第二部第四話part5『上杉君、天使と手を繋いで登校する』


牧野:牧野の実家の寿司屋 家の広間 昼


 牧野です。年が明けてお正月です。私は実家に帰省して、

 今は実家の広間でお父さん、お兄ちゃん、寿司屋の職人達とおせち料理を摘んでいます。

 会話という会話もなく、TVもつけてないので静かです。

 私はお父さんにスケールという事務所にスカウトされたことを話すことにしました。


「ねえ、お父さん」

「何だ、玉藻」

「私、事務所にスカウトされたんだ」

「何だってっ」


 兄の魚雅が叫びました。というか顔に幾つも傷がある。また喧嘩でもしたのかな?


「魚雅、その顔、どしたの?」

「そんなことはどうだっていいだろっそれより一体どこだ、どこの誰だっ」

「スケールっていう大きな事務所みたいなんだ・・・」

「スケールって言えば、大物俳優やらミュージシャンやらが多数在籍している大手プロダクションじゃねぇか!」

「魚雅、知ってるの?」

「知ってるさっ」

「お父さん。私の夢、一歩前に進んだよ」

「そうか・・・」

「・・・それだけ?」

「他に何か?」

「もっと、他に私に言う事無いの? 頑張れっとか、応援してるぞっとか、そういう言葉は無いわけ?」

「・・・無い」


 お父さんは、私の前では酷く無口です。昔はあんなに明るかったのに。

 まだ子供だったの私達にベースを買って教えてくれたのもお父さんだったのに。

 お母さんが死んだときから、変わってしまいました。

 穏やかで平穏な日々だったけど、私はもっとお父さんと話がしたいのに・・・・一体どうしちゃったんだろう。


「もう、いいよ。お父さんには、プロになっても事後報告するからね」

「・・・そうか」


 私はふてくされてお雑煮を掻き込みました。


上杉:上杉の家 リビング


 上杉です。お正月はあっという間です。もう明日からは学校です。まあ僕は行かないけど。

 それにしても犬伏さんと話してしまった。犬伏さん、やっぱり真近で見ると本当に綺麗な人だったな。

 おっぱい大きかったし。。。。

 牧野さんや網浜凜さんも捨てがたいけど・・・。

 ああ、犬伏さん、やっぱり僕はあなたが好きだ。この想いを、伝えたい。

 この恋を、なんとしても成就させたい。


 後ろでは天使の通い妻、網浜蘭ちゃんが部屋を掃除機かけしている。騒音の出ないタイプの掃除機なので静かなものだ。


 と、蘭ちゃんが掃除を終わらせて、僕に話しかけてきた。


「ところで上杉さん。実は今日はお願いがあるんです」

「お願い? 何?」

「この私と一緒に学校に行きませんか?」

「えええええええええええええええ」

 

 僕は思わず大声を出してしまった。


「学校に行くなんて、考えられない。ダブりの僕は、きっと下級生の同級生から馬鹿にされるに決まっているんだ。」

「そんなことありません。あなたの身の安全は、この私と、そのご学友達が保障しますっ」


 蘭ちゃんが力強く胸を叩いた。


 僕は苦悩した。学校に行ったら、皆に白い目で見られる。恥ずかしい・・・・。

 でも牧野さんとライブをして、少しだけ勇気を出せそうな気もするんだ。

 ああ、でも、僕は、僕は・・・。


「この私と手を繋いで、恋人風に登校しましょう。それならどうです?」


 手。

 天使のような可愛さを持っているこの超絶美少女と、恋人風に、登校・・・?


「はい、喜んで」


蘭:私立晴嵐学園高等学校 校庭内 朝


 蘭です。ただ今上杉純夜君と手を繋いで登校しています。

 皆上杉君の事を知っているのか、彼を見て騒いでいます。


「蘭ちゃん・・・やっぱり、僕、恥ずかしいよ」

「勇気を出してください、上杉さん。あなたは私と同じクラスです。全力で守りますから、一緒に頑張りましょう」

「蘭、ちゃん・・・」


 僕は小さくうなづくと、勇気を出して大地を踏み出して歩く事にした。

 牧野さんも勇気を出したんだ。僕だって、出来るはずさっ。


上杉:教室内 朝


 上杉です。僕の机は蘭ちゃんの隣に用意されていた。

 早速僕は椅子に腰をかけた。


「まあ、上杉様。何故ここに?」


 僕にとくっぺちゃんが話しかけて来てくれた。


「ああ、実は僕、ダブりでここの生徒なんだよ」

「まあ、そうだったんですかっ驚きですうっ」


 とくっぺは両手を口に当てている。本当に驚いているようだ。


 と、僕を見かけた男子、女子生徒達が僕の事を噂し始めた。


「あいつ、上杉じゃねーの」

「ホントだ、ダブりの人だ」

「なんで学校に来てるの? ウケルんだけど~」


 くっ・・・屈辱だ。こんなことなら学校に来なきゃよかった。

 所詮僕には居場所なんて、家にしか無いんだ。


 と、蘭ちゃんが席から立ち上がり、ゆっくりと僕の噂話をしている生徒達の方に向かっていった。


「うわ、なんか来たぞ」


 そして蘭ちゃんは無言で大きな身振り手振りで生徒達を指刺したり、抗議を示す動作をし続けた。

 怒ってる。あの天使ちゃんがサイレントで怒っている。この僕のために・・・。


「なんだよ~怖いよ、委員長」  

「やばいよ、行こう」


 生徒達がそれぞれの席に戻っていく。


 蘭ちゃんが戻ってきて、僕の前に立った。


「もうこれで大丈夫ですよ、上杉君。何かあったら、この風紀委員長の私が解決しますからね」

「蘭ちゃん・・・」


 ・・・ありがとう、天使ちゃん。

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