第168話―マナ無双4―

「えへへ、お兄ちゃん大好き」


「冬雅おねえちゃんに負けないぐらい大好きなんだよ!おにいちゃん」


常識に考えると絶対に出来ないセリフを日常茶飯事にするのは

冬雅と比翼だ。ワタシには恥ずかしくてお兄さんには出来ない。

最近は、思い切った行動をしているけど、さすがに冬雅レベルで

告白するのは難易度が高すぎる。


だから、せめて手を繋いでお兄さんには想いを一欠片ほどでも

感じてほしい。と思っているけど

香音に警戒されて、なかなか難しい。見送りに来たお兄さんと二人になった。


「お兄さん!二人きりになりましたよね」


茜と香音の順で見送ったお兄さんとワタシは最後にワタシとなった。冬雅と比翼は大事な日に備えて腕を磨いているのでお兄さんとは同行していない。


「ああ。真奈と二人で手を繋ぐなんていつ以来だろうか?」


夜の道にワタシとお兄さんだけの

シチュエーションなんてそうそう

無かった。なんと、

お兄さんまでこの日を待っていたのかな?なんて妄想してしまう。


「お兄さん寄り道とかしませんか?あ、あの公園とかに」


ワタシが小さい頃によく遊んでいた小さな公園を指す。


「いいよ。静かにブランコで乗って話するの楽しみだな」


そんな中高生ような呟きした。


「フフ、お兄さんちょっと子供ぽいですよ」


「あー、これは恥ずかしいことを」


「ううん。ワタシお兄さんが恥ずかしいセリフとか遠慮せずに言って

ほしい。だ、だって・・・もっと

近くに感じたいから」


「真奈・・・」


込み上げて来るこの恥ずかしい気持ちもお兄さんしかいないと分かるとドキドキが止まらず

嬉しいような逃げたいような

気持ちになる。


「と、とりあえず何か買うか」


「う、うん。お兄さん」


この稚拙な距離感も懐かしくてお兄さんも同じ気持ちなんだと頬が少し弛めてしまう。

自動販売機でお兄さんはメロンソーダを選ぶ。ワタシよりも甘いのが好きな所に愛おしくてつい

からかいたくなってしまう。


ワタシはカフェオレを押して誰もいない公園、月の下でブランコに

乗って手を繋いたまま月をただ眺めたり他愛のない話をする

だけでもデートのようで

ワタシの心はずっとドキドキして

モヤモヤしていた。


「お兄さん」


「んっ、なんだい?」


「ワタシお兄さんが大好きです」


「あ、ああ」


お兄さんは、戸惑っているのが

手に伝わる。こんなに甘いと溶けそうになる。


「聞いて。ワタシお兄さんと同い年ならよかったのに、なんてずっと思っているんです。

けど、そうなったらこの気持ちを感じないのは惜しいかなって」


「そ、そうなのか」


「そうなんです。そうに違いありません。東洋とうようお兄さん」


つい高揚感で下の名前とお兄さんと呼んでしまったけど、いつかは

下の名前だけで読んでみたい。

いえ、やるなら今!


