はらのむしつかい

石越源蔵

プロローグ トラウマ

廃墟と化した旧スラム街。


ここに皇帝国軍の特殊部隊の兵士たちがスラム街の建物の屋根を伝うようにして忍び足で移動していた。


汗の滲んだ手で青龍刀を力一杯握りしめる者。


下を向いて怯える者。


余裕の表情で出撃を待つ者。


ただ前だけを見つめて冷静にその場に待機している者。


兵士たちの面々は様々だったが今度こそと言う気持ちは皆共通していた。

そして彼らは


殺されることの恐怖を身にしみて理解していた。


兵士は皆マフラーで顔を隠し、暗闇の中で睨む兵士たちの眼球の光だけがよく見えるほどだった。

プシュウウウウウウウ

そして、満月が雲から出てきた途端、スラム街近郊から狼煙の煙が上がった。

「ヒイッ」

「しっ声を出すな!」

「も、申し訳ありません!」

怯えながら話すこの女性の兵士は、ラッパを持っている。

ラッパを持っているということは、部隊の一斉突撃の合図をする立場にあるということである。

震える女性の兵士の肩をポンポンと叩きながら隣の兵士が言った。

「大丈夫だ。今度こそはうまくいくさ。」

「で、でも……また私のせいで何人も仲間が死んだら………。」

「そんなこと戦う前に考えるな!」

隣の兵士は女性の兵士をきつく叱りつけた。

カタカタと震える女性の兵士の様子を見て不安になりながらも隣の兵士は言った。

「いいからさっさとやれ!」

女性の兵士はそう言われると自分の手がカタカタと震えるのをじっとこらえて、今度こそはという思いで前を睨んだ。

そして大きく息を吸い、ラッパを勢いよく吹き放った。

「パッパパッパパッパパッパパッパパッパパッパパー」

その音は誰もいない真夜中のスラム街全体に響き渡った。

その音を聞いた兵士たちは今まで我慢していたものを思い切り放つような勢いで叫んだ。

「突撃イイイイ!!!」

その叫び声とともに、沢山の兵士たちが「うおおおお」と声をあげて、建物の屋根を伝ってスラム街の中心部に入っていった。

建物の下にはミツアシムシという三本足のむしたちが兵士たちを獲物にしようと建物に群がってくる。

しかし兵士たちも、その異常な力で二本の青龍刀を振り回してミツアシムシを裂いて行った。

しかしどんな兵士でも、一人で切り裂くことができたミツアシムシはせいぜい三、四体であった。

ミツアシムシの群れは三、四体以上で行動していたため、このような特攻作戦は彼らに対してほとんど効果はなかった。

その結果、兵士たちは次々と食われてゆき、ミツアシムシは数を増やす余りであった。

仲間が次々と食われていく様を、ただ呆然と見ることしかできない女性兵士はラッパを握りしめたまま呟いた。

「私のせいで……皆が………。」

女性兵士は涙をこぼしながら呟いた。

「うっううっ」

女性兵士はその場で座り込み、そして叫んだ。


「うああああああああああああああああああああああああああああああ」


「は!」

叫び声でサラは目を覚ました。

「さっきのって、夢…………だったの……?」

救護所のベッドで横になっていたサラの手には、あのラッパが握られていた。

「もう見たくない………。」

サラはそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る