第六話part14『告白』

網浜:レインバス屋上 (昼)


 ・・・アミリンです。

屋上には人がまばらです。

バレーボールしてるグループがいますね。

凜は今、牧野さんを探しているんです。

ランチに誘ったんですが、

今日は1人で屋上で食べるからと言って、

そそくさと営業事務から出て行ってしまいました。


「タマちゃん、外は寒いよー。せめて中でご飯食べようよー」

牧野さんは、屋上のやたら隅っこの植え込みのレンガ柵に1人ポツンと座っていました。近くには清掃用具が置いてあります。


 そんな汚いところで、彼女は、まるで人の目を避けるように

俯きながらサンドイッチを食べてました。何だか凄く淋しそうで、哀愁を感じる姿です。


「タマ、ちゃん・・・」

凜は急いで、笑顔で牧野さんの隣に座りました。

「ターマちゃん。外寒いよ。せめて休憩室で食べよう。

 凜、コンビニでお弁当買ってくるからさ」


「ごめん。今日は、騒々しいところに行きたくない(小さな声)」

「タマちゃん・・・」


「この間は、しょっぱい感じになっちゃってゴメンネ。

 アミリンのお誕生日に、最高のプレゼントを送りたかったのに・・・」


牧野さんの、サンドイッチを持つ手が大きく震えてる。 

傷ついてる。牧野さんは、とても傷ついてるんだ。


 凜は、思わず涙が出そうになりました。

でも凜が泣いたら駄目だと思って、必死に涙を堪えました。


 「伝わったよ。タマちゃん、最後にベース弾いたでしょ。

 あれ、ホントに凄かった。真剣な気持ち、感じたよ」


「ありがとう、アミリン・・・」

「次の路上ライブ、楽しみにしてる」


「楽器を修理に出すから、暫くは出来なくなっちゃった。

 それに今は、ちょっと、演奏する勇気が出ない・・・」


「勇気・・・」 


凜達が話していたら、


 屋上に東矢さんが営業部の社員さん2人を連れてやって来ました。

ケータイをいじってネット柵に体を預けつつ談笑してる。 ・・・そうだ。

「それなら、凜の勇気をタマちゃんに分けてあげるよ。見てて」


凜は立ち上がって東矢さんの方に向かって走り出しました。

「あれは、ヒガシさんだ・・・」

「ヒガシさーーーんっ」

「(網浜の方を向き)? 網浜、なんだよいきなり」

「凜、実は東矢さんに一目惚れしちゃってたんですっ」

「(仰天した表情)」

「(唖然とした表情で、サンドイッチを地面に落とす)あっ」

「なので凜と付き合って、毎日、イチャイチャして、下さーいっ!!」

「東矢ーーー、お前もてるなぁ」

「ヒューヒュー」

「こっ・・・断るっ」

「断られたぁっ」


「凜は一回断られたぐらいじゃ、へこたれません!

 今のは挨拶代わりの、ジャブです!!! 必ずまた告白しますからーっ

 まずは、とりあえずイチャイチャしましょう!!」

「イチャイチャだってよ」

「モテル男は辛いねー」

「(怒りの形相)お前、ちょっとこっち来い」

東矢さんに腕を取られて、どこかに連れて行かれそうになりましたが、

牧野さんの方を向いてガッツポーズしておきました。

「勇気出してーーータマちゃーーーん」

「何抜かしてんだ、こっちこい。」

「ありがと、アミリン。・・・(苦笑)。

 私、頑張る(拳を見つめる)」



牧野:レインバス休憩室 (午後)


牧野です。今、私は沖田課長と向かい合って座っています。

自分が音楽をやっていることを打ち明けました。


「そう、あなた音楽やっているのね」

「はい、あと、土曜日にバイトもしています」

「そうだったの。話してくれて嬉しいわ」

「いえあ、の、私、ちゃんと真面目に働きますんで。残業もできますんで。


 