「と、東洋・・・えーと頭をでて欲しい」


「・・・分かったよ」


短くそう返事すると繋いでいた手を離して大きな手が頭の上でゆっくりと撫でていく。


「・・・・・んっ」


羞恥心をかなぐり捨ててのお願いしただけはあった。

思ったよりも気持ちよくて

ずっとこのまま時間が続けてほしいと思った。


「真奈!?」


「えっ?この声・・・パパ!?」


入口にワタシとお兄さんはすぐに視線を向けたら、ワタシのパパが

顔を蒼白になっていた。

恐れていたことが現実となってしまった。パパはお兄さんに見たことない怒り顔で近づきそして・・・

お兄さんの頬に拳を叩き込んだ。


「この娘をたぶらかすなぁ!」


「ぐっ!」


「お兄さん!やめてパパ!!」


ワタシは握っていた缶コーヒーを落としお兄さんの前に立って両手を広げる。


「真奈・・・」


パパがショックを受けて呟き心がズキンと痛くなる。


「パパは誤解している。

ワタシとお兄さんとやましい事なんてないから!」


「・・・とりあえず、家に帰って詳しい話を聞かせてもらう。

お前も来てもらうぞ」


「はい」


お兄さんは悲痛な表情でワタシを一瞥いちべつして腰を上げる。

自分の事よりもワタシの心配している顔だった。


ワタシはパパの隣で歩くことになった。お兄さんを警戒してワタシから離して歩くように言われた。

ワタシの反対にパパの隣に距離を取って。家に着くと重たい気持ちでお兄さんだけを逃したい焦燥感に駆られそうになる。

けど、警察を呼ばれて誤解されて

留置所とかにいることになるやもしれない。そう考えるとパパの

言葉に今は従うしかない。

玄関ドアをくぐるとママがやって来た。


「あら?お客さんかしら」


「真奈の交際相手らしいんだ」


「えっ!交際相手?」


ママもお兄さんを敵愾心てきがいしんを向けて警戒している。

やだ、大好きな人が認めてほしい人から疑われるなんて。


「真奈。心配しなくても、平気だから」


「お兄さん・・・」


お兄さんはワタシを励ますのに手を繋いだり頭を撫でるけど、それが出来ずに笑顔でワタシを

安心させようとする。

それが、根拠のない事だって

ワタシも分かっているのに安堵してしまう自分がいる。

今すぐに胸に飛びつきたい気持ちだけど誤解される懸念がある。


「上がりたまえ」


「はい」


お兄さんはワタシに心配させまいと暗い表情やあせりを

見せない。こんなときだって

ワタシよりも自分の身を案じてほしい。白の家具が多いリビングでワタシとお兄さんは事情を説明する。

座った位置はお兄さんの向かいが

ママを真ん中に右がワタシと左はパパ。

冬雅や比翼を伏せることになるけど嘘は言っていない。

お兄さんとは言えないような事なんてないから。


「あらあら。山脇やまわきさんと言うのね。

これからもナーちゃんをよろしくお願いするわ」


「え?」


ワタシはママの言葉に正直、驚いている。あの剣呑な雰囲気はどこへやら。今はにこやかに笑っている。


「レ、レイリ!?コイツは

真奈をだな」


「クロウ。あの人がナーちゃんを心配してよく見ていたわ。

この人ならナーちゃんを幸せに出来ると思ったわ」


クロウは平野九郎くろうからレイリは平野麗里れいりと何故かカタカナで書いていたことを今になって思い返した。

そ、それよりもママがワタシを

幸せに出来るのはお兄さんだけって・・・!?


「でもコイツは未成年に頭を撫でたんだぞ」


大袈裟おおげさよクロウ。

真奈がお願いしたって言っていたようだから、別に問題はないと思うわよ。

それに頭を撫でるなんて、

過剰なスキンシップじゃないでしょう」


「うっ。し、しかしだな――」


パパは弱々しく否定しようとするが。


「クロウ。ナーちゃんをここまで想ってくれる人が現れると思うの?見たでしょう二人が仲良く

話をするのを」


「た、確かに」


「ス、ストップ!!

ワタシとお兄さんが仲良く話をしたなんていうよ!」


説明不足なのをワタシが代わりに答えたり、お兄さんとのデート

みたいなお出かけには、くちごもるワタシにお兄さんが説明と

しただけ。

やっぱりお兄さんに落ち着かせようと微笑んだのが、見られたのかな?


「あ、あの・・・そろそろ夜が遅いので真奈を寝かせた方がよろしいのでは?」


「お兄さんは、ワタシをそんなに幼く見えるんですか!」


ワタシが突っ込むとママが微笑して見守りパパは複雑そうな顔をしていた。

お兄さんを玄関まで見守りにワタシとママとパパで。


「いつでも来てくださいね

山脇さん。ナーちゃんの話とか

聞きたいですし。後ここを我が家だと思ってくださてもいいのよ。

もちろんナーちゃんとは存分に イチャイチャしてくれても――」


「ママストップゥゥーーー!!

お兄さん鵜呑みにしないでよ」


「わ、分かった」


まさか、ママとパパにワタシが

お兄さんに好意を抱いていると

説明する日が来るなんて・・・

恥ずかし過ぎて穴の中に入って

爆死したい。

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