学生寮の管理人なんて無理ですから⁉︎
伊達 虎浩
第1話 学生寮の管理人なんて無理ですから⁉︎
空が赤く染まる。
そんな時刻。
下校していく生徒や部活に励む生徒の声がやけに遠く感じてしまうのは、緊張しているからだと思われる。
(…無理もない)
唇をギュッと噛み締め、両方の手をグッと握り締めたのだが、全く痛みを感じなかった。
やはり、緊張しているのだろう。
(…いや、緊張ぐらいするさ)
何故なら今から俺は…。
ゴクリと喉を鳴らし、窓の外を見つめている彼女の背中へと声をかける。
「実は…お、俺、ずっと、ずっと前から…お前の事が…」
告白をした事もなければ、された事もない。
しかし、どう伝えるのかということぐらいは流石に分かる。
一丁前にとか、生意気なとか、そんな話しではない。
むしろ、高校一年生で知らないという方が、おかしいだろう。
ドラマや漫画、アニメやラノベなどでたくさん学ぶのはきっと、この時の為なのだと思われる。
いけ!
伝えるんだ。
ここまで言えば、向こうも気付いているハズ…な…の…だから……ん?
向こう?
ちょ、ちょっと待て!?俺は一体、誰に告白をしているんだ?
好きでした。と、言いかけた言葉をグッと飲み込む。
緊張からか、彼女の学生服のスカートをずっと見ていた俺は、スッと視線をあげた。
見あげた視線の先で、外を眺めていた女生徒が振り向こうとする。
自分が声をかけたのだから、声をかけられた人物がくるりとコチラを振り向こうとするのは、至極 当たり前の話しだ。
夕陽が眩しく、顔はよく見えない。
しかし声を聞けば、誰かは直ぐに判明する事だろう。
高鳴る鼓動。
同じクラスなのか別のクラスなのか。
それとも…。
あん?
……う、うるせーな。
何の音だよ?
「………………ふにゃ」
Pi Pi Pi Pi Pi と、目覚まし時計が耳元で鳴り響く中、うっすらと目を開ける。
「…ふぇ?……夢?」
目を開けた視線の先には丸い蛍光灯があって、木の板が何枚も重ねて出来ている天井が見えた。
「嘘……だろ?」
あと数分。いや、数秒でだ。
誰に告白しようとしていたのかが、分かったハズだというのにだ。
自らセットした目覚まし時計に、目を覚まさせられてしまった。
「……く、くそ」
寝転びながら、Pi Pi Pi Pi Pi と鳴り続ける目覚まし時計に手を伸ばす。
勿論、起こしてくれてありがとうございます!という感謝の気持ちを決して忘れてはならない。
ガシャッ‼︎と、いつもより感謝の気持ちを多く込めながら俺は、目覚まし時計のスイッチを切った。
そんな有り難い目覚まし時計、通称''目覚まし君"を手に取り時間を確認すると、時刻は5時30分であった。
「……ふわぁ〜あ」
自らアラームをセットしたのだから、時間を見て焦るような事ではないだろう。
ゆっくりと上半身だけを起こし、グッと背伸びをする。
「…ま、あり得ない話しだしな」
ポキポキっと関節を鳴らしながら、先ほどの夢について考える。
好きな人がいないのだから、告白する事などまずないと言っていいし、仮にいたとしても、告白できるかどうかなど、今の俺には分からない事である。
「……顔でも洗うか」
分からない事についてアレコレ考えるのは、愚の骨頂というヤツだ。
何故なら人という存在は、限られた
「……って、今の考えは無し無し」
まるで中二病であるかのような考えをしてしまった事を軽く後悔しながら、ムクッとベッドから起きあがる。
四月の朝はまだ冷え込んでいる為、長袖、長ズボンであるパジャマ姿のまま、とりあえず顔を洗うか。と、洗面所へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーー
ガチャッと自室の扉を開き、ペタペタペタと廊下を歩く。
扉を開けてすぐ左には、2階へと続く階段があり、階段を見上げると、男子立ち入り禁止♡と、書かれた張り紙が見える。
「…………」
そんな階段をスルーしてすぐ左に目的の洗面所があるので、引き戸タイプの扉の前で立ち止まり、ガラガラっと、扉を開いた。
ふわぁ〜あ。と、あくびをしながら洗面台の前へと移動する。
蛇口をひねり、バシャバシャ。と、顔を洗って脳を覚醒させる。
「……冷てぇ」
顔を洗うといっても洗顔とかではなく、軽く水洗いするだけである。
脳を覚醒させた俺は、目ヤニがついていないか?と、
「う、うわ!?び、びっくりしたぁ」
「おはようございます」
「あぁ。おはよう(^ ^)って、いや、まず謝れよ(・_・)」
目ヤニがついていないかを確認する為に鏡を見てみると、左下に人が写っていたのだ。
ビックリしても仕方がないだろ?
