最終章part14『半グレJK、事件を解決する』

蘭:大学病院内 病棟 個室前 夜


 蘭です。

 お姉ちゃんが意識を取り戻したということで、皆さんが一斉にやってきました。


「蘭ちゃん、よかったね」


 犬伏さんがいの一番に私に声をかけてくれます。

 ですが・・・。


「おい、誰だてめぇ!? かもすぞ、コラっ」

 どうやら個室に入った牧野さんを責め立てているようです。


「なんだ、物騒だな。網浜の奴、どうした?」

 

 長畑さんが不安げに私に尋ねてきます。


「実は、お姉ちゃん。記憶喪失で、性格が元に戻っちゃったみたいなんです」

「元に戻ったってどういうことだよ」


 東矢の質問に、私は答えることにしました。


「実は・・・」  


蘭:回想



蘭です。

これから皆さんに昔のお姉ちゃんのことと、お姉ちゃんが最初に関わった事件の事をお話します。


今お姉ちゃんとコンビを組んでる成田鉄平警部補も、当時27歳のやり手でした。


6年前、当時高校一年生だった私の姉、網浜凜は荒れに荒れた生活を送っていました。万引き、たかり、恐喝、苛め、サイバー攻撃。

酒とタバコ以外の悪いことは殆どやっていました。

当時10歳だった私はそんな姉を必死で支えていましたが、姉は私の言う事など聞いてくれません。

両親は姉を恐れてお爺ちゃんに託してモナコに移住してしまう始末。


本当は両親と一緒に私もモナコ行く予定だったのですが、私はそれでもお姉ちゃんのことが好きだったから、日本に残る選択をしました。


ですが、ある夏の真っ只中、お姉ちゃんの母校で今私が通っている高校、晴嵐学園高等学校の部室で殺人事件が起こったんです。


警察は学内での素行の悪さからお姉ちゃんを疑って、警察に連れて行き、事情聴取を始めました。


「ふざけんじゃねえ! あたしが人殺しなんてするわけねーだろうがよっ」

「しかし、キミ以外に容疑者に見当たる人物がいないんだ」

「だったら、その捜査、あたしにやらせろよっ自分の身の潔白は、自分で証明してやるよ!」


それを聞いた当時警部補の成田警部補とその部下の刑事はお姉ちゃんを殺人現場に連れて行くことにしました。


殺人現場を見たお姉ちゃんは、室内をくまなく調べ上げ、特に血痕を注意深く眺めていました。


「どうだ、やっぱりキミが殺したんじゃないのか?」


 部下の刑事さんはお姉ちゃんを疑っていました。

 ですが上司の成田警部補はどことなくお姉ちゃんを信じていたのです。


「網浜君、何かわかったかい?」

「・・・血痕だ」

「え?」

「血痕を調べてみな、きっと溶け出した水分が混ざってるはずだよ」

「血液の中には水分が入っている。そんな調査は無駄だ」

「長田、いいから言われた通り科学捜査班に大至急調べさせてみろ」

「成田警部補・・・」

「早くだ、0.1秒でやりなっ」

「無茶言うな、この半グレっ」

「うるせえ、全くてめえらは捜査が遅いんだよっこれだから警察は腐ってるって言われるんだっ」

「なんだとっ」

「やめろ、長田。いいから調べさせろ」

「わっ・・・わかりましたよ、警部補」


 それから数日後、残された血痕の中に、スポーツ飲料の成分が混じっていることが明らかになりました。


「どういうことだ!? 被害者は殺される前にスポーツ飲料を飲んでいたのか?」

「いえ、それが、飲む量にしては含有量が少なすぎるとの見解でした・・・」

「ふん・・・これで凶器の謎は解けたな」

「何だとっ一体凶器は何だと言うんだ!!」

「一体なんなんだ」

「凍らせた、スポーツ飲料水のペットボトルさ」

「なっなんだってっ」

「氷を舐めんじゃねえ。凍らせて頭を何度か殴れは、殺傷能力は充分ある。

 おまけに使った後は凶器も消せるって寸法だ。犯人の野郎、中々考えてやがるぜ」

「そんな・・・でもどうして氷なんだ?!」

「今のご時勢、ナイフだのハンマーだの持ち歩いてみろ。警察にパクラレたらお仕舞いだ。

 だが、凍らせたペットボトルならこの夏場は皆持ち歩いてるし、そんなもん、誰も疑ったりしねぇだろ?」

「そっそうか・・・」

「そういうことか。。。」

「で、メーカーと商品名は判ったのかよ?」

「ああ、サンタリーのアコエリアスだ」

「スポーツ飲料水はどこのコンビ二でも手に入る代物だが、店毎に微妙に品揃えが違う。季節限定品の商品もあるな。

 そいつをこの近所で売ってるコンビ二は、この近辺では一店舗だけだ」

