第二部第一話Part8 『東京蹂躙』
犬伏:真琴の家 玄関前(夜)
犬伏です。
真琴の家にやって来ました。
もう戻らないつもりだったけど、やっぱり彼女が気になるから。
インターホンを押しました。出ない。
あたしがボーっとしていたら、階段から誰かが上がってきました。
楽しそうに話をしてる。男女かな?
あたしは上がってきた二人の方を向きました。
一人は真琴。もう一人は、見たことない、金髪にピアスのチャラそうな男。
「あ・・・真琴」
「(犬伏を見て、気まずそうな表情)」
「誰? この女、ガリペロちゃんの知り合い?」
「ガリペロ?」
「違う。ぜんぜん違う。ごめんなさい、何か用ですか?」
「いや、真琴のことが心配だから・・・来てみたの」
真琴は鬼のような形相で近づいてきて、あたしを突き飛ばした。
「いたいっ」
「(無視して)いいよ、ランド君。中に入って」
ランドと呼ばれた男「オッケーイ」
真琴とランドと呼ばれた男はあたしをさし置いて部屋に入っていった。
一体何、何なの?
あたしはドアに耳をあて、中の音を聞いてみることにした。
前金だからね、という真琴の声が聞こえた。
これは、まさか・・・。
あたしは、そのときなんで直ぐにドアを叩いて中に入ろうとしなかったのだろう。
中で起こっていることを確認するのが怖くて、
あたしは、逃げるようにアパートから離れてしまった。
網浜:ライブハウス ヘルズゲート入り口前(夜)
アミリンでっす。
今日はタマちゃんのお兄さんのバンドが出演するライブを観に来ました。
入り口前には元タマちゃんが所属していた、
スペルマ・・・ズサスペンションズのポスターが貼ってある。
こんなこと口にしたら、凜はお嫁にいけません。
タマちゃんもサスペンションズって言ってるし。
サスペンションズということで統一させていただきます。
ポスターの写真は、メイクをしているので顔は分かりません。
それより本日は、何故か、蘭も付き添いと称してやってきています。
蘭が目の前に立っているタマちゃんを睨んでいる。
ああ・・・まずい事にならないと良いのだけど・・・。
「なるほど。あなたが牧野たま~もさん、もといススガタマさんですか。
少々太めの眉、色白、聞いていたどおりのイケメンガールですね。
姉が友達捕獲大作戦にて自ら陣頭指揮を執り戦車を盾に歩兵を前進させ続け、
その一方で観測手も付けずに1000m先から窓際の拠点にいる司令官を打ち抜き、混乱に乗じて、奪取するだけの価値はあるだけの女性ですね」
「え・・と。何、言ってるの、この娘?」
「(頭を軽く押える)」
「だが、所詮18歳など大海を知らぬ蛙同然。私の姉とつりあうだけの人間か
どうかは、今日この私がしっかりと判別させて頂きます故、何卒ご理解頂
きたく存じます」
「は・・・はあ」
「ごめんね。この娘、ちょっと頭がおかしいんだ」
「おかしいのは姉の周りの人間達です。かっこ私を除くカッコ閉じる
。まあ、この間の東矢とかいうボウフラ汚物とは違ってあなたは女性です
から、多少はこの私もやさしく接してあげようと考えている所存にござい
ます」
「蘭・・・あんた、本当に口が悪いね。」
「そっそっか。じゃ、仲良くしてね、蘭ちゃん」
「初対面の、それも会って間もない人間に対して、年上だからという
理由だけで気安く下の名前で呼ぶという無礼な行為に対し、まず減点3、
とさせていただきます」
タマちゃんが、もの凄く助けてほしそうな目で凜のことを見ている。
「こら、蘭! お姉ちゃんのお友達なんだよ!!
ちゃんとしないと、怒るよ!」
「分かりました。では、百歩譲って下の名前にちゃんを付ける呼び方は許容しましょう。ですが勘違いしないでください。お姉ちゃんとあなたがお友達、なのであって、私とあなたはお友達じゃありません。くれぐれも 勘違いなさらぬよう、
私と接する際は最大限の敬意を示す、言葉を交わすときは常に羨望の眼差しで見つめる、定期的な心づけなどは常識。それらすべてを肝に銘じた上で私とあなたとの公平な関係を」
凜は一人で延々としゃべり続ける蘭を無視して、タマちゃんの手を取って
ライブハウスの中に入っていくことにしました。
「妹さん、まだしゃべってるよ」
「いいの。もういいの」
「お姉ちゃん、ちょっと待って!!」
網浜:ライブハウス ヘルズゲート内 小ホール(夜)
アミリンでっす。
以前のマーキュリーFMとは違い、薄暗い店内です。
ついにライブが始まりました。
今回は対バン形式らしいです。
前の演奏者が、「次は、スペルマスサスペンションズ!」
と大きな声で叫びました。
そして、舞台に3人の男たちが入ってきました。
一人はドラムに座り、一人はベースを持ち、
もう一人が中央でギターを持ちつつ
マイクスタンドの前に立ちました。
ポスターと同じ化粧している。
演奏が始まりました。
ブラックメタル系の音楽です。 とっても激しいです。
と思ったら、観客が一斉にホールから離れ、
隅に移動するもの、トイレに行くものが後を絶ちません。
タマちゃんはお兄さんの音楽に首をガンガン縦横に振って
飛び上がってノリノリですが、彼女以外は白けた空気です。
と思ったら、妹の蘭もタマちゃんと一緒にノリノリです。
そういえば、うちの妹、メタル系が好きだったな・・・。
「暗黒少女がいないサスペンションズなんて、もう興味ねえな」
「ああ、もう、あいつら解散するんじゃね」
凜の耳に、はき捨てるかのような男性客の会話が飛び込んで来ました。
タマちゃんにも聞こえてはいないみたいで、相変わらずノリノリ。
でも、ノリノリなのは、タマちゃんと凜と妹の三人だけでした。
牧野:ライブハウス ヘルズゲート内 控え室(夜)
牧野です。
お兄ちゃんのライブパフォーマンス、最高でした。
もうほんっとうに凄かった。私がいなくても、サスペンションズは永久に不滅です。
「魚雅、今日のパフォーマンス! 最高だったよ」
化粧を落としているお兄ちゃんに声をかけても、
返事はありませんでした。
鉄砲豚さんも、ジョーさんも、無言でした。
「みんな、どうしたの? 元気ないよ。燃え尽きちゃった?」
「いや、そんなことないさ。残り僅かを楽しんだよ」
「わずか?」
「馬鹿! 何言ってるんだっ」
桝井「(しまったという表情)」
鉄砲豚さんの言葉で、控え室の空気は重たくなりました。
その後、お兄ちゃんが口を開き、二人を外に出しました。
「玉藻、大事な話がある」
「話って、何? この間の続き?」
「いや。俺は、音楽を、辞める」
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