Elements

まそほ

日常編

Elements

 ここは、エルスメノス王国。数多ある世界の中の、さらにその中の国のひとつ。

 かつては多くの植民地を持つ強国であったが、今はすっかり大人しくなり、技術開発に力を入れた結果、科学の最先端とされている。

 そして、その科学を影で引っ張っていたのが、王立の研究所、森羅万象研究所…またの名を、エレメント・ラボリティ。

 影の存在だけあって、名前を口にすることもはばかられる。

 彼らは、技術の発達のためならば、手段を厭わなかったのだ。

 そう、例え、少女の身体を毟り取ってでも⋯⋯。













 が。





 そのようなことはどうでもいいのだあ!!!



 さて、エルスメノスの北西に、ビアンカという港町がある。

 商業の中心地で、毎日多くの貿易船も訪れる。市場も常に賑わっており、また、町に張り巡らされた水路では、水遊びをする人も見られる。

 元々ここには川が流れていたのだが、町を作る際に整備された。


「おはようスィエルちゃん。お仕事かしら?」

「おはようございまーす、お仕事です!」

「ご苦労さまねえ、頑張ってらっしゃい!」


 賑わう市場を駆け抜ける少女。

 水色の髪、水色の瞳、水色のワンピース。

 彼女は水素。わかりやすく言えば、化身のようなものである。

 彼女達の存在は世界中で認識されている。

 特にビアンカでは、知らない人はいない。

 何故か。


 ビアンカの近くに、名前のない小さな山がある。そしてその山の頂上には、ある施設がある。


 ギルド、Elements。


 今では殆どが潰されてしまったギルドだが、Elementsは事情が事情なので、今も残っている。

 というのも、Elementsには、彼女のような元素が集まっている。元素たちの安全が、ビアンカによって公式に確保されているのだ。

 とはいっても、元素にまだ人権は無い。


 ビアンカの人々は元素を快く受け入れたが、すべての村や町がそう考えるとも限らない。元素たちはその事について大して興味は示していないようだが…。


 そして、元素たちは無意味に集まっている訳では無い。

 元素でないと解決出来ないような問題も世界にはある。そういった大きな事件から小さな人助けまで、様々な依頼を集めているのだ。


 そして、スィエルも現在、その依頼を遂行中である。


 市場を抜けると、前方には、森や山に遮られた村や町を行き来するエルスメノス鉄道の駅が見える。周りと同じようにカラフルな粘土で作られた建物へと走っていく。

 その方向には、二人の少女が立っている。


「ちゃんと間に合ったわね。五分後の列車に乗るわ」


 茶髪に青眼、赤ふち丸眼鏡のオウカ。酸素。


「隣町までだから、すぐ着くしー」


 銀髪に黒目、オフィショルとジーパンというラフな格好のシータス。炭素。


 今日は、古くからの知り合いであるこの三人でお仕事だ。

 向かう先は、海沿いを南に行った方にある、煉瓦の町フィスプ。


 人権はなくとも、ちゃんとお金を払って乗車する。

 元素たちはその事について余り興味は示していないようだが。

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