
冬雅は真っ赤に頬が染まり羞恥心で失神するんじゃないかと何故かそんな心配を抱かせるものだった。
目の前で、俺の顔と握るを手を何度も向くの繰り返しで動揺しているのが伝わり俺よりも分かりやすいと焦りが消えて冷静になる。
「久しぶりだったけど・・・温かい。お兄ちゃんの手って少し細いけど大きい」
「冬雅そろそろ離さないか。
比翼に見られたらまずいし」
「・・・・・そ、そうですね。でも、もう少しだけ」
「す、すぐに離してくれないのか」
「・・・お兄ちゃんはイヤだったですか?」
「嫌じゃないけど、こういうのは早くないかな」
「真奈はするのに、わたしとは早いと言うんだね」
困ったような悲しそうな笑みをされると困るんたけど、違和感を覚える冬雅が真奈とは手を恋人繋ぎもしていると指摘されたら
否定ができない。誤解しないでほしいが、たまたまで真奈が前触れもなく仕掛けてくるのだ。
「真奈とは、流れに流されて言うのか――」
「誤解している!なんて言わなくても分かってるよ。・・・わ、わたしとすると恥ずかしそうで少し
嬉しかったです」
「えっ?いやいや、それは誤解だよ。
誰だって冬雅のような可憐な人とそんなことされたら、そうなるよ」
「けど、お兄ちゃんですよ。
わたしとお兄ちゃんが孤独だった頃の付き合いなんですから知っていますよ。えっへへ」
「長い付き合い風に行っても、そろそろ一年とかだと思うけど」
「そういうことにしておきます。
・・・・・また、しましょうね。お兄ちゃん」
「しないよ」
ニコニコ笑顔の冬雅は手を離して居間へと小走りで去っていく。
あの上目遣いは反則にもほどがあるなぁと嘆息して冬雅に続いて居間に入ると既に朝食を温めている
冬雅の後ろ姿を見て、心の底に癒やされるのだった。
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