神樹信仰

「さあ選びなさい」


 提示した選択肢は二つ。Elementsに来るか、ここに留まるか。


「良いのか?確かお前達は元素たちを探しては引っ捕らえているようではないか」

「だいぶ曲がって伝わっているのね⋯⋯」


 Elementsの目的とは、全元素の所在を明らかにするということがまず一つである。

 そこから、周りに危害を及ぼすような者がいれば監視をするということになっている。


 とはいえ、割と強引に連れ帰ってくる者が居ないわけでもない。というかエインにも前科がある。


 カリハは友好的で、何の事件も起こしていない。だから、ここに留まりたい理由があるのならば、許可も降りよう。


「ふーむ」


 それを説明すると、カリハは腕を組んで考え出す。


「ならば⋯⋯私は遥か昔からこの地に住み着き、生活して来た。ここから出たこともない。そのわけも、この森を守っているからだ。神樹のお世話をしているのも私だ。簡単に離れられる場所でもない」

「そう、それじゃあ」

「だから時間をくれ。私はレアに伝えなければならないことがある。教えなければならないことがある。神樹を守るための術を、レスティを守るための術を。それさえ教えられれば、私も安心してこの場を離れられる」


 レア。レスティの長にして、神樹の巫女。

 廃れつつある神樹信仰を復活させるため、巫女の代わりに様々な儀式を行ってきたカリハが、それを伝え直す。

 そのための時間だけが欲しいという。


「ふーんなるほど。多分オッケーは出ると思うわ。そういう風に伝えておく」

「私達は戻りますので、またいつかということになりますね」

「ああ、すまないな。動物達を助けてくれてありがとう」

「いいのいいの、お仕事ですから!」

「お仕事ですので!」


 二人は、カリハに手を振って歩き出した。




 レスティの人々に見送られて、汽車はビアンカに向け走り出した。


「お邪魔になるから観光はまた今度ねー」


 窓の外を見ながら、エインは名残惜しそうに呟いた。


「ええ、そうですね」


 エインは窓側の席に座っていたので、ベルにその表情は伺えなかった。

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