「どこだ」

「間間狩町駅前の小さなコンビ二だ。コンビ二は俺の庭だからな。これでも色んな店の品揃えを記憶してるんだぜ」

「長田、直に直近の購入者を調べ上げろっ」

「この夏場の暑い季節だ。運んでいる間に溶けただしたんだろう。そして恐らく殴ったときに、その衝撃で容器が割れて、

 成分が血液に一部混じった。まあそんなところかな。。」


 こうして、お姉ちゃんの推理でペットボトルを購入した人物を複数特定し、その中にいた晴嵐の女子生徒が重要参考人として浮かび上がりました。そして彼女は容疑を認め、事件は解決したのでした。


「ありがとう、網浜君。キミのおかげで事件は無事に解決できたよ」

「ふんっ人を散々疑っておいて、何、手のひら返してやがるんだ、ぼこるぞタコっ」

「警察からキミに感謝状と捜査協力金を渡したい。受け取ってくれるか?」

「いらねぇよ、んなもん。あたしは身の潔白を証明できただけで充分だ。わかったらもう二度とあたしに関わるなっ」

「その、キミの推理力は凄い。もしよかったら、今後も事件の解決に協力してくれないか? 頼むよ」

「・・・ふん、このあたしの悪事に目をつぶるかい?」

「ああ、目をつぶる」

「ふん、なら、暇があったら考えておいてやるよ。じゃあな、ポリ公」


 それからお姉ちゃんは警察から感謝状と捜査協力金を貰い、ふて腐れて悪態を付いていましたが、 内心満更でもない様子でした。


 そしてそれ以降、お姉ちゃんは成田警部補と供に色んな事件の捜査に関わって解決していくことになり、その過程で、少しづつ、変わっていったんです。



蘭:大学病院内 病棟 個室前 夜

 

 蘭です。

 皆さんに、お姉ちゃんの真実を話しました。


「なるほど、それが網浜の過去か・・・意外すぎて、言葉も出ないな」


 長畑さんが困った様子でした。


「それでどうして今みたいな子になったの」


 指野さんが訪ねてきます。


「成田警部補の尽力です。お姉ちゃんを粘り強く褒めて、支えて、認めて、名探偵と呼ばれるまでに育ててくれたんです。お姉ちゃんは自分の存在全肯定してくれる存在が出来て、人間的にも変わっていって、それからは悪事からも足を洗い、警察にその類まれなる推理能力と実績を買われて、高校三年生の時に警察にスカウトされたんです。 お姉ちゃんは拒んでいたんですけど、とある連続殺人事件で特定した容疑者を自殺させてしまって・・・・。それがショックで、お姉ちゃんは自殺したいって何度も私に口にして・・・。それ以降、人が変わったように自分を偽るようになりました。そしてお姉ちゃんはスカウトを受け入れて、高校卒業後、大学には進学せず警察学校に入学したんです。そして直に本庁の捜査一課の刑事になりました。今も成田警部補と活動を供にしています。二人はコンビを組んでるので、今姉ちゃんが追ってる事件も、きっと成田警部補が一緒のはずです」


「それで、成田警部補は出世したのか?」

「成田警部補に出会って、お姉ちゃんは更生したんですが、警部補は姉の教育に相当苦労したようで。優秀な刑事だったのに、お姉ちゃんのお陰で評価は上がったけど未だに警部に昇格できないって、よく私に愚痴ってきます」

「両親は?」

「お姉ちゃんが怖くてモナコへ逃げ出していってしまいました。でも私は姉が好きだから、よく協力したりしてました」

「そうだったのか・・・」

「信じられない。まさかあの網浜が半グレだったなんて・・・」

「人は見かけによらないものね、あたしより最悪じゃないの」


 日下さんが吐き捨てるように言いました。


「全く、返す言葉もありません」

「お前ら姉妹って、ちょっと頭どうかしてるぜ」

「よけいなお世話です」

「なんだと」


 私は東矢と睨み合いました。


「おいよせ、二人とも。それで、お姉ちゃんの記憶喪失はどうなんだ? 元に戻りそうなのか?」

「わかりません・・・医者は時間が必要だと・・」


「そう・・・まあ、命が助かっただけでもよかったけど、あの状態じゃあ、捜査どころじゃないわね」


 指野さんは残念そうに呟きます。


「お姉ちゃんの代わりに、この名探偵の妹の私が事件を引き継ぎますので、その点はご安心をっ」 

 

 私は得意げに胸を拳で叩いてみせましたが、正直自信がありません。

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