流星のルヴォリュード -闇と光のベルセルク-
オリーブドラブ
流星のルヴォリュード -闇と光のベルセルク-
暗澹とした空の下に苦悶する巨人が、唸り声を上げると――怯えるかのように大気が震え、荒れ果てた地平線に亀裂が走る。大地の裂け目からは溶岩が噴き出し、その灼熱の奔流がこの世界を紅く照らしていた。
それは、本能への叛逆が呼ぶ「力」の暴走。持つべきではない「光」を、持つに値せぬ「闇」が求めた結果であった。
『愚かな。本当に、そんな小さな命のために――貴様は、命を賭けると言うのか』
巨人の眼前に立つ
さらに大地の亀裂が広がり、そこから灼熱が漏れ出してくる。その熱気に取り囲まれながらも――
「キュイ……キュキュ、キュイ」
醜いようで、どことなく愛嬌のあるその小人は、巨人の掌に収まってしまうほどに小さい。そんなか弱い存在では、この溶岩に囲まれた戦地で長く生きることは出来ないだろう。
ここから脱するには、「裏切り者」である巨人が同胞を斃し、滅亡に瀕しているこの惑星から飛び立つしかない。が、その巨人は己の身に巣食う「光」に侵され、もがき苦しんでいた。
『……それが我ら、ベルセルク
その無様な姿に、哀れみすら覚えたのか。漆黒の巨躯を持つ同胞は、かつての仲間を蒼い眼で冷たく見下ろしていた。
あらゆる星の民を喰らい、糧とする戦闘種族・ベルセルク星人。その末席に名を連ねる戦士の1人として、彼は「裏切り者」に対する裁きを委ねられていた。
本来ならば、ベルセルク星人にあるはずがない「優しさ」を持ってしまった「
だが、それは「闇」の一族であるベルセルク星人の一員でありながら、「光」を求めるに等しい愚行に他ならない。現に彼は今、その身に不相応な「力」を目覚めさせてしまい、全身に発生した拒絶反応に苦しめられている。
ベルセルク星人としての本来の姿である、漆黒の躰と。光の巨人と称するに相応しい、金色の躰。
相反する二つの色が、まだら模様となって彼の身を蝕んでいた。ベルセルク星人として生まれていながら、優しさなど持たなければ、知るはずのなかった苦しみである。
「キュイ、キュイッ!」
『グッ……ヌゥ、ンッ……!』
「……!」
だが、「光」を捨てれば楽になれると知りながら。彼の巨人は、小人を優しく地面に降ろすと――その選択を拒むかのように、まだら模様の身を引きずり立ち上がる。
その姿に、同胞の巨人は蒼い眼を見張ると――悲しみを帯びた色を滲ませ、再び両の拳を構えた。
『……あくまで、「光」を望もうというのか。ベルセルク星人の宿命に抗ってまで、己の心に従うと。それが、お前の答えなのか!』
『……ヘェアァッ!』
怒りとも、悲しみともつかぬ叫びを耳にして。それでも巨人は、戦う道を選び――同胞に向けて、勢いよく手刀を振り下ろす。
『甘いわッ! そんな半端な力で――この俺を倒せるはずがなかろうッ!』
『ウグアァッ!』
だが、光でも闇でもない曖昧な力では、この戦士を倒すことなど出来ない。簡単に手刀をいなされてしまった巨人は、地響きを立てて転んでしまう。
『ゥウ、ァ……』
『……何故だ。何故そんなに傷ついてまで、争う道を選ぶ!』
すると。巨人の胸に輝いていた宝石が、警鐘を鳴らすかのような点滅を始めた。ベルセルク星人の特徴でもある、エネルギー消耗を報せる警告機能だ。
「キュイッ! キュキュ、キュイッ!」
『……もう良い。ならば今ここで、この”ガドリュード”がお前の目を覚まさせてやる。よく見ておけ、これがベルセルク星人としての在り方だッ!』
そんな窮地に陥ってもなお、抗おうとする彼の巨人を、憐れんでか。同胞は巨人を庇おうと駆け寄る、無力な小人に狙いを定め――隕石の如きその拳を、迷うことなく振り下ろした。
『……ッ!』
この星に残された最後の命さえ、摘み取る非情の剛拳。その力が呼ぶ悲劇を予感した瞬間――光と闇の狭間で彷徨っていた、巨人の中に渦巻く力が。
『……シェアァアァッ!』
黄金という、一つの色となって――光の拳となる。
その一撃が齎す破壊力は、小人を潰そうとしていた同胞を容易く吹き飛ばし――岩肌に叩き付けてしまった。
『がぁッ!? バ、バカな……! 「闇」のベルセルク星人から、「光」の力が溢れ出しただと……ッ!?』
闇の巨人の内より出でし、光の一閃。その威力を浴びた同胞は、「裏切り者」どころではなくなった彼の巨人の力に、戦慄を覚える。
今の拳だけで、分かったからだ。彼の巨人の存在は、一族そのものを脅かすほどの「光」になろうとしているのだと。
『――ダアァァッ!』
