逆らえない本能

「スイジー、えっと、海王と遭遇した時の対応方法って知ってる?」


 空だけでなく、ネプの方からも矛が飛んでくる。


『へ?』


(そりゃあいきなりそんなこと言われてもな)


『海王って、ネプチューン?』

「そうよ」


(冷静だな!?)


 このときチエは、自分も初めに会った時それなりに冷静だったことに気づいていない。


『世界たちは認識により混ざり合う。ネプチューンがこの世界にいるのなら、か、彼女だと思う⋯⋯。それは惑星の名を貰った者⋯⋯、あるいは同じ名を冠するもの』

「惑星の名を貰った?」

『⋯⋯一人、いる。海王の惑星の名を貰った、元素。』


「⋯⋯ネプツニウム!!」

「ネプツニウム!?」

「ネプツニウム」

「ネプツニウム?」

「ウム」

「人の名前で遊ばないでよー!」


 矛が二割増で飛んでくる。


「危ない危ない危ないってええええ」

「これも凍らないか」


 くるりと回ったり下がったりと、器用に避ける。

 こちらを正確に狙ったものでもなかったので、かわすのはまだ可能であった。


「もうー。でも、ご名答ー」

「んー、でもスイジー、どうしてすぐに分かったの?」

「ほう。そちらのお助け電話の相手は優秀だねえ。この元素たちが暮らす世界で海王といえば、私だけ。すぐに辿り着くとは博識だなー」

「へえ」

「じゃあ」

「「捕獲っ!!」」

「え?」


 急に目を光らせて襲いかかってくる二人に驚いて呆然とするネプ。


 しかし、海王様とだけあって、易々と捕まってはくれない。


『あ、えっと⋯⋯その、彼女の弱点を教えましょうか?』

「弱点があるの?」

「すごーい、知ってるんだね」

「えええええなんで知ってるの相手誰だしいいいい!」


 二人は目を見合わせる。そして、ニヤリと笑う。


「⋯⋯なるほど。あなたって強欲なのね。どれだけ領有地争えば気が済むのかしら。しかも、贈り物対決で負けた時には洪水を起こしたって」

「な、なぜそれを!」

「えー何なに⋯⋯ふんふん。己に相応しい地を知らないだなんて、彼のゼウスに比肩する実力者とは思えないな」

「ななな何おう!」


 またもや乱雑な槍が飛んでくる。


「興奮して狙いが定まらないのかしら?さすが、気性は荒く⋯⋯わかりやすく言いましょうか、短気な神様だこと。力任せに撃ってもかすりもしないわ!」

「生意気言うなー神様だぞー!」

「信仰に値する神様を見分ける能力は持っているつもりだが?」

「ぐぬぬー!」


 海の上は水塊やら氷塊やら煽りやらが飛び交い荒れ狂う戦場となった。




「二人とも、大丈夫かしら」


 洞窟の入口で、三人はスィエルとチエを待っていた。

 より正確に言えば、魔術に精通した者がいないため、先に調査を進めておくといったことができないのだ。恐らくそういう類であろう仕掛けが施してあった。


「心配しなくても、平気だと思うしー」

「そうですね、なんたってあの二人ですからね。今は信じましょう、彼女たちなら絶対大丈夫!笑顔で帰ってきますから!」

「なんでそう意味深風な発言をしたがるかな」

「こ、この冷静なツッコミは!!」

「やめて。なんかやめろ」


 歩いてきたのは、チエ、スィエル。

 それと、首根っこを掴まれているさっき会った女の子。

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