なので、その、・・・私のこと、見捨てないで下さい!!」

「(周りを見つつ)見捨てないから、安心して(引きつった笑み)」


「ありがとうございます」

「そっか。これから牧野さんは三足のワラジを履くことになるのね」

「私、ワラジなんて持ってませんけど?」


「うん、例え話だから聞き流してね。

 じゃあ例えを代えましょう(苦笑)」

「はい」

「私はね、人妻なの。そしてお母さんでもあり、会社勤めもしている」

「大変ですね」

「うん大変。休日も、お休みはありませーん。

 でもそれは牧野さんも同じよ。」

「私も?」

「あなたはこれからミュージシャン目指しつつ、

 ジュリエッタ、レインバスで勤務するんでしょう。

 走り続ける自信、ある?」

「あります。弱音は吐きません。勇気、出します」

「よし、わかった。

 じゃあ多少の事は大目に見てあげるから、頑張ってね。」

「はい。宜しくお願いします」

「こちらこそ。仕事に戻っていいわよ」

 私は立ち上がって深々とお辞儀をし、

休憩室の出口に向かいました。

「(残念そうな表情で、息を吐き)予感的中、か・・・」


長畑:長畑の家321号室 リビング 夜



長畑だ。


 今、ダーツ盤で遊んでいるところだ。


 

リビングのソファで、犬伏がクッションをもって体育座りしている。


 

なんだかボーっとしていた。


 あいつ、一体どうしたんだ。

「ねえ、れん坊。」

「なんだ」

「あたしたちってさ。なんだかんだで結構付き合い長いよね」

「ああ、そうだな。色々あったもんな」

「これからも、よい友達でいられるといいよね」

「なんだよいきなり。当たり前だろ。俺達は、これからもずっと友達さ」

「・・・そうだよね。ありがとう、れん坊」

「どうしたんだ、急に」

「(間をおいて)昨日ね、ちょっと怖い夢をみたの」

「怖い? どんな夢」

「れん坊が、黄色い潜水艦の中に閉じ込められて、

 深い深い海の底に沈んでいってしまうの」

「・・・もしかして、俺、死んじゃった感じ?」

「わからない。だから、ちょっと怖かった。

 れん坊が、今あたしの前からいなくなったら、

 どうなるんだろうって思ったら、なんだか涙が出てきちゃった」

「大げさだな」

「大げさじゃないよ。」

「大丈夫だよ。俺はどこにもいかないし、一緒にいる。安心しろって」

「・・・うん」

「じゃあ、俺はそろそろ寝るわ。お前も早く寝ろよ」

「待って、れん坊。あの、ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「なんだ」

「この間のレストランの後、一体何があったの」

「何がって。何もないよ。彼女にバレッタを返しただけ」

「・・・そうなんだ。結局あたしが最初に言った通りだったんだね」

「言われてみると、そうなるな」

「・・・公園で、牧野ちゃんと会ったの?」

「どうして? 会う約束とか、してたの?」

「いや、たまたま。牧野さん、俺見てすぐ逃げちゃって」

「逃げちゃったんだ(微妙な笑み)」

「ああ、それでバレッタを落っことしちゃったんだ。

 最初は牧野さんだと思わなかったからさ、

 分かったときはビックリした」

「牧野ちゃんって、ちょっと・・・ドジだね(微笑)」

「そうだな。でも、可愛いよな(笑顔)」

「(顔を曇らせる)」

「ん? どうしたんだ」

「別に。確かにあの子、凄く可愛いよね」

「ああ、動きとか、仕草とかもな」

「・・・好きになったりとか、してないよね

 (長畑を不安げな表情で見つめる)」

「(驚いた表情で)なってないよ。何、言ってるんだ」

「ダメだよ。あの子は同じ職場の仲間で、

 ・・・あたしはあの娘の教育係なんだから。

 東矢君じゃないんだから、しっかりしてよね」

「分かってるって」

俺はとりあえず笑っておいた。

「・・・もしこの先、万が一好きになっちゃたりしたら、

 そのときは、絶対に、前もってあたしに言ってね」

「ああ、言うよ」

「絶対だよ。約束だからね」

「約束する」

「よし。じゃあ、指きりしよう」

「指きり? お前って、ときどき本当に子供だよな」

「いいじゃん。しようよ」

俺は犬伏と視線を合わせて指きりをした。

犬伏は、いつもとは違ってニコニコしていなくって、

ちょっとだけ困ったような顔をして、

ほっぺを少し膨らませていた。


ごめん犬伏。

あのときの俺には、このときのお前の気持ち、

まったく理解できていなかった。

俺のこと、許してほしい。






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