「キュ、キュキューイ!」
そして、それはすぐに現実のものとなる。
本来の彼の巨体を成していた暗黒の色は、けたたましい雄叫びによって全て消し飛び――眩い黄金の色だけが、その身に残されたのだ。
ベルセルク星人だった頃の名残とも言える、蒼い眼で同胞を射抜き。「光の巨人」となった彼の者は、はしゃぐ小人を背にして――両腕を「L字」に構えた。
そんな裏切り者に引導を渡すべく、同胞も両腕を「十字」に構える。
『おのれェッ――ベルセルク星人たるこの俺が、「光」如きに負けるかァアァァッ!』
『――シェァアアーッ!』
刹那。互いの腕から放たれる破壊の奔流が、「光線」となってぶつかり合う。ベルセルク星人の肉体から精製され、あらゆるものを粉砕する威力を生む物質「エクシウム」の輝きであった。
その奔流と眩い閃光が火花を散らし、この暗く淀んだ空を激しく照らしている。ベルセルク星人の誰もが使える「エクシウムクラッシャー」の光が、互いの主を喰らい尽くさんとしていた。
『愚か者めがァアッ! そんな構え方の光線で――俺を破れるものかァアァァァアッ!』
『グ……グゥァッ……!』
だが――裏切り者の構え方は、本来のエクシウムクラッシャーとは異なるものであり。それ故に本来の威力を発揮しきれず、徐々に押され始めていた。
裏切り者を圧倒する同胞の光線は、その威力の余り――周囲の岩肌を、衝撃波により破壊し続けている。それら全ての現象が、エクシウムクラッシャーの力を物語っていた。
――光線の放射範囲は、狭まれば狭まるほどエクシウムが凝縮され、攻撃力を高めることが出来る。
ベルセルク星人の戦士達がエクシウムを光線として放つ際、腕を十字に組むのは少しでも放射範囲を狭め、威力を向上させるためだ。
対して裏切り者の光線は、腕をL字に構えたために本来の光線より放射範囲が広がってしまっており、全く凝縮されていない状態なのである。これでは本来の威力を発揮できず、今のように押されるばかりだ。
『ヘェアァッ……!』
しかしこれは、ミスではない。
彼の者は少しでも、腕部の放射範囲を広げることで――敢えて威力を落とし。
「キュキュ〜ッ! キュイッ!」
自分の光線による衝撃波で、後ろの小人を巻き込まないようにしているのだ。
倒すよりも、守るために使う――「クラッシャー」ではない、「ブラスター」。
――「エクシウムブラスター」であった。
『シェアァアァ……アァアァアアッ!』
『なっ……何ィッ!? バカな、こんな、こんなことがッ……!』
そして「光」に目醒め、ベルセルク星人の
構え方の不利さえも踏み越えていくほどの威力。それほどの力の奔流でありながら、周囲を巻き込まず対象だけを撃ち抜く繊細な技巧。
その全てを兼ね備えた、エクシウムブラスターは――ベルセルク星人の代名詞たるエクシウムクラッシャーそのものを、完全に凌駕している。
『うぐあ……あぁあぁーッ! これがッ……ベルセルク星人が持つ、真の力だと言うのかぁあぁーッ!?』
やがて、光線の応酬を押し切り。最後の対決を制したのは――光の巨人であった。
L字の腕から放たれたエクシウムの一撃を浴び、空の彼方まで吹き飛ばされた同胞は――遠い星の外で、爆炎の輝きに消えて行く。
「キュキューッ!」
『……シュゥワッ!』
その余波により切り払われた暗雲の上から、輝かしい青空が覗く頃。
光の巨人となった「裏切り者」は、その掌に小人を乗せて――”
「キュウ〜ッ、キュキュッ!」
滅びてしまったこの星に代わる、新天地を求めて。光の巨人と小人の旅が今、始まったのである――。
◇
そして、長い年月を経て。
この星系における全ての宇宙難民が、移住先を発見し。
彼の巨人が「銀河憲兵隊」へと招かれ――「アルファイター」と呼ばれる戦士達の一員となり、数百年が過ぎた頃。
20XX年の夏。「地球」と呼ばれる蒼い星へ降り立った巨人は――東京ドームのライブ会場を襲う、宇宙怪獣ゼキスシアを追う中で。
「……あなたは? 俺は……死んだのか?」
その心に「光」を宿す少年との、邂逅を果たしたのだった。
闇の一族として生を受けた彼に、「光」を灯した小人と同じ――穢れなき魂の持ち主。彼らの存在が、闘争に生きた闇の巨人を、「ヒーロー」へと導いたのである。
『そうだ。私は銀河憲兵隊の――』
――アルファイター・”ルヴォリュード”。
その名はベルセルク星人の言葉で、「裏切り者」を意味している。
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