第4話 先立つものは金(後編)

 六人の幹部は少し遅れて部屋に入ってきた。六人の幹部の態度はすっかり畏まっていた。


(俺の実力の片鱗が理解できたようだな。賢くて助かる)

「これで、わかっただろう。俺は使えるんだよ。レギオン・アンデッド。さっそく、今夜にでも行動を起こそう」


 年長の幹部が強張った顔で異議を唱える。

「待ってください。今夜は早すぎる。根回しなり、信徒への事前告知などを鑑みて一カ月は見てほしい」


「一カ月って、そのころには俺はいないぞ。教祖が復帰している」

 若い幹部が提案する。


「なら、貴方様が新たな教祖に就任してはどうでしょう」

(何だ? 教祖は人気ないな。それとも、ここは実力主義なのか、どっちでもいい。俺には関係ない。俺はスタンプを早く百個を貯めなくてはいけない)


「俺はあくまでも代行だ。本気で教祖をやる気はない。それに、ここが終わったら、また別の仕事があるんだよ。次がつかえているんだよ。俺を待っている悪人がいるんだよ」


 知的な幹部が意見する。

「わかりました。なら、教祖が帰って来る前の晩に作戦を決行しましょう」


 フィビリオはいい気がしなかった。

(ぎりぎりのスケジュールって感心しないな。トラブルがあったら終わりだぞ。わかっているのかな?)


 幹部たちの顔を確認するが、異論はなさそうだった。

 ここでフィビリオは作戦の目標を変更に懸かった。


「決行はいいが、提案がある。アンデッドは作るが、街は襲わない」

 悪の組織が活躍する結末はいいが、経験値が絡まない血は流したくない。


 悪の手先にやるのだから、手は貸す。だが、流儀はある。

 幹部たちが顔に〝?〟マークが浮かぶような表情で固まる。


 フィビリオは胸を張って、持論を語る。

「アンデッドを街の前面に配備して、身代金を取れ。この教団に必要なのは、金だ。金があれば、もっと大きな悪事ができる」


 年配の幹部が考え込む。

「金があれば、もっと大きな仕事ができます。ですが、アンデッドによって街を襲う計画は、ずっと前から立てていた一大事業。ここで、目当てを街の人間の命から金に変更する決断には抵抗があります」


「ほら、来た。その考えがまずい。掛けた手間の惜しさに目標を誤るのは愚行だ。この教団の目的は何だ? 街一つを滅ぼせば、それでいいのか? 違うだろう。もっと大きな目的があるだろう」


 フィビリオは教団の目的を知らないが、大きな態度で説得に出た。

 若い幹部は、きりっとした顔で同輩に意見する。


「邪神カルティーアの復活ですな。カルティーアの復活には死が不可欠。だが、この街にアンデッドを放つだけでは不足。なら、金を取ってプールして、次なる計画に繋げるのもありかと」


(何だ? 邪神カルティーアが目当てだったのか。邪神カルティーアも、九十に上げるためにお世話になったな。良い経験値だった。もし復活したら、倒して封印してやればよいか)


 内心を隠して教団を煽った。

「そう、それだよ。それ。カルティーア復活の目的を達成するためには、教団をもっと大きくしなければならない。そのための金だよ。お前たちだって、さっき金があればー、と愚痴っていただろう」


 年齢が少し上の幹部が、意見を表明する

「金があれば、滞っているいくつかの計画が進められる。ここは金を取ったほうが、最終目的まで近道かもしれないな」


 身分の低い幹部も、神妙な顔で頷く。

「私も同意見です。それに、会計担当としては、そろそろ纏まった収入がないと辛いです」


 六人が顔を見合わせて、身代金目当ての犯行に計画の目的が変わった。

フ ィビリオは仮面の裏で微笑む。


(うまく行った。計画の性質上、同じ計画を二度は実行できない。六日後の計画が潰れれば、街からアンデッドの脅威を取り除ける。生贄の乙女も救われる。あとは、金が取れるかどうかだが、ここは教団に責任をとってやってもらおう。もし、金が取れなくても、明日にはおさらばだ)


 計画の実行は急遽、決まった。

 フィビリオは役員室で椅子に座って、瞑想と偽って微睡(まどろ)む。


 三日後、役員室に六人の幹部が集まる。幹部たちの顔は暗い。

「どうした? 何かあった」


 年配の幹部が重い口を開く。

「計画に若手が反対している」


「若手の反対って、教団って縦社会だろう? 幹部会の意見を通せばいいだろう」

 若い幹部が渋面で語る。


「うちは違うんですよ。人材育成するために、若手にもある程度の発言権を与えているんです」


(悪の組織って、逆らったら殺されるようなイメージがあるんだけど、違うんだな)

「問題は何? アンデッドを作りたくない倫理感? 街に湧いた愛着?」


 知的な幹部が答える。

「どちらも違います。そんなゴミみたいなものは、我が信徒は持ち合わせておりません。問題は金が入るなら、ボーナスをよこせと騒いでいます」


(おっと来たね。利益配分の話か。金が絡むと人が変わる人間って、いるからな。宗教団体で労働争議があるとは、参ったね)


「わかった。成功したら、ボーナスをあげよう」

 身分の低い幹部が険しい顔で質問する。


「あげるって、どれくらいですか?」

「身代金が入ったら、教団が組織として半分もらう。四分の一は幹部で取って、残りを協力者で分配ってところで、どうだ? もちろん、計画が失敗したら皆が零だ」


 年配の幹部が小首を傾げて、困った顔をする。

「それくらいならいいですが、もっとよこせと騒がないかな?」


「その時は、計画を実行しない。損までしてやる事業でもない」

 知的な幹部が澄ました顔で同意した。


「わかりました。その線で若手代表と話してみます」

「いっとくけど、時間はあまりないぞ。決行の日は変わらないからな」


 幹部会は解散となった。この計画はうまく行かないなと薄々と感じた。

うまく行かなくても、問題はなかった。要は、教団が失敗して教団が潰れなければいい。


 金をとれるかどうかは教団の実力で、実力がなければやっていけないのが悪である。また、街の人間にしても、あと少しのところまで迫っている危機を金で解決できるのなら問題ないと思った。

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