おばけなんてないさ

 無事、島の長である青年──リーテーに会えた二人は、案内されながら話をしていた。


 深い緑の大きな葉が光を浴びようと伸びてきて、天然のアーチを作っている。おかげで、道には雑草もほとんどない。


「この山にある鍾乳洞では、魔宝石が作られるのです」

「魔宝石?」

「魔力のこもった石のこと。ホープダイヤモンドみたいな」

「はええ⋯⋯」

「自然で作られるってことは、純製の魔宝石ってことね」

「はい。器に魔力を込めたのではなく⋯⋯魔力の結晶と言うのが良いのでしょうか」


 僕もよくわからないんです、とはにかむ。

 魔術師からしても、普段行っている儀式などの原理は不明な点が多すぎるくらいだ。


「⋯⋯この辺りですね」


 木の葉のアーチを抜けると、開けた場所に出た。


「原っぱだ」


 先程とは変わって、明るい色をした背の低い草が絨毯のように広がっている。


「この辺りなんです、目撃されるのは」

「幽霊がですか?」

「⋯⋯はい、そうですね」


 何かを言いとどまった様子を、ベレーは見逃さなかった。


「リーテーさん。あなた、なにか思うところがあるんじゃない?」


 リーテーは驚いたような顔をする。


「教えてもらえないかな、解決のためにも」

「⋯⋯実は」


 どうやらリーテーは、幽霊を信じていないらしい。

 正確には、女王ミゼの亡霊など真っ赤な嘘だと思っている。

 ならば何故、依頼を出したのか。

 他でもない、最初の目撃者こそリーテーなのだ。

 夜、木々の隙間から一人の少女が見えたのだという。淡く光を放っており、幻覚かと思ってその場をあとにしたのだが、後日、目撃者が相次いだ。そのうちに、ミゼの幽霊だという噂が広まったのだという。


「ミゼ様のお写真を拝見したことがあります。透き通るような純白の髪をお持ちでした。しかし⋯⋯僕の目には、白を桃色の花で染めたような髪が写ったのです。目撃情報も同様に⋯⋯」

「確かに、それくらいの変化なら気にしないってのもわかるわね」

「1番大きなところは僕の直感なんですけどね」

「直感も、馬鹿にできませんよ」


 話しながら辺りを探していたが、特におかしいところは見られない。


「ん?」


 ふと顔を上げた時、木陰で何かが動いた気がした。


「どうしましたか?」

「あそこ、今なにか⋯⋯」


 近寄ってみる。すると、木の近くの草むらに。


「⋯⋯女の子」


 身を小さくして隠れようとしている少女がいた。

 少しすると、少女は諦めたように、立ち上がって出てくる。


 髪の色は茶色。幽霊騒ぎの犯人ではなさそうだ。


「ビス!」


 リーテーが、びっくりしたような声を上げて駆け寄ってきた。


「一人で来たのかい?」


 リーテーの知り合いらしい。島の人だろう。


「私、ここへはお散歩でよく来るのよ」


 10歳くらいだろうか、随分としっかりしていそうな雰囲気だった。


「知らない人がいるからびっくりしたけど、リーテーさんのお知り合いなの?」

「そうだね、ビアンカから来てくれたElementsの人たちだよ。お仕事中なんだ」

「Elements⋯⋯」


 耳慣れない言葉に首を傾ける。


「便利屋さんみたいなものですよ、できることは何だってやってみせます!良識の範囲内で!」

「へえ、すごい!」


 キャシィは純粋な眼差しを向けられて、とても嬉しそうにしている。


「私、ビス!動物が大好きで、森にはよく来るの!」

「私はベレー。お絵描きが好きなの」

「キャシィです。⋯⋯えっと、頑張ってます」


 今度はずーんと重たそうな空気を持っている。浮き沈みが激しいことだ。


「いいかい、夜になる前には戻るんだよ?最近はこわーい幽霊が出るって言うし」


 教育的には利用される幽霊。


「おばけなんていないわ!死んだら死んだ人たちの世界に行くんだもん!」


 とは言いつつ青ざめた顔をしているところを見ると、ホラーなどは苦手だろうと予想がつく。


「お姉さんたち、まだここでお仕事するの?」

「うーん、夜になるのを待ちたいところだね」


 夜にしか目撃されないのなら、夜に探すのが合理的だ。

 正体をつきとめて、不穏な空気を入れ替えてやらなければいけない。


「私のおうち、お料理屋さんなの!お昼ご飯食べてかない?」

「いいんですか?」

「サービスしてもらえるように頼むから!ね?」

「⋯⋯そうだなぁ、せっかくだし」


 どうせ時間はまだあるのだ。少しくらい島の人と交流をしてもいいだろう。

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