そんな俺に対し彼女は、両手をきちんとスカートの前で揃え、ペコりと軽く会釈をしてきたのであった。
勿論、俺は軽く注意する。
しかし、注意をされた人物は、自分が注意されている理由が理解出来なかったのか、あるいは、納得出来なかったのか、キョトン。と、した表情を浮かべながら首を傾げた。
「はい。では、謝まらなければならない理由を10文字以内で教えて下さい」
「………オレがビックリしたから」
若干、イラッとした俺だったが、ここは我慢、我慢。と、自重した。
少しの間が出来てしまったのは、その所為である。
ま、教えろなどと言われたら、流石にオコだっただろうけどな。
教えて下さいと言うのであれば、いやはや仕方がない。
そんな気持ちを俺は抱いたのだが…。
「ふー。それでは11文字になりますけど、ご理解なされていますか?」
どうやら無意味だったようだ。
「…"ッ"はノーカウントだろ」
「いえ。カウントに入ります。と、レイは教えて差し上げます」
「…そいつは、どうもありがとう」
早起きは三文の徳?
は?
何それ?
美味しいの?
「美味しくはないかと思いますが…もしやそれは、お笑い芸人さんが良く使う言葉の一つですか?」
「…違う。後、人の心を勝手によむな」
大体、イジられて美味しいと言うのであれば、俺をイジってるという事になるが、その辺の事は理解出来ているのだろうか?
「許可があれば良いのですか?」
「許可を出すヤツがいればな」
ったく。
朝から嫌な気分にさせられるぜ。
俺を嫌な気分にさせた彼女。
名は、レイという。
お掃除型ヒューマンロボット009。
勿論、加速装置など付いてはいない。
何故、レイという名前なのかを説明すると、妹が名付けた為、俺には分からない。
ま、機会があれば、妹にでも聞いてみてくれ。
「ところで、
「……え?ちなみに、時間は?」
「はい。現在5時45分39秒です」
「おいおい。顔を洗うのに、15分も費やしてんのか!?」
「正確には、15分と43秒です」
「……こ……この後の予定は?」
こまけぇよ。
本当はそう言おうとしたのだが、時間が惜しいと自重する。
何故ですか?などと、レイから質問されても困るからであった。
「はい。7時から朝練がある
「…ち。何が男子禁制だよ!レイ!」
「はい」
「俺の代わりに起こしてきてくれ」
「残念ながらそれは出来ません。レイはこれから、朝食の準備がございますので」
「…それを、俺がやるからさ」
「つまり、胃袋を掴みたい相手がいる。そういう事でしょうか?」
「ちげぇよ!後、こえぇよ」
ズイっと身を乗り出し、顔を近づけてくるレイに対し秋斗は注意する。
「秋斗さま。女性に向かってソレはどうかと、レイは思いますが?」
「……女性ならな。あ、いぇ、何でもないっす」
ギラりと光る目を見た秋斗は、直ぐに訂正する羽目になる。
「秋斗さま。くれぐれも、変な気はおかさないよう、宜しくお願いしますね」
「……わぁってるよ」
変な気って何ですか?
そんなセクハラじみた事など言えるはずがない。
「秋斗さまはこの寮の管理人。レイはそのサポート役として、頑張っていきたいんです」
「はい、はい。分かってるって」
再度、念をおしてくるレイに手だけを振って、秋斗は洗面所を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます