堕とし児の島タツノメ
『ご乗車ありがどうございました。電車はまもなくタツノメに到着します』
アナウンスが流れたので、降りる準備をする。
「本当に幽霊なんているのかな」
ふとベレーは呟いた。
「私たちみたいなのがいるんですから、いたっておかしくないと思いますよ」
「でもさ」
疑問なのは、そのような超常現象が起こるのかどうかということではない。
「幽霊ってことは、魂じゃない。器を失った魂の行く先は黄泉のはずなんだよ」
「そ、そうなんですか」
「うん。もし魂がこの世で迷っちゃっても、案内人がどうにかしてくれるっていうじゃないか、Elementsきっての知識人が言うには」
「そんなこと教えてもらったんですか」
「行く前にね」
1週間。それが期限だという。過ぎてしまえば、魂は虚ろな世界へ溶け込んでしまうらしい。
人々を化かすような存在は、死霊、または魔物や妖怪、妖精の類いなんだとか。
「魔物だろうと何だろうと、人々が不安になっているならその種は取り除かないとだけど」
「そうですね!」
コンクリートタイルのホームに降りる。
入れ違いで、たくさんの人が電車に乗りこんだ。
電光掲示板はなく、大体1時間おきの時刻表が壁に貼られている。今は間隔が短い時間帯のようだ。
「やっぱり、この時間は本土に向かう人が多いのね」
「この路線の意義が遺憾なく示されています」
階段を上がると、改札に自動改札機が五つ並んでいる。
多い方なのだろうが、とある時間に混雑が集中することを考えると足りないくらいなのかもしれない。
貼り紙を見てみると、どうやら通勤帰宅時間以外は二機しか動かしていないらしい。なるほど。
さらに階段を上ると、ようやく地上に出る。木造の出口は、周りの家と同じような素材で作られていた。
ベレーは長く旅をしてきたが、タツノメに来たのは初めてである。なので、少し楽しみなところがあった。
やはり離れていても北部。流されても貴族。景観には気を使っているのかもしれない。家を作っているダークブラウンが綺麗だ。
よく見てみると、床は地面から離れている。
似たような作りのものを、茨の村ローゼンで見た事があるが、あれは湿地帯だからだ。
ここがそのような場所には見えないので、何か別の理由があるのだろう。
帰り際にでも聞いてみよう。
「さて、依頼主の長さんはどこかな」
「大きな建物を目指せとのことですから⋯⋯」
「あ、あれじゃない?山の方の」
「あ、それっぽいですね」
島の中心には、何十年もの間活動していないという火山がある。本当は火山じゃないのではないかと言われる程音沙汰無しらしい。
温泉もたくさん湧き出しており、近海では湯の花が見られるという。
そして、件の幽霊は山の中腹に入るあたりで目撃されているという。
幽霊がいるかいないかはさておき、この事件の全容を明らかにして見せよう。
意気揚々と、歩き出した。
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