第159話カオス・パニック2

リビングで一時間ほど宿題を済ませてから俺の部屋に移動する。

ちなみに勉強会の勉強より談笑の流れはなく音を立てるのが許されない重たくて静謐と化した空間。

進学校に通っている冬雅達は参考書を広げてペンを走らせる。

比翼は目を走らせ真剣に挑む皆に萎縮するが俺の目が合うとニパッと同類を見つけた希望に満ち溢れた笑顔。一応、俺も元は進学校だぞ・・・自称の進学校ですけど。


「うわぁー!ビビった。テストのおも苦しい空気が流れていたよ」


息苦しそうにしていた比翼は、羽柴さんの腕に抱きついていた。

比翼は人を懐くのが比較的に速いかもしれない。部屋へ足を入るとすぐに離れて俺の腕にギュッとしてきた。


「あっ・・・・・」


愛玩あいがん動物が離れたことに寂しさを浮かべ比翼を目を追いそこに俺へ視界に入るとあからさまに嫌悪感を醸し出す。

や、やめてほしいなぁ傷つくので。


「香音も、あのかわいさと甘えてくる比翼には名残り惜しかったようだね」


「ま、真奈様!?そんなことありません。年下に優しくするのは当然ですから」


「いいなぁ、私はまだ甘えてこないのに」


ニコニコの笑顔の茜はそう呟く。

言われて見れば甘えて来ないのはどうしてか。書店では常に接客をして培った接しやすさがある。


「・・・あの人、裏表を感じるから」


「そうなのか・・・んっ?どうして私の心の疑問が」


「いや、おにいちゃん顔がすぐに出るから」


「そ、そうか」


冬雅と真奈に何度も指摘されて読まれていることだ。とうとう比翼までも読まれるか。

ポーカーフェイスが上手くなる本でも買おうか後ろ向きに検討する。


「お兄ちゃん。はい、カルタ」


冬雅が今日は皆で遊ぶことに決めたカルタが入っている木箱を持って差し出される。


「ああ、ありがとう」


「うん」


正直、クリスマスの件からどう接すればいいか迷っているのに正月の4日間と会っていないも相まって冬雅と話すのが難しく感じている。正月の前ににあった約束が頭をよぎる。


(正月の間に約束したのに冬休みが終わって、約束も自然消滅した)


冬雅は自分に課題とした告白。欠かせた日もあったが、その場合は空いた分だけ回数を増やした。

その気概には呆れているのと同時に感服している。


(影響を受けすぎなのか俺も冬雅には過ぎったお正月と冬休みを終わった約束を果たせなかったけどまだ終わっていない)


「冬雅・・・えーと、頭をでてもいいでしょうか?」


「いいよ。・・・・・あ、頭をなでるんですか!?」


ラブコメ主人公なら躊躇ちゅうちょなく出来るだろうが悲しいかな。現実はセクハラ行為になるので容易に触れない。それ以上に嫌がられると怖いのがある。


「あ、ああ」


「・・・・・う、うん」


かあぁーと赤らめる冬雅は顔を縦に振る。


「そ、それじゃあ行くよ」


「は、はい」


右手を伸ばすと、左腕から密着していた比翼が離れる。今は見る余裕がない。慎重しんちょうに冬雅の艶々つやつやの黒髪の上に触れる。


「ひぅ!?」


肩をビクッと反応した。


「い、嫌だった?」


「・・・・・ううん」


深くうつむいた冬雅は横へ振って耳を傾けないと聞き取れない消えそうな小声。

嫌がっていないなら気持ちよかったならいいけど。不安の一抹が残ったままゆっくりと左右にでていく。


「ひゃ・・・・・くぅ・・・・・にゃ」


にゃ?ってなんぞやと思いながら

で続ける。サラサラで気持ちよくずっとこうしていたい。


「お兄さん!もうその辺でいいんじゃないかな?」


とがめる声音の真奈。


「えっ?あっ!?」


「えへへ・・・・・もにぅ、しぁわせぇ」


けるような比喩ひゆを使うのがあるが、冬雅はもう溶けた笑顔をしていた。本当に溶けてはいないので比喩というよりメタファーだ。


「よ、よし。冬雅そろそろカルタをしようか」


「ふぇ?・・・あっ、はい!もちろん!了解!」


手を離して俺は冬雅に向かって言うと、見上げた冬雅は沸騰レベルの赤面で頷き答える。

箱を開けてカルタの札を半分ほど数枚を受け渡していき並べてていく。必然、札を読み上げる人が必要になり年長者の俺が名乗り上げる。


「わぁ!?ずるいです。真奈おねえちゃん無駄に強いです」


「フッ、でも無駄に強いって引っかかるけど、まぁ気にしない」


テングの真奈。


「真奈さんが強すぎまして一枚も取れませんね」


嗚呼ああ、真奈様はなんとお強い」


「あ、あはは」


三好さんと羽柴さんが真奈を羨望せんぼうの眼差しを向けて微笑む。羽柴さんはそれ以上も窺えるけど。そんな二人の間に座る冬雅は苦笑する。

比翼のために用意したカルタは

真奈がその後も連戦連勝して

完勝を飾るのだった。

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