第57話イマジネーション・フォース

ワタシ、平野真奈は大学早期卒業して20歳の時に、

ベンチャー企業を立ち上げた。


お兄さんの協力と激励に

暫時ざんじの躊躇いを心に

揺れながらも決断ができた。


生誕したばかりの企業を半年で

飛躍的に画期的なアイデアと

信頼を手にし、大企業の一つとなる。

本社も大々的に立派な建築に

作り変えた。

早朝の社長室では支えてくれる人。


「社長、一時間後に会議があります。

立て続けにスケジュールが埋まって

ますゆえ、今のうちにお食事を

取っては」


アンティークチェアの前に

今日のスケジュールを言うのは、

山脇東洋。お兄さんである。

出会ってから3年も経った。


ワタシが、企業を立ち上げて

秘書としてずっと隣で

サポートしてくれた。


ワタシが20歳となるとお兄さんの

年齢は三十路の仲間入りしたばかり

30歳になる。


「お兄さん!二人のときだけは

社長と呼ばないでくださいよ」


「コホン。真奈がそう望むなら

今だけはオフにさせてもらうよ。

・・・でも、真奈が20歳で大学

卒業してすぐに大企業の代表取締役

だから驚いたよ。

こうして、情けなく秘書として

スカウトされて助かっているよ」


「お兄さんどうしたのですか?

まるで、オッサンみたいに

懐古心を言語化なんかして」


「はは、実際にオッサンだからね。

30にもなっても俺は小説を

書き続けているからねぇ」


今では、ワタシのときだけは

一人称を私から俺へと変わった。

大きな進歩だと思う。


そう、お兄さんは不撓不屈で

がむしゃらに

小説大賞を応募を続けている。

最近は、秘書の仕事が忙殺でも

僅かな時間を執筆している。


「ふふ、でも夢に諦めないって

精神はワタシ好きですよ。

・・・お兄さんその、そろそろ

人生のパートナーと言うのか・・・

伴侶はんりょも考えてみるのも」


うぅ〜、こうなると交渉での駆け引き

などで、培った胆力や余裕の表情を

発揮できない。

まだ、焦がれるような熱い想いは

女子高校生のままだ。


「真奈・・・ああ、そろそろ

俺も答えを出さないといけない

だろう。

・・・コホン、えーと、その

真奈よかったら結婚前提で

付き合ってくれないか?」


「ふぇ、その・・・えーと

お兄さんは・・・それでいいの?

本当にワタシの事を好きなの」


不安で潰れそうになる。

告白自体は嬉しいけど、重要なのは

お兄さんも幸せで心の底から

ワタシを好きなのか。

そうではないと・・・悲しい。


「んっ、言わなかったか?

忖度や憐憫れんびんなんかで

付き合えないって。

ですので、俺は真奈を

長い人生を一緒にいてほしい!

月並みだけど、大好きだ。

想いだけは、アルティメットレア!」


「ひゃあ!?えーと、はい。

喜んで・・・ あ、あなた・・・・・

へへへ、えへへへへ♪」


お兄さんは、ハグする。ワタシも

恐る恐る腕を回して応え・・・

そして―――――


「はっ!?・・・・・・また」


お兄さんが、ワタシのために書いた

小説を読んでいたら無意識的に

妄想の世界にダイブしていた

ようだ。


午前4時に目覚めて日課となっている

勉強をしようと机に座るが

新しく日課となったお兄さんの

小説を少し読む。

ちなみに読み直し回数は8回。


「・・・こ、これもお兄さんが

原因なんだから!

そう、いつかお兄さんは責任を

取ってもらわないと」


妄想タイムを終了させ勉強。

朝食が出来るまでは只管ひたすらに参考書、問題集を解いていく。

ママが朝ごはんよ!と声高に言う。

居間に行き椅子に座る。


「いただきます。

あの・・・ママ急なんだけど、

ワタシが好きな人ができたら

どう思う?」


バタン。箸を落としたのはパパ・・・

おののいている。


「真奈が恋人だと・・・

ええい、どこの馬の骨か知らぬが

世界一かわいい娘を狙う者が

いるなら討ち取ってくれる!」


パパは、立ち上がり鬼の形相

ではなく憤怒の表情で物騒なことを

言った。朝なのでやめてほしい。


「ふふ、クロウ。

席に座って食事しないと空腹で

倒れるわよ」


平野九郎ひらのくろう

クロウとママはパパにそう呼ぶ。


「・・・そうだなレイリ」


パパは、ママを呼ぶときはレイリ。

平野麗里ひらのれいりと呼ぶ。

ヒエラルキーで言えばママが天上人で

パパはその下。

幼馴染なのに立場が同じじゃない。


「それじゃあ、ママとついでに

パパ行ってきます」


「行ってらっしゃい、ナーちゃん」


「ついで!?くっ、娘が相手して

くれない」


一人で通学していると、考える

カードの事を。


シングル(単品で売っているカードで

中古しかしキズがすこぶる少ない)

を買うにも、お小遣いが無くなって

買うのが難しい。


(バイトでもしようかな?

・・・でも不安だし)


色んなカードをしていると、

すぐに所持金が減るなぁと考えながら

駅のプラットフォームに

友達の三好茜みよしあかね

片手に本を読んでいた。


「茜ぇぇぇ、おはよー!」


「きゃー!って、どこを

触っているの」


お腹をむにゅむにゅ。

今日もぜい肉は見つからずだった。


「おはよう・・もう、勝手に

触らないでよ!」


「ごめん、ごめん。

で、今日はどんな本を?」


「こころ。夏目漱石の名作の」


「あぁー、こころか。

でも、ワタシでも読んでいるのに

茜が読んでいることに驚きだよ」


夏目漱石の作品の中で一番の人気が

あると個人的に思うわけ。


「もう読んでいるよ。

4回ぐらいは読むかな」


「へぇー、そうなのか。

ねぇ、茜は大人の人に好きになることってある?例えば27歳の後半とか」


「ううん、無いよそんなこと。

急にどうしたの?」


「ううん、何でもないないの!」


話題を広げる前に話題を変えて

盛り上がるのだった。

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