臨海集落アンダンサ

「やっと着いたね」

「日が暮れそうなんだけど」


 五人がアンダンサに着く頃には、空は薄い橙色と淡い水色が混ざっていた。

 そしてそこから更に、少し歩いて宿に着くと、ぼんやりとした境界線はもうすっかり低くなっていた。


「なるほどなるほど。なんでお昼に送り出されたのかと思えば、周辺調査をしたくなるような時間になっています」

「そうなんだ⋯⋯」

「やっぱり伝承とか聞きたいよね?意外とヒントになるかもよ?」


 スィエルはやっぱり欲望に忠実で、オウカが呆れたように息を吐くと、チエに目配せする。


(任せた)


 言葉が要らないほど慣れたやり取り。


「私はちょっと気になることがあるから単独行動を求めるしー」

「わかった、シータスなら大丈夫だろう」

「じゃあ私はチエさんとですか?」

「ああ、そうしよう」


 そうして三組に分かれ、集合時間を決めて解散した。



 チエは、とりあえずホウコに任せることにし、ふらふらと歩き回っていた。


「ホウコ、なにか宛があるようには思えないが⋯⋯」

「これは気になる」

「は?」

「誰か住人の方にお話をうかがいたいですね」

「⋯⋯何かわかったのか?」

「はい。その、経験則みたいなアレです」


 目を伏せて、明らかに何か事情がありそうに振る舞うホウコ。


「まあ、勘なんですけど⋯⋯」


 全く誤魔化せてない。しかしまあ、触れないでおこう。

 こちらも経験則から、実はそこまで重い事情はないと見た。


「どこかの本来の能力より能力じみた直感使いさんのように確実性はないのですが」




「はっくしょん」

「テンプレートのくしゃみマグね」

「誰かに噂されてる。直感」


 件の直感使いフララは、ギルドにてマグナの手伝いをしていた。

 近くで資料やらを一緒に眺めて、元素探求計画を練るというものだ。


「それにしても海底洞窟ねえ。こりゃあもしかすると⋯⋯とんでもない子が潜んでるかもね」

「君のは嘘だと思えないから怖いマグ」

「あれだよ、知識に基づいた勘さ」

「信憑性増したマグ」

「増しすぎて?」

「寧ろ疑わしいマグ?」

「実際、正反対のことを言ったこともある」

「ええー⋯⋯マグ」


 直感さんは気まぐれなのである。




「すいませーん!そこの方!」


 ホウコは近くにいた住人のもとに駆け寄る。


「お、君らが調査に来ている人かい?こりゃあまあ可愛らしいお嬢さん方だ」


 気さくな住人は、ホウコたちの詳しい素性を知らないようだった。


「ふふ、それはどうも。ところでお聞きしたいことがあるのですが⋯⋯」

「おうよ、答えられる範囲でならいくらでも質問してくれ」

「はい。ええと、最近地震はありましたか?」


 住人は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに答えてくれた。


「あったっちゃあったな、何回か。だけどどれも小さいやつだぞ?でも、震源がこっちに向かってきてるらしいから不安だなあ」

「そうですか。ありがとうございました」

「これくらいなんてことないさ。それじゃあ、頑張ってくれよなー」


 がははと笑いながら、住人は歩き去っていった。


 何故、地震があったと思ったのか。そのような情報はいっさいなかった。ホウコだけ知らされていたということはないだろう。

 まさか、地震の痕跡がわかるのだろうか?


「チエさん、用事終わりました!戻りますか?」

「はいは⋯⋯それだけ!?まだ7時には早いぞ!?何か探そう?なにをって訳じゃないけどお散歩でもいいしさ?」

「お散歩⋯⋯!お散歩しましょう!」

「そうしましょう?もう少し調査しよう?」


 自由奔放なホウコに引っ張られていくチエ。

 今日も気苦労が絶えませんでしたとさ。



 一方、スィエルとその保護者オウカは、宿の主人のもとを訪ねていた。


「はえ、ここに伝わる昔話?」


 主人はのっそりと顔をこちらに向ける。何だか亀を連想させる気がする。


「はい、是非とも教えていただきたいですまふ!!」

「ほら、人と話すときは深呼吸。ひっひっふー」

「多分それ違うひっひっふー」


「んあ、あるにはあるんじゃが、ちっとばかし長くなるでのぉ⋯⋯本当にちーっと長いだけじゃが」

「構いません!」

「ふむ、それじゃあそこの椅子にお座りなさい、立ちながらじゃあ足が棒になってしまう⋯⋯というのは言いすぎじゃな。茶でも淹れてやろう」

「わーい!ありがとうございます!」


 立派な白い髭を撫でながら、主人はほっほっほ、と孫を見るように笑った。

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