第196話―ふゆかじゃなく、とうがだ!3―

「行こうぜ、兄さん!」


男になりきっている冬雅は俺の腕を引っ張って玄関に向かった。


「ふ、冬雅どこに行くんだい?」


冬雅とうがだぜ兄さん。

そんなの外に決まっているだろ」


「決まっているの!?」


そんな流れは無かったのに唐突で行動的だった。それが彼女らしい

のだが今日は特に積極的だ。


「冬雅おねえちゃん。マスクを忘れていますよ」


「あっ、急いでいて忘れていたぜ。

はっはは、ありがとう比翼」


「大雑把ですか!まったくキャラになりきるなら、おにいちゃんの距離は取ったほうがいいからね」


「・・・えっ?」


マスクを受け取った冬雅は意表を突かれたみたいな反応で硬直する。ショックを受けた顔からしてイチャイチャするつもりだったのか!


「だって、同性なんですから。

イチャイチャはしませんよ。

する人もいるけど、女の子みたいに抱きつくことはしないから」


「く、詳しいんだね比翼は・・・お姉ちゃんびっくりだよ」


「二人のお陰で。そんなわけで、冬雅おねえちゃんは友達の距離を取るように」


廊下で年下の女の子からの細かいアドバイスに冬雅は頷き納得していた。これだと二人がどちらが

年上か。


「これで、おにいちゃんをドキドキさせるのは、このわたし。

ふっふふ、わたしが清濁併せいだくあわせ呑む女の子で妖艶なので申し訳ないです冬雅おねえちゃん」


敵が策に計画通りに嵌められた愉悦を浮かべるようにしているつもりなのだろう比翼は、小物みたいなコメディ感がある冷笑。


「えへへ、かわいい。

でも残念だね。難しい言葉で言いたくなったんだろうけど、清濁併せ呑む意味は正義と悪を併せて持つじゃなくてね、善人と悪人も受け入れる大きな度量ことなんだよ」


両目を閉じ、人差し指を円を描くように回しながら正しい意味を仔細的に説明する。ぐぬぬっと比翼は悔しさと恥ずかしさで唸り

ながら頬を赤さが目立っていく。


「・・・た、試しただけ。冬雅おねえちゃんが指摘できるかを試しただけだよ」


もしレッサーパンダに睨まれたらと思わせる、可憐な怒りの瞳。

睨まれた冬雅は

顔を崩さいようにするの必死だった。あの比翼が年相応すぎる反応と出来る嬉しさもあって破顔しそうになる。


「えへへ、そうなんだ。

お眼鏡に適ったかな?」


「は、はい!」


うっとりと混ざった熱い眼差しを送っていた比翼は上擦った声を

上げた。


「比翼?顔が赤いけど平気」


「なっ!?」


冬雅は、右手で比翼の額に当てて原始的か古典的な熱を測り方をする。緊張が全身に駆けていくのが見て窺えるが、態々わざわざそんな反応をしたのは違和感を覚えた。


「お、おにいちゃん早く行こう!」


てのひらを離すと比翼は脱兎のごとく速度で俺の腕を引いていく。君達、俺の腕を引き過ぎだと思うのだけど。

靴を履き最後に冬雅が履き終えるまで待ってから左右に住宅が並ぶ道路を歩く。往来自粛おうらいじしゅくでも往来はそれなりにある。


「ねぇ、ヤバくない。ヤバいイケメン!」


「きゃー。まるで、王子様」


「けど、私の調べではあそこまで整った少年は見たことない。

一体なにもの?」


言わずもがな、注目しているのは冬雅の容姿である。もし他の人が見れば――中性的な顔立ち。後ろに束ねてつややかな黒髪。風が吹いて靡く髪は芸術的であり、

恍惚こうこつな表情と黄色い声を多くの女性をメロメロに

させる。


「さて、今日はどこに行くんだ兄さん?」


前へ歩く冬雅が、どこに行くかと振り返り訊ねる。うーん女子力がとてつもなく高い冬雅がワイルドなセリフに違和感が強い。


「遠くは行くわけにはいかないからなぁ。

軽めの桜見とか、どうかな冬雅」


「ふゆかじゃなくて、とうがだ!

まったく何度を言わせるつもりなんだよ兄さんは」


こ、攻撃で俺は耳を疑い反芻はんすうして俺のために小説のキャラを演じて協力している。

考察する余裕もなくかんはつを入れず行動をする冬雅の言動で別の方に考察などしていたか。


「そうだね気をつけるよ。

なりきっているなら俺も男友達みたいに扱うよ」


「ふぇ!?・・・い、いいぜ」


これは小説の男友達と取り留めのない話をするシーン。わざわざ男装してくれたのだ。参考になるように色々と試さないと。


「なら・・・・・ごめん。男友達とどんな話をすればいいのか分からない?」


基本的には男友達いないのでどう話せばいいのか知らなかった。

友達じゃなかったら、多いが。


「お、お兄ちゃん・・・その何でもいいですよ!例えば・・・何をすればいいのでしょう?

肩を叩くとか」


情けない大人に何とか励まそうとする冬雅は言葉が浮かばずに

俺と一緒に男友達とは課題を悩む事になった。肩を叩くのは定番だけどいきなりは違う気がするので却下。


「どうして、おにいちゃんが分からないの?例えば好きな子とかしぐさとかあるよ。同性しか出来ない話があるでしょう!」


情けない俺の言葉に比翼は呆れ果て、論をたない話題があると教えてもらった。14歳にこんなアドバイスされるなんてなぁ。


「けど、冬雅は同性じゃないから」


「いえ、今は冬雅とうがだ!

だ、だからお兄ちゃんの好きなタイプや仕草は訊きたいなぁ」


「本音が駄々漏れにもほどがあります!おねえちゃん。でも、わたしも訊きたい!!」


「えぇー、」


目的が違うのだけど、いいのかこれは。おそらく否定しても比翼が

そうさせないだろう。会話が得意なんだよね比翼。


「・・・す、好きなタイプは長い髪とか誰にも優しい人かな?」


前に似た質問を冬雅がしていた気がするけど、あの時は冬雅には妹と答えたが、過去の失敗をしないよう言葉を気をつけて返事をする。


「な、長い髪と優しい・・・そうなんだ。お兄ちゃん好きなんだ」


「そ、それって、もしかして・・・わたしの事なのおにいちゃん!?」


すぐに浮かんだ言葉は二人に当て嵌るもので結果、恥じらせてしまった。冬雅の反応といえば俯いて恥ずかしそうに上目遣い。

一方、比翼はタイプは自分ではないかとグイグイと訊ねてきた。

恋い焦がれると冷静になれないんだなぁと冷静に分析して、俺はなだめる事にした。


「落ち着いてくれ。あくまでタイプであって好きな人じゃないから」


一応はおとなしくはなったが、

次の言葉を待っている。

俺はその視線を逃れるように銀杏イチョウを見上げ眺める。

3人で歩き続けて、しばらく二人だけで何か話をしていた。


また、飛躍した計画を話し合っているのが内容まで聞こえなくても

雰囲気や経験上が直感した。

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