第6話  案内

 船長の話では、現在船の乗組員はパントレ達とコックが一人いるきりだと言う。パントレ達と言っても、パントレの仲間は彼の他には子分が三人いるだけである。元々は他にも乗組員がいたそうだが、今はいないそうだ。

 船の大きさに対して余りにも乗組員が少ないので疑問に感じたが、その辺りの話になると妙にホアンの歯切れが悪くなるので、礼一も洋も深く尋ねないでいた。

「まぁ船のことやらは、この後おいらが直々に話してやるよ。それよりこいつらを紹介してなかったな。背の高い方から順にフラン、ヴァス、コロナってぇ名前だ。おいら達はフダの港を拠点に《酒樽の契り》って名前で冒険者をやってたんだが、今回偶々あの船長の親父さんから頼み込まれて教国くんだり迄行くことになったんだよ」

 廊下を歩きながらパントレが話す。

 人影はまるでなく、パントレの声がやけに大きく響く。

「まぁ先ずは腹ごしらえが先だ。この先に厨房があらぁ。次いでにこの船の食料番も紹介してやるよ」

 パントレはそう言っている間に辿り着いた一番奥の部屋の戸を開ける。

「ッ」

 すんごいビビった。部屋の中では卵みたいな頭と体型をしたずんぐりむっくりな男が、額に玉のような汗を浮かべながら机一杯に盛られた料理をモシャモシャと咀嚼していた。

 料理は出来立てのようで、湯気と良い匂いを部屋いっぱいに撒き散らしている。

「相変わらず良い食いっぷりだなぁ。おいらたちも相伴させてくれよ」

 パントレがそう話かけると、男はこちらを見ながら、食べる手を止めずに首を縦に振る。

「獣人には卵形態もいるのか?」

 急に洋がパントレに話しかける。

「ンなもんいねぇよ。何言ってんだ?こいつがウチの船のコックのピオだ。大体いつもここで飯食ってるか、外で獲物を狩ってる」

 パントレに紹介されたコックのピオは今気付いたとばかりに二人の方を見る。まともに目が合い、取り合えず二人は頭を下げる。

「こっちは礼一に洋、今日からうちの船員だ」

 パントレは二人を紹介するとさっさと座って、近くに置いてあったスプーンを取ってもりもりと料理を食べだす。彼の子分もそれに倣う。

 あのー、何かもうちょっと紹介してくれないですかね。あの人まだこっち見てるし、初対面で丸投げされてもクソ気まずいんですけど。

 どうすれば良いのかわからないので、二人はもう一度ピオに向かって頭を下げた後、近くの椅子に腰かけ料理を口に運ぶ。

 料理は肉団子ともちもちした団子を甘辛いソースで絡めたようなもので軽く何かの香辛料が効いている。兎に角うまいし、病みつきになる味でスプーンが止まらない。

 ピオは二人が夢中で料理を食べている姿を確認すると、大きく鼻から息を吐き、また食事に戻る。

 十数分後、部屋にいる者は全員料理を平らげパンパンになった腹をさすっていた。

「ふー。気に入ってもらったようで安心したよー。礼一、洋、これからよろしくねー」

 ピオがここに来て初めて発言した。そのずんぐりむっくりな姿からは想像できない少年のような高い声をしている。それにしても最初あんなに見てきたのは料理が口に合うのか心配していたからなのか。何と言うかかわいい人だ。

「相変わらずあんたの料理は旨いな、それに大した食いっぷりだ、感心するぜ」

「料理人が飢えたら料理が出て来なくなるからねー。しっかり食べるよー」

「おう、そんじゃあな。ご馳走さん」

 パントレはそう言うと部屋を出る。礼一達もそれに続く。

「そんじゃあこれから色々と教えるぜ。場所はそうだなおいらが使ってる部屋に来いよ。おい、こっちはこっちでやっとくから、お前らは船長のところで手伝いをして来い」

 部屋を出たところでクルリと振り返ってパントレが指示を出す。

「大将の言うことは結構いい加減だから、話半分で聞くに限るよ」

 子分の内で一番背の高いフランが礼一に耳打ちして、それを聞いて笑っている残りの二人とともに船長室の方へと歩いていく。

「うし、行くか」

 パントレに随って彼の部屋へと向かう。部屋は丁度階段のすぐ脇にあり、ドアノブには自分の部屋であることを示すかのように赤い布が巻き付けてある。

 部屋の中はそれほど広さがあるわけではなく、ベッドと小さな机を置くのがやっとで他にものを置く余裕はない。

 パントレはベッドの脇の床にペタンと座ると、二人にも座るよう促す。

「まず魔力についてだな。あんたらの指に嵌めているのは魔道具って言って魔力がないと使えないもんだから、少なくとも魔力は問題なくあるってこった。その上で魔力が分からないってなるとどうしたもんかな、、」

 パントレは上を見上げて思案する。

「その指に嵌めてるものから何か吸われてるような感覚はないか?それが魔力が使われてるってことなんだが。」

 言われるままに指輪を嵌めた指に注意を向けると、何だか指輪が吸い付くような感覚がある。

「二人とも分かったようだな。それが魔力ってもんだ。もっと感覚が掴めれば全身に魔力の伝う道があることが分かるはずだ。まぁそれは追々掴むこった」

 パントレは二人の顔を見ながらそう言って、徐に立ち上がると机の上に置いてある布袋から石盤とペン状のものを取り出す。

「これでようやく船のことが説明できるぜ」

 そう言うとパントレは簡易的な船の見取り図を石盤の上に白い線で描き出していく。

「ここが今俺たちのいる第二甲板だろ。この下は船倉になっていて、商品やら食料やらが詰まってる。船倉にはこの後案内してやんよ。それはそれとしてだ。肝心要の部分はここだ。ここがないと船が動かない」

 パントレは船尾の下部へ何かの球体が嵌っているような絵を描く。

「ここには船を動かす魔道具が設置されてんだ。うーむ、実のところおいらは魔道具については詳しく知らん。よし船長のとこに聴きにいくか」

 パントレは早々に説明を諦めると腰を上げる。礼一と洋の二人はここで全部話してくれるのかと思っていたので、お預けを食らった気分でその後を付いて行